12.END
舞香の家から帰ってくると流石に脱力した。
思ったより遅くなったので、手早く予習復習課題を片付け、ログインした。
今日のケンジさん(理佐ちゃん)は、何か調子が悪かった。会話も途切れ途切れになったり、簡単に敵を見落としたり。
何か心配事でもあるのか聞いてみるも、大丈夫との答えが返って来るのみ。
直接の方がいいかと思い、明日の放課後も会おうと持ち掛けると快諾された。
よくよく考えれば、幼馴染とはいえ家に行って2人きりになったのは軽率だったから、直接会うなら理佐ちゃんに説明しておいた方がいいな。
放課後、待ち合わせ場所であった理佐ちゃんの顔色は悪く、大丈夫とは言うが、取り合えず座って落ち着ける喫茶店に引っ張っていった。
やはり昨日から様子が変だな。
「理佐ちゃん?体調が悪いの?」
聞いてみるも返事が無い。ただ首を横に振って否定するが、いつもと違うのは明らかだ。
もしかすると・・・、と一つ思い当たることを聞いてみる。どうせそれに関しては話すつもりだったし。
「健一から何か聞いた?それとも・・・、昨日の玄関先での話を聞いてたのかな?」
そう質問してみると、肩がビクッと動いた。やっぱりそうか・・・。不安にさせたんだな。
それから、昨日の経緯を話し、舞香に話した内容を誤解されないように説明した。
「それで、舞香には異性としての好意は、もう無いということを伝えたよ。」
理佐ちゃんは、話を真剣に聞いてくれた。
理佐ちゃんはこれまでも俺への好意を隠さず示してくれた。
今度は俺からはっきり伝えたい。
「それで、理佐ちゃんは前に友達からでもいいって言ってくれたけど、改めて俺から言う。理佐ちゃん、恋人として付き合って貰えませんか?」
理佐ちゃんは、ビックリしたように目を見開いた後、涙が溢れてきた。
「うう~、も、もぢろん。わだしがらも、おめがいします。」
良かった。
「ありがとう。これからもよろしくね。」
大会当日、一緒に会場に行こうと、理佐ちゃんを家まで迎えに行った。
家の前に着いたことを連絡して待つ。
オンライン予選は、何とか通過できた。かなりレベルが高くなっていて、ギリギリだったのだ。
その後、練習時間を増やし、今日に備えてきた。
「恭にぃ、おはよう!」
「おはよう、理佐ちゃん。調子は・・・、良さそうだね。」
「うん。ばっちりだよ。」
「俺は、すごく緊張しているよ。」
「それは、私もー。」
「じゃあ、行こうか。」
手を繋いで、会場に向けて出発する。
今日の大会はオフラインなので、ケンジとKYOのデュオで初めて人前でプレイすることになる。
少し前から、理佐ちゃんのプレイ動画配信で、ボイスチェンジャー音声から素の声にしたところ、視聴者が倍増した。それに加えて、今日の大会の出場者リストが公表されていたことから、一部視聴者でお祭り騒ぎとなっており、会場へ観戦しに来る視聴者もいるようだ。
「初めて人前で顔を晒してプレイするから、理佐ちゃんの視聴者さんがつめかけるんじゃないかって緊張しちゃって。」
緊張をほぐそうと、話を振る。
「でも、コメントを見ると、恭にぃの低音ボイスに魅了された視聴者さんもいるみたいだよ。」
理佐ちゃんの返しで、ますます緊張するよ。
「その帽子と眼鏡は変装なの?髪も違うね?」
さっきから気になっていることを聞いてみる。
「そうなの。でもやっぱり自意識過剰かな?」
「いや、あのコメントの熱狂ぶりだと、過剰じゃないと思うよ。」
本当に観戦にたくさん来るのか分からないけど・・・。
「恭にぃも、髪型変えるだけで印象変わったよ。」
「そうだね。昨日の理佐ちゃんと健一の指導でね・・・。」
見てたご両親が引くほどの熱心な指導だったけどね・・・。
「あれ、どうしたの?そんな遠い目をして。」
「いや、何でもないよ。うん。」
「しかし、たくさん練習したけど、予選であれだけ苦戦したから、今日の大会はどうなるかな。」
若干弱気になってる自分がいる。
「ここまで来たら、もう当たって砕けろの精神でやろうよ。」
「そうだな。クラスの男子も見に来るって言ってたし、恥ずかしくないプレイをしないと。」
「うん。がんばろう。」
「でも、理佐ちゃん緊張してるっていう割には、上機嫌だよね?」
「うん。ちょっと前までは、こうやってオフラインの大会に一緒に出れるなんて考えられなかったから。こうやって恋人繋ぎしたり、寄り添って歩いたり。私、今凄く幸せなの。」
頬を染めながら笑顔で言う。
「俺もだよ。こうやって理佐ちゃんと一緒にいると心がポカポカして凄く心地いいんだ。その、つまり幸せってことなんだ。」
最近は、なるべく思ったことをその場で言葉にして伝えるようにしている。
「こうやって、同じ趣味で同じ目標に向けて楽しむってのを、年をとっても続けられたらいいなと思うよ。」
それを聞いて、理佐ちゃんが俺の顔を覗き込むようにして聞く。
「年をとっても?」
「うん。」
「ずっと一緒に?」
「うん。」
「フフ、そうだね。ずっと一緒にね。」
そう言うと理佐ちゃんが嬉しそうに腕を組んできた。
「うん。よろしくね。」
そう言って、理佐ちゃんの体温を感じながら、2人一緒の未来を思い描いた。
感想に対し個別に返信するのは控えましたが、全て読ませて頂いており、今後の糧といたします。
最終話までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。