6.理佐side
「ああ、恭平とゲームやってるんだ。受験終わったしな。」
たまたま家の廊下で会った時、お兄ちゃんの言葉を聞いてドキッとした。
恭平とは、お兄ちゃんの小学校時代からの親友で、小学校の頃は、私も恭にぃと呼んで、後を付いて回っていた。
思えばその頃から私は恭にぃが好きだったけど、恭にぃは、昔から隣に住む幼馴染の舞香さんのことが好きだ。直接聞いたわけではないけど、親しい人が見ればバレバレだった。
見てるだけでいいと思っていたけど、中学校になると見る機会も滅多に無くなり、話す機会なんて猶更無かった。
毎日会いたい会いたいとは思っても行動に移せず、ウジウジしてしていた。
そんな時、県内でも有数の進学校、鳳凰学園の受験を終えたと、緊張感のすっかり抜けたお兄ちゃんが声を掛けてきた。
「今、休憩で、30分後にまた再開するんだ。・・・そうだ、理佐もこっそりやってみろよ。マイクは俺が使ってプレイしてるふりして会話してやるから、プレイは理佐がやってみるんだよ。おれは恭平と違って、まだガンシューティングは初心者で下手くそだから替わっても分からないしな。」
うん、ただのゲームなんだし、恭にぃと一緒に何か出来る機会なんて今は無いんだし。
「うん、折角だからやってみる。」
と、再開までに操作方法を教わった。元々ゲームは好きだし、操作方法自体はすぐ覚えた。
やり終わった結果としては、すごく面白かった。ゲーム自体もそうだったけど、何より恭にぃと一緒にやっているという高揚感にどっぷり浸かって幸せだった。ピンチに恭にぃが何度も助けてくれた・・・。
「理佐は理系好きだし、結構PCとかそういう話も合うかもな。素性を隠してゲームで近づくとかも面白いかも・・・。」
と、私が浸っていると、お兄ちゃんがぼそぼそいうのが聞こえてきた。
それだ!と思った。リアルでは、私立の女子中に通ってて接点無いし、いきなり会いに行く度胸も無い。でもネットなら・・・。今考えると迂遠すぎると思うけど、その時はいいアイデアだと思った。恭にぃがそのゲームをやり続ける保証もないのに。
「お兄ちゃんありがとう。面白かった。私もこれやる!」
「おお、そんなに興奮するな。まあ、なんだ、頑張れ。」
それから、情報を集め、知識を入れ、練習をした。PCも持ってなかったけど、今まで使い道が無かったお年玉で買った。
中3になったけど、高校はエスカレーターで受験が無い為、時間はあった。恭にぃに近づくという目標があったことは勿論、ゲームもPCも知識を得て詳しくなっていくこと自体が楽しかった。
色々楽しくなってやっているうち、小規模のオンライン大会にも参加し、被弾を恐れない荒々しいプレイスタイルで、【野獣】の称号が勝手につけられた。一応いっぱしのプレーヤー扱いをして貰えるようになったが、『そのプレイスタイルでは、ソロではこれより上は難しい』と評価されてた。
チャンスだと思った。きっかけを探していたが、不自然じゃない理由付けができる。
その頃、恭にぃもソロメインでやっており、計算しつくした立ち回りとアイテム使用、そして正確な長距離射撃から【教授】と呼ばれていた。でも私同様、ソロでは・・・との評価。
すぐさまフレンド申請した。
「デュオでやりませんか?お互いの強みを生かせると思います。」
返信までちょっと時間が掛かったが、
「喜んでお願いします。」
と返信が来たときは、お兄ちゃんがどうしたっって部屋に来るほどの声が出た。
実際、自分で言うのも気恥ずかしいが、2人の相性は抜群だった。
本当にゲームをやっている時間は楽しかった。
楽しい時間を残したいと、調子に乗って、プレイ動画の配信も始めた。
『【野獣ケンジ】と【教授KYO】のまったりプレイ』はそれなりに視聴者を獲得して、『ソロの時より格段に強い』と言ってもらえることが増えた。
しかし、恭にぃから色々と愚痴や相談を受けるようになると、ケンジとして真剣に答えるけど、心の中では痛みを感じるようになった。
現実では私は見て貰えていない。恭にぃが想っているのは別の女性だ。
でも、素性を明かせば気まずくなり、この時間すら無くなるかも知れないとの恐怖から、ネットだけでも繋がっている今の方がまだいいとズルズル継続していった。
その関係に変化があったのは、恭にぃがボイスチャットで振られたと言ってきたからだ。どうやら、告白して断られたのではなく、会話の流れで、『ただの幼馴染』と強調され、『彼氏面しないで』『あんたを彼氏なんかにするわけない』と切り捨てられたとのことだった。
最近会っていないが、舞香さんがそんなことを言う女性という印象がない為混乱しつつも、真剣に受け答えをしていた。
すると今度は、別のクラスメートに嘘告を仕掛けられ、嘲笑されたと聞かされ、本気で腹が立った。
恭にぃは、その後、クラスの男子と話して盛り上がって気持ちが浮上したらしく、良かったと胸をなでおろした瞬間、『・・・で、もっとまともな女の子と友達になって遊べってことで、紹介してやるって友達に言われてて。』という不意打ちを受けた。思わず素の反応をしてしまい慌てたけど、何とか持ち直して話を続けたが、落ち着いていられなかった。
何とかその日のプレイを平静を装って終えた後、お兄ちゃんの部屋へ突進した。
恭にぃがずっと想ってた舞香さんならまだしも、いきなり出てきた女の子に恭にぃを取られたくない。
もう取り繕うことなく、お兄ちゃんに訴えた。
「お前の気持ちは分かった。しばらく調整に時間をくれ。悪いようにしないよ。」
数日後の土曜日、
「あれ、お兄ちゃん誰か来てるの?」
気配を感じて尋ねる。
「お、おう、あれだ、いつものカズ達だ。恭平元気づけ作戦の話し合いだ。丁度いい、コンビニ行ってお茶3本ほど買ってきてくれないか?これお金。悪いけど部屋に持ってきてくれ。頼んだ。」
「もうっ。分かったよ。ちょっと行ってくる。」
「お兄ちゃん、お茶持ってきたよ。」
と、ノックした後、ドアを開けた。えっ、そこには・・・
「え、恭にぃ!?」
「あ、理佐ちゃん?・・・え~と、き、綺麗になったねぇ。」
なんで、恭にぃが?しかも今、
「え、き、綺麗って・・・。」
久しぶりに顔を見れて、恥ずかしくて顔が真っ赤になるのが分かる。
「まあ、久々の再会で嬉しいのは分かるが、まあ、理佐も入って座って。」
お兄ちゃんのしてやったりというドヤ顔を見て、仕組んだんだと気が付いた。
その後は、緊張と恥ずかしさと、そして嬉しさが入り混じって、全然冷静に話せなかったが、今までで、一番楽しくそして嬉しい日になったことは間違いなかった。