4.理佐
昼食を食べた後、のんびりしながら、3人で会話を楽しんでいる。こんな時間もなんか久しぶりだ。
「それでね、恭にぃ。配信でも、もうボイスチェンジャー止めようと思うの。元々恭にぃにバレない様にしてただけだから、もう必要ないかなって。実は、視聴者さんからのメールでね、男性っぽくしてても女の子だって分かるよって、よく言われるの。そんなに否定的な感じじゃないんだけど。」
「そうなんだ。でも理佐ちゃん声も可愛いから、一気に視聴者増えるかもね。」
「そ、そう?えっ、声もって・・・。」
「うん、だって【野獣】の称号で呼ばれてるケンジさんが、実はこんな可愛い声でしたってなったら、萌えるでしょ。」
「も、萌えるって・・・。」
また顔が赤くなった。うう、可愛い。他の男になんか見せたくない・・・、って、これって独占欲?
「恭にぃ?」
あ、考え込んでた。
「いや、何でもない!恥ずかしがる顔が可愛すぎて・・・はっ。」
ボンッって感じで自分の顔が赤くなるのが分かる。
理佐ちゃんも完全に俯いてしまった。
「だから!いきなり甘い雰囲気作り過ぎだっつの!」
と、健一に言われ、そうだ、冷静に冷静に、フ~フ~。よし。
そして、度々健一に突っ込まれながら楽しく話し続けた。
夕方になって、
「もうこんな時間か~。楽しすぎて時間の経つのが早かったね。」
「いや、お前らがいきなりラブラブ全開だからだろ。」
「まあね。」
さんざん冷やかされ続けたから、冷やかされ耐性が鍛えられたよ。
「なんだ、恭平はもう冷やかしがいがなくなったな。」
健一がつまらなそうに言う。
いや、理佐ちゃんは、まだまだ顔真っ赤だ。
「じゃあ、今日は帰るよ。理佐ちゃん今夜はちょっと早めで9時からする?」
「はい。喜んで!」
「どこぞの居酒屋か!?それにその言い方だけ聞くといかがわしいぞ。ナニをするんだ?よし、泊まっていけ、なんて許可しないぞ!」
「お、お、お兄ちゃん!な、な、何言ってるのよ!?」
もう、健一がからかう気持ちがよく分かる。
「落ち着いて、からかってるだけだから。」
理佐ちゃんの頭をよしよしと撫でる。
「う~~。」
「あーーーー、もう砂吐きそう。余所でやれ!」
そして、家に着くと、また舞香がいた。
何なんだろう。しかし、舞香のことも、こうして会わなければ思い出さなくなってる自分に驚く。好きの反対は無関心って言うけど・・・、俺ってこんなに薄情だったのかな。
「どこ行ってたの?」
「友達の家」
あれ以来、自分の口調が固いことは自覚してる。でも、どうしてもそうなってしまう。
「買い物に付き合ってって言ったのに。」
「いや、断ったでしょ!先約もあるって言ったの聞いてなかった?」
「いえ・・・、それは聞いてたけど・・・。」
尻すぼみでよく聞こえない。
「それだけ?」
「じゃあ、明日付き合ってよ。」
「明日はずっとバイトだし、そうじゃなくても俺じゃなくて、他の人誘えばいいでしょ。それじゃ。」
なんなんだ今更と思いながら家に入る。
「あ・・・。」
その夜は、早く始めたからいつもより長めにプレイできた。ケンジさんこと理佐ちゃんは、ボイスチェンジャーを外した初めての録画だったけど、いつも通りゲーム内容とごく一般的な会話をした。俺の声も加工しなくていいと伝えた。
もちろん、録画してないところでは、今まで会ってなかった期間の事も含めいろんな会話をした。
日曜日は、いつも塾で講師のアルバイトをしている。校則でもバイトは許されている。
中学生の受験クラスを受け持っているが、年が近いせいか威厳は無く、常に揶揄われている。
ただ、授業自体は分かりやすいと言ってくれる子が多い。
「先生ー。先生って鳳凰学園なんだよね?あそこって凄い難しいんでしょ?」
「うーん、世間的には難しいって言われてるけど・・・、どうなんだろう?中にいると分からないなぁ。」
授業を終え、帰りの準備をしながら質問に答える。実際、嘘告みたいなしょうもないことする奴もいるし・・・、でも勉強の出来とは関係ないか。
「はい、もう授業の質問じゃないなら終りね。それじゃあ、また来週。」
「「「じゃあね~。」」」
帰る前に家電量販店に行く。PCのパーツを見てると貼り紙が目に入った。ん、eスポーツのオフライン大会か・・・、いつものFPSのデュオもあるな。理佐ちゃん地声解禁したから一緒に出れる?でも恥ずかしがるかな・・・。と眺めていると、
「恭にぃ?」
と、腕に絡み付く理佐ちゃんが。
「びっくりした!どうしてここに?」
「ちょっとグラボを見に来たんだけど、何を熱心に見てたの?」
「ああ、これなんだけど、一緒に出れたりするかなぁって。」
貼り紙を見た理佐ちゃんが、
「出よう!絶対!会場も近いし。でも、事前にオンライン予選があるよ。」
「何回かあるけど、直近は次の土曜の午後か・・・、俺は大丈夫だよ。」
「私も大丈夫!」
「でも、観客も入るから、身バレしちゃうんじゃないかな。」
「そこはちょっと変装するとか、フフ、楽しそう。恭にぃはいいの?」
「まあ、俺はバレたところで特に・・・。」
結構いたずら好き?理佐ちゃんの意外な一面が見れたな。
「じゃあ、今日も後で練習だねっ!」
楽しそうな笑顔が眩しい。
その後、理佐ちゃんを家まで送って行った。ずっと腕を組んだままだったのが気恥ずかしかったけど、心がポカポカして心地よかった。道すがら、昨日のゲームでの立ち回り等を話しながら歩く。男女の会話っぽくないけどいいよね。
そして、玄関前で健一に遭遇し、ガッツリ冷やかされた。
理佐ちゃんは女子高なので、平日学校では会えない。なので、名残惜しさを感じながら家に帰った。日課の予習復習を済ませた後、ケンジさん(理佐ちゃん)と次の大会対策を練ったり、充実した時間をすごして寝た。




