8.兄妹
凡その目星がついたので、近くのコーヒーショップで休憩した。
「よさそうなものは契約を保護者名でしないといけないから、帰ってネットで申し込むことにすると、使えるのは早くて2、3日後かな。」
「真っ先に登録して欲しいな?」
「勿論だよ。」
「フフ、嬉しいな。恭にぃとこんな会話ができるようになるなんて・・・。」
健気な理佐ちゃんに癒される・・・。
「そうだ!今日、嘘告してきた子に謝罪されたよ。」
「そうなんだ!それでどうしたの?」
「うん、正直、嘘告の後って、クラスの男子と盛り上がったり、理佐ちゃんとこうして、つ、付き合い始めたりしたことの方が大きな出来事で、嘘告自体どうでもよくなっていたんだ。だから謝罪も受けたし、もういいよってことで終わらせたよ。」
付き合うって言葉にするとまだ照れるな・・・。
「恭にぃ優しすぎ。人が良すぎるよ~。でもそんなところがいいんだけど・・・。」
「んっ?ちょっと後の方が聞こえなかったけど。」
「ううん、いいのいいの。」
ちょっと顔が赤いけど、まあいいか。
「それで、その子が言うには、嘘告に絡んでいたのは、4人だけらしいんだ。」
「でも、恭にぃクラスの女子から笑われたって・・・。」
「まあ、人の不幸は蜜の味って言うし、そんなに深く考えず笑ってたのかもね。どちらかと言うと、それで男子が俺の為に腹を立ててくれて、若干クラスの雰囲気が悪いというか、男女の対立構造というか・・・。自分が発端だから申し訳ないなぁって。」
「恭にぃが発端じゃないよ。嘘告した人が発端だよ。でも、お兄ちゃんがなんとかするんじゃないかなぁって思っているの。彼女さんのこともあるし。」
「あっ!そっか、そこに全く気を回せてなかった・・・。健一には世話になりっぱなしなのに・・・。ホント俺って周りが見えてないな。」
「そんなことないよ!私も小さいころからいっぱい助けてもらったもん。恭にぃの優しいところもよく知ってるから!」
理佐ちゃん・・・。
「ありがとう。理佐ちゃんからもたくさん元気を貰ってるよ。」
思わず理佐ちゃんの両手を包み込むように握ってお礼を言った。
「わ、私もだよ。」
顔を赤くして真っ直ぐ見つめてくる。綺麗な瞳から目が離せないのでしばらく見つめ合ったままでいた。
もういい時間になったので、理佐ちゃんを家に送っていく。
この前と同じように腕を組んでいて、照れもあるけど嬉しさの方が大きい。
なにより理佐ちゃんがニコニコ笑ってくれてるのが嬉しい。
残念ながら、至福の時間は家に到着して終わってしまった。
「じゃあ、また夜に。」
「うん。チュッ。」
と、理佐ちゃんが不意打ちで頬にキスをして、走って玄関のドアから家に入って行った。
俺は少しボーとしながら頬を手を添えていたが、
「まったく・・・、家の前で何をやってるんだか。まあ、仲良くやってるようで安心したけど。」
ハッとして振り返ると健一がニマニマしながら近づいてきた。
確かに家の前って考えるとかなり恥ずかしかった。理佐ちゃんはご近所さんに見られても大丈夫だろうかと余計な心配をしてしまったが。
「ああ、あ、そうだ。今日、平野さん達から例の嘘告の謝罪をされたよ。」
「ん?それでどうしたんだ?」
「うん、別にもうどうでもよくなってたから、謝罪は受けてもう終わりでってことにした。」
「相変わらず、お人好しだな。お前がいいんなら、俺がどうこう言うこともないけどな。」
「でも、嘘告の当事者は4人だけだったって健一にも伝えたって、言ってたけど。」
「多分、亜弥がなんか言ったんじゃないか。あのカラオケボックス行ってたときも、亜弥から再三『私は笑ってないよ』『女子全員がやった訳じゃない。誤解しないで』って必死なメッセージが来ててな。俺の方は、男子で盛り上がってたから返信後回しで放置してたんだわ。」
「ああ、ゴメン。さっき理佐ちゃんと話してて、健一達のこと思い出して、何か自分の事だけに必死で申し訳なかった。」
俺は、不甲斐なさを感じながら謝った。本当に俺って・・・。
「いや、あの状況でそこまで気が回らないだろ。まあ、こっちもとりあえず落ち着いたから。ああ、誤解するなよ。別れたとかじゃないぞ。色々今回の件の情報交換とかもしたしな。」
「そっか、俺のせいで教室の空気が悪くなってるんじゃないかと・・・。」
「いや、それは嘘告に関係なかった女子が笑ってたからだろう。そっちはいいのか?」
「うん、それも正直どうでもよくなった。人の不幸は・・・って言うしね。他人にとって面白いのは仕方ないでしょ。あと、別に復讐とかする気はないけど、一番の復讐は自分が幸せになることだって聞いたこともあるし。気にせず前向きにいこうと思ってるから。」
そうだ、気にしても仕方ない。
「綾辻のことはいいのか?あいつも笑ってた様に見えたけど。」
ドキッとした。ここ数日は、ほぼ頭の中に浮かびもしなかったのに、いざ会ったり、名前を言われるとまだ棘のようなものが刺さっている様な感覚はある。
「正直あの瞬間はなんでだよ、って思ったよ。でも、よくよく考えれば付き合ってた訳でもなく、好きだとか言われたこともないのに、俺が勝手に裏切られた気になっただけなんじゃないかって。ただの幼馴染って言われてたのにね・・・。だから許す許さないとかいうことじゃなくて、もう少し時間をおけば冷静に話せるかも。」
「やっぱりお人好しすぎるわ。まあ、恭平がクラスの雰囲気が悪いのを気にするなら男子には俺からその辺のことは連絡しておく。まだスマホ持ってないだろうし、連絡先も碌に知らないだろう。」
「いやぁ、おんぶにだっこで申し訳ない。」
ちょっと茶化した様に言ってみる。
「ふっ、俺の方こそ、お前のお陰で高校受かった様なもんだし、お互い様だ。スマホ買ったら男子のグループ登録しろよ。たまには男同士でつるんで遊ぶのも良かっただろう?」
「分かった。でも真っ先に登録するのは理佐ちゃんって約束してるけどね。」
「お前ら、ホントに一気に仲良くなったよな。」
「まあ、うん、そうかな。」
そうだな。ゲームで繋がってたとはいえ、節操ないのか俺・・・。
いや、いいんだ。自分の気持ちに素直に生きよう。