2.ケンジ
カラオケボックスでみんなと楽しく過ごし、気分を大いに浮上させて家に帰ってきたら、何故か舞香が立っていた。
折角の気分がダダ下がり、自分の顔が不機嫌で歪むのが分かった。
「おかえり。」
と話しかけてくるが、生憎今の俺は話すことはない。何だかんだ怒りもあるしな。
「ああ。」
とだけ答えて側を通り過ぎて家に入ろうとした。
「ちょっと待って。あの今日のことだけど・・・。」
「今日の事って?」
自分の声が低く冷えているのを自覚する。
俺の様子に驚いたのか、舞香も黙ってしまった。
「話がないなら、入るよ。じゃあ。」
と、家に入った。
「あっ、・・・。」
今更一体何だって言うんだ。傷口に塩を塗るつもりか。
まあもう舞香の事なんてどうでもいい。吹っ切って俺はもう前向きに生きるんだ。
とりあえず、22時までに予習復習課題を済ませよう。22時からは、いつも通りケンジさんとFPSをやる予定だ。
「今日、学校でこんなことがあって。」
と、FPSゲーム画面を見ながら、ボイスチャットでケンジさんと話す。
ケンジさんとは、半年くらい前にフレンドになって、一緒にプレイしている。
この前の大会で3位となれたのも、ケンジさんと組んだからだ。
リアルでのケンジさんのことは何も知らないが、話しぶりからすると年上かと思っている。
「そうなのか、それは腹立つよね。」
ケンジさんは配信もやっているので、配信用のプレイでなくてもいつもボイスチェンジャーで話す。
ネットの繋がりなので、俺は特に気にしない。ちなみに俺の声を配信で流すときは、事前に確認を取ってくれた上で、加工してくれている。
「でも、その時、クラスの男子がその女子に文句を言ってくれて、その後カラオケボックスに誘ってくれて、そこにクラスの大半の男子が集まって盛り上がって気分が上昇したんです。そこで、一昨日お話しした、別の子に告白前に振られた話も全部ぶっちゃけちゃいました。」
「ええー凄いね、まさに男同士の話って感じ。いいねその友情!」
「ハハハ、本当にそうですね。ありがたかったです。自分では陰キャだと思っていたのに、他の男子はそう思ってなくて、むしろすごく好意的で・・・。で、もっとまともな女の子と友達になって遊べってことで、紹介してやるって友達に言われてて。」
「えっ!?」
「どうしたんですか?」
「いやいや、こうして一緒にプレイする時間減るかな、なんて思ったから。」
「それは無いです。ケンジさんとは凄く相性がいいというか、立ち回りが凄く楽に動けて、こうやって気楽に相談もできますし、この時間は大事です。」
「・・・。それは嬉しいね。僕もそうだよ。」
いつも通り、24時に終了した。
翌朝、1人で学校に行くと、健一が来ていた。
「おはよう。どうしたの、こんな早く来るなんて。」
健一がいることに驚きつつ、あいさつした。
「おう、いや早速今週の土曜日に家に遊びに来ないか?」
「ああ、いいよ。特に予定無いし。」
あっさりしたものだけど、健一とだと、気心も知れているし、こんなものだ。
教室にどんどん登校してきて、昨日参加した男子から次々と挨拶される。
なんか、改めて、自分で勝手に陰キャボッチしてたみたいで、つくづく周りが見えてなかったんだな。
ふと、教室を見渡すと、何か雰囲気がぎこちない。特に男子と女子の間の会話が無い。
もしかすると、昨日の嘘告騒ぎで、男子がかなり俺の味方になったからか?だとしたら申し訳ないけど・・・、蒸し返すのもダメだな。
なんて、考えている間に、今日の授業が全部終わっていた。
今日も、舞香とは特に会話は無いが、それを特にどうとも思ってない自分に気が付いた。
帰ろう。
ゲーミングPCや周辺機器を、家電量販店で色々眺めた後、モニタだけ4Kにしても、PCのスペックが付いてこないな。フレームレートも下がるし・・・、メモリ増強して、グラボ変えてって、とてもじゃないが金が無い、等あれこれ考えながら家に帰ってきた。
また、家の前に舞香がいた。
「おかえり。」
「ああ。」
昨日から一体なんなんだ。
「ねえ、土曜日買い物に付き合ってよ。」
何言ってんだ?
「なんで?」
「いいでしょ、暇なんでしょ。」
「いや、先約がある。無くても付き合う理由がないでしょ。そもそもなんで俺なんか誘うの?」
「なんでって、幼馴染なんだから買い物くらい・・・。」
「そう、ただの幼馴染だ。君が言った通り。彼氏とでも行けばいいじゃないか。」
「彼氏なんかいないの知ってるでしょ。」
「じゃあ、作れば。前に言った通り、俺はもう余計なお世話になるから何も言わないよ。そんなことに付き合う理由もない。」
「一体どうしたの?今までそんなこと言わなかったでしょ?」
そっちこそ何言ってんだ。ただの幼馴染、彼氏なんかになれない、余計なお世話、全部自分が言ったんだろ。
「いやいや、そっちが言ったんだろ。彼氏面するな、余計なお世話だって。」
「そ、それは・・・。」
「そもそも、嘘告されてショックを受けてる俺を女子みんなで笑い物にしておいて何言ってんの?」
「ち、違、それは私は・・・。」
「まあ、今更どうでもいいよ。もう俺に構わないで!」
「どうしたの?玄関前で大声出して。あら、舞香ちゃん、元気?」
母さんが出てきた。
「なんでもないよ。ちょっと声が大きくなっただけ。じゃあ。」
もう、面倒くさいので、2人を振り切って家の中に入った。
夜になれば、ケンジさんとFPSをプレイしつつ日常のあれこれを話し、気分が楽になる。
相変わらず、学校から家に帰ると舞香がいるが、何が言いたいのか分からない。
そうして、土曜日が来た。




