3.ケンジの正体
土曜日、朝から健一の家に遊びに来た。健一の両親は2人とも勤務医として働いており、土曜も居ないことが多い。俺は彼らにもよくして貰っているので、居れば話し込んだりするが。
「お、よく来たな。上がってくれ。」
勝手知ったる他人のうちだが、健一の部屋はあまり変わっていない。こう見えて綺麗好きで、整理整頓、掃除がきっちりされている。
「相変わらず、綺麗な部屋だな。お、PCが新しくなってる。」
「ああ、この前、理佐が組んでくれた。」
えっ?理佐ちゃん?疑問に思って聞こうとしたら
コンコン、とノックの音が聞こえて、
「お兄ちゃん、お茶持ってきたよ。」
と、ドアが開いた。
「え、恭にぃ!?」
「あ、理佐ちゃん?・・・え~と、き、綺麗になったねぇ。」
前々から可愛い癒し系の子だったけど、しばらく見ないうちにとびっきりの美少女になっており、ドキッと動揺して老人みたいな感想を言ってしまった。
「え、き、綺麗って・・・。」
理佐ちゃんも顔を真っ赤にしている。
「まあ、久々の再会で嬉しいのは分かるが、まあ、理佐も入って座って。」
健一が声を掛けると、理佐ちゃんも素直に絨毯に座った。
「恭平、まどろっこしいのは嫌いだからさっさと言ってしまう。ここにいるのが、お前の相棒のケンジさんだ。」
と、理佐ちゃんを指差す。
「え~~!お兄ちゃん!!なんでいきなりばらすの!??」
はっ?理佐ちゃんがケンジさん?冗談・・・言ってる感じじゃないよね。どういうこと?
「恭にぃ、ごめんなさい。騙すつもりは無かったの。いつか自分で言おうと思ってたけど、言わない方が緊張しなくて話しやすくってズルズルと・・・。」
ものすごく必死に理佐ちゃんが謝ってくる。悪意なんてまるで感じない。ってことはホントなのか。でも・・・
「・・・なんか驚きすぎて、上手く言葉に出来ないんだけど・・・、ありがとう。結構愚痴とか色々リアルな人付き合いで言えないことをさんざん聞いてもらってて、いつもすごく元気にして貰ってた。本当につらい時とかも立ち直れたし。それにゲームでもあんなに息の合った連携が取れてたのが・・・、理佐ちゃんだったなんて。騙されてたとか思わないよ。ネットだけだったけど、真剣に向き合ってくれてるのが伝わってきてたから、謝ることなんてなにもないよ。」
「・・・・・・。」
「話してて包容力のある感じで、てっきり年上だと思ってたけど・・・。」
あれ、よくよく考えるとかなり恥ずかしい相談とかもしてた記憶が・・・。
理佐ちゃんを見ると更に顔が真っ赤になっていて、それを見た俺も・・・。
「ほれ、2人ともそんな顔を真っ赤にして見つめ合ってないで、茶でも飲んで落ち着け。」
お茶を飲んで、気を落ち着ける。俺は意識すれば、意外とすぐ冷静になれるタイプだ。
「でも、なんで理佐ちゃんが?」
理佐ちゃんが深呼吸をして気持ちを落ち着けながら、話し始めた。
「私、小さいころからずっと恭にぃのこと好きで、ずっと見てたの。でも、中学校に入ってから中々話も出来なくなって。そんな時、お兄ちゃんから、恭にぃがやってるゲームを教えられて、コレだって思ったの。それから色々勉強して、練習して、周りから称号で呼ばれる程度になったから、偶然って感じで恭にぃにフレンド申請を出したらOK貰えて、凄く嬉しかった。その後、タイミングを見て正体をバラそうと思ってたんだけど・・・。」
なるほど。
「俺が、結構な愚痴や重い相談をしちゃったから、言うに言えなかったと。」
「・・・うん。」
「でも、なんでゲームだったの?普通にリアルで話し掛けてくれても良かったのに。」
「その頃の恭にぃは、舞香さん以外眼中になかったから・・・。」
なんか拗ねたような目で見ながら言う。
「え、え、そうだった・・・よね。なんかゴメン。」
「でも、チャットで最近の話を全部聞かせてもらってたから・・・、居ても立っても居られなくて・・・。恭にぃ!友達からでもいいの、現実でも付き合って下さい!」
すごく必死な顔で言ってる。嘘告するような子とは全然違う。本当にかわいい。
しかも、ケンジさんとしてだったけどあんなに真剣に向き合ってくれていたんだし、俺も真剣に応えないと。
「俺なんかで良かったら、よろしくお願いします。」
「おお、良かったな理佐。」
「うん、お兄ちゃんもありがとう。」
「でも、ゲームも継続でお願いします。」
「勿論だよ、恭にぃ。次の大会は優勝しよう!」
「そうだね。頑張ろう。」
こうして、理佐ちゃんと、リアルでもオンラインでも付き合うことになった。
「さて、今日の俺の最大の目的は完了した。まだ昼前だしどうするかな?」
健一がやり切った感を出しながらいう。
「ああ、健一もありがとう。最近色々あって、改めて友達のありがたみを噛みしめてる。」
「ほら、恭平は結構真顔で恥ずかしいセリフを言える奴なんだよ。」
「そんなところもいいんじゃない。」
やめて、そう言われると照れるから。
「案としては、折角だから理佐が昼食として、手料理を振舞うってのはどうだ?」
「それいいね。でも理佐ちゃんの手間が・・・。」
「作ります!待ってて、これから準備する。」
速攻でキッチンへ走っていった。可愛いなぁ。
「俺としては、失意の恭平の隙をついて理佐をねじ込んだ感じなんだが、今の様子だと、俺は罪悪感を感じなくてもいいよな。」
「ああ、本当にありがたいと思ってるよ。でも理佐ちゃん可愛くなったな。ドキドキしたよ。」
「俺も理佐の念願が叶ってなによりだ。でも俺が言うのも何だが、大事にしてやってくれよ。」
「勿論だよ。」
理佐ちゃんの手料理は、パスタだった。短時間で作ったというのに絶品というか、俺の好みのど真ん中だった。
「美味しい!理佐ちゃんは、いいお嫁さんになるね。」
と言うと、2人は、ポケッとした顔をしている。
「あ、そうかっ!ごめん!この言い方、今の時代、男女差別になるよね。」
俺は、つい口に出てしまった失言を謝る。
「いやいや、そうじゃなくて、さっき付き合うって言ったばかりで気が早いなって感心してたんだ。」
と、健一は呆れ顔で言うし、理佐ちゃんはまた顔を真っ赤にしてアワアワしてる。
ようやく自分の発言の意味を理解し、途端に恥ずかしくなって、顔が火照るのを感じる。
「恭平は、本当に素で恥ずかしい台詞を言うよな。」
「わ、私、いいお嫁さんになれるよう頑張ります!!」
理佐ちゃんも暴走ぎみだ。
「よ、よろしく。」
という気の利かない返ししかできなかった。
「いやはや、いきなりバカップル化してるよ。」
呆れ顔で呟く健一の声がやけに遠かった。
ジャンル別日間ランキング2位、驚いています。
(瞬間最大風速だとしても)
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