7.謝罪
月曜の朝、起きて学校へ向かう。
色々と衝撃的な週末を過ごした結果、心は温かく、高揚している。とはいっても、浮かれて何も手につかないという状態ではなく、むしろ集中力が増している感じだ。
こういう状態の時は、授業時間が非常に短く感じ、あっという間に放課後になった。
なのに今、1人教室にいる。
たまたま日直だった為に、担任に雑用を押し付けられたからだ。アンケートの集計だったので、長くても1時間もあれば終わるが、今日は理佐ちゃんと待ち合わせをしていた。
仕方なく、帰る間際の健一を捕まえて理佐ちゃんに遅れることを連絡してもらった。
理佐ちゃんから了解の返信が来た後、呆れたように言われる。
「もうそろそろ諦めてスマホを持てよ。」
「いや、諦めるっていうほど頑なに持たなかった訳じゃないよ。持つほど必要性を感じなかっただけで。だからこそ今日、契約する前の下見に行こうって理佐ちゃんと約束してたんだし。」
「おう、とうとう年貢の納め時か。」
「いやだから、そんな大層な決意があって持たなかったんじゃないって。」
というやりとりを思い出しながら作業を続けていた。
「和田君?」
急に話しかけられ、顔を向けて思わずビクッと反応してしまった。表情も険しくなっているだろう。
そんな様子を見て苦笑しながら平野つくしが近寄ってきた。更に後ろに3人いる。
「急に話しかけてゴメン。でもその反応もしょうがないよね。」
この前の時とは違い随分と穏やかで、少し悲し気な態度に面食らってしまう。
「この前はごめんなさい!!許してもらえないのも仕方ないけど本当にごめんなさい。」
「「「ごめんなさい。」」」
「ど、どうしたの?」
「今更なんだ って思うのも当然だけど、やっぱり私のしたことは和田君を傷つけた筈だし、謝らないといけないと思って。」
その後のクラス男子との交流や理佐ちゃんとのことの比重が大きすぎて、正直もうどうでもよくなってたんだけど・・・。
「あと、ハッキリさせとかないといけないのは、あの嘘告に関わったのは、私と後ろの3人含めて4人だけなの。あの時、斎藤君の言い方で女子全員がグルみたいに思われたのかと思って・・・。」
「そ、そうなんだ・・・。でもそもそも何で嘘告なんかしたの?」
「あれは・・・、私達の中での罰ゲームだったんだ・・・。」
「なんで俺だったの?」
「和田君って、自分の事どう思ってる?陰キャとかボッチとか思ってない?まあ、私もこの前そう言っちゃったけど。でも正直、クラスの男子は一目置いてるし、女子も密かにいいと思ってる子もいるんだよ。でも和田君って周りを見てないというか、興味がないって感じだったでしょ。だからターゲットにしたら面白いかなっていう軽い理由で。今考えると本当に申し訳ないんだけど。」
ああ、今ならなんとなく理解できる。俺が勝手に周囲に壁を作っていただけだったってこと。
「しかも、結局あの嘘告でクラスの雰囲気、特に男女間の雰囲気を悪くしちゃったし・・・。」
平野さんが心底後悔しているように言う。
「ええ~と、思い出せばちょっと腹も立つけど、正直あの後の自分の状況を考えるとかなり前向きに進展してて、だから、うん、謝罪は受け入れるからこれで終わりにしよう。」
「ホントに?実は謝罪さえ受けてくれないかと思ってて・・・。」
ホッとした様に呟く。
「それで、どうしよう?俺から男子に広めようか?」
「ううん。女子で関わったのが私達だけっていうのは、金曜日に斎藤君に説明しておいた。最初は胡散臭そうにしてたけど、一応男子には伝えておくって・・・。和田君はスマホ持ってないからって。」
健一・・・。
「じゃあ、謝罪受けたってことは?」
「それは、被害者の和田君が知っていればいいかなって。大々的に広めて、いかにも謝罪したからもういいでしょっ ていう態度は違うかなって思うし。」
「そう。分かった。でももう誰にもしないでね。あれって本当に傷つくから。」
「うん。もうしない。謝罪を受けてくれてありがとう。」
そう言って、4人は教室を出て行った。
なんか少し気が晴れた気がした。やっぱり人を恨んだりし続けるのも精神的に負担になるのかな。もう気にしてないつもりだったけど。
その後、雑用をとっととまとめ、担任に渡して急いで学校を出た。
家電量販店に到着し、スマホのコーナーに行くと、理佐ちゃんがスマホを眺めていた。
「理佐ちゃん。」
「恭にぃ!」
満面の笑顔だ。俺に会ったことをこんなに嬉しそうにしてくれるなんて、胸が熱くなる。
しかも、今日は制服姿で、可愛い・・・。
「制服姿、初めて見たけど似合ってる。すごく可愛い。」
「ほ、本当!?恭にぃもカッコイイよ。」
少し顔を赤くしながら微笑む。
「ありがとう。今日の遅くなるっていう連絡でも思ったけど、やっぱりそろそろスマホが必要だね。」
「そうだよね。決まった時間ならPCのチャットで全然大丈夫だけど、急な連絡となると・・・。」
そうして2人仲良くスマホとSIMカードを色々見て回った。