再会
前回、近藤強を仲間にした。
今回、更なる仲間を集める為、影野重孝はある人物に会いに行く。
「まさかもう一度、この場所に足を運ぶ事になろうとはな……」
俺は今、校門前に立っている。そう、二度と来る事は無いだろうと思っていた忌まわしい“あの”高校に来たのだ。
「ここまで来れた事を、強に感謝しないとな」
それはここに来る前、公園での出来事まで遡る。仲間を集める為、出掛けようとしていた時の事だ。
“何だと!? 金を持ってない!?”
“あぁ、だから行こうにも電車すら乗れない状況だ”
“……ったく、仕方ねぇな……ほら、これだけあれば足りんだろう”
“すまない、助かる”
右手に握られた小銭を見つめながら、切実に感じていた。もし、強に出会っていなかったら、今もあの公園で立ち往生していた事だろう。
「さて、行くか」
そして俺は、学校の敷地に足を踏み入れた。最も会いたくない人物と会う為に。
「そうか、今は全員授業中だったか……」
校庭を歩きながら、ふと窓から中を覗き込むと、皆授業を受けている最中だった。
「それならそれで好都合だ。教室に用は無いからな」
下駄箱を通り抜け、廊下を歩きながら目的の場所へと向かう。
「それにしても、たった一日来てないだけなのに、妙な懐かしさを感じるな。まぁ、それだけ学校に思い入れが無い事になるのかな」
本来、思い入れが強い方が数日離れただけでも、酷く懐かしく思う物だが、俺自身そうは思わない。
よく人は大切な思い出に対して、昨日の様に思えると口にする。この事から考えるに、思い入れが強ければ強い程、その人物の記憶に深く根付く為、どんなに時が経とうと昨日の様にすら感じられる。逆に俺の様に思い入れが無い人物は、記憶にも根付かない為、つい最近の事でも遠い昔の様に感じられるという訳だ。
「……生まれがこんなんじゃ無かったら……俺もあんな風に楽しく学校生活を送れたのかな……」
あり得たかもしれない未来に思いを寄せる。しかし同時に、そんな未来は決して訪れないと悟った。
「俺はもう……“こっち側”の存在なんだ……」
自分の立ち位置を再確認した俺は、一切休まず歩き続けた。そしてある一室の前でその歩みを止めた。扉には『保健室』と書かれたプレートが嵌め込まれていた。
「すぅ……はぁー」
息を整え、意を決して俺は保健室の扉を開けた。当然、中には保険医である“相澤優子”がいた。
「あら? 影野君じゃない。今は授業中じゃ……って、その格好どうしたの? 制服は?」
予想通り、俺の服装について触れて来た。
「そう言えば、担任の先生から聞いたわよ。昨日、学校休んだんですってね。駄目よ、ちゃんと学校に来ないと」
「すみません、ちょっとした野暮用がありまして……」
「まぁ、良いわ。それで? 今日は何処を怪我したのかしら?」
俺に近付き、大胆に開けた胸元をちらつかせる。互いの顔が急接近し、今にも唇がくっついてしまいそうだった。相澤先生から甘いコロンの香りが鼻をくすぐる。
「すみませんが、今日は怪我を治しに来た訳じゃありません」
「そうなの? 残念ね」
合法的に俺の体に触れられないと分かると、興味を無くした様に踵を返した。椅子に座り、退屈そうに聴診器を人差し指でくるくると回し始める。
「それじゃあ、いったい何の用でここに来たのかしら?」
「あなたを勧誘しに来ました」
「勧誘?」
「俺は怪異人です」
その瞬間、回していた聴診器の動きが止まった。相澤先生本人は目を見開き、驚きの表情を浮かべていた。
「相澤先生?」
「や……」
「や?」
「やっぱりそうだったのね!! 前々から、そうじゃないかなとは思っていたのよ!! という事はあなたの父親が怪異人なのは事実なのね!! あっ、でもそうなるとあなたの姿が人間なのは不思議ね!! もしかして母親が人間だから、半分人間半分怪異人のハーフなのかしら!? そうなると人間の姿のまま力を発揮出来るという事になるわね!! けどそれだと非労運と何も変わらないわ……でもあなたはさっきハッキリと怪異人と言っている訳だから、そう思わせる程の証拠があったという訳よね!! もしかして怪異人の姿に変身出来るとか!? そうなると影野君は史上初の人間に化けられる怪異人という事になるわね!! どうかしら!? 私の考えは少しでも当たっているかしら!?」
「ちょ、ちょ、落ち着いて下さい!!」
興奮した相澤先生は、俺が尻餅つくまで詰め寄って来た。息は荒く、目は完全にイってしまっている。
「ごめんなさい。少し、興奮してしまったわ。あなたみたいなタイプの怪異人に会うのは初めてだから……」
「本題に入ってもよろしいですか?」
「えぇ、良いわよ」
俺は話した。夜、目覚めたら怪異人の姿になっていた事。数時間足らずでスカイフォースタワーまで到着した事。非労運に殺されかけた事。朝、目覚めたら人間の姿に戻っていた事。怪異人の扱いに疑問を持ち、立ち上がろうと決意した事。活動拠点で別の怪異人と出会った事。そして現在、仲間集めに没頭している事。
「……という訳で、相澤先生には仲間の一人として来て欲しいんです」
「…………」
俺の話を全て聞き終わると、相澤先生は何か考え事をしながら黙り込んでしまった。
「相澤先生は非労運や怪異人について詳しいですよね? ぜひ、その知識を貸して頂ければ、今後の仲間集めや活動に役立つと思うんですが、どうでしょうか?」
「…………」
「(喋り倒したと思ったら、今度は黙っちゃったよ……)」
忙しい人だなと思いながらも、相澤先生の答えが出るのを待った。その間、授業終了のチャイムが鳴り響く。
「影野君……」
「はい!!」
「結論から申し上げるに、まだあなたの仲間になる訳にはいかないわ」
「……そうですか、それなら俺はこれで失礼します」
交渉は決裂。ここにいる理由が無くなった俺は、足早にその場を去ろうとする。
「ちょっと待ちなさい。話は最後まで聞くものよ」
「何ですか?」
「私は“まだ”仲間になる訳にはいかないと言ったのよ」
「どう言う意味です?」
「知ってると思うけど、私は怪異人という生命体が大好きよ。その気になれば、一日中眺め続けられる」
「…………」
それは今までの付き合いから、何となく気が付いている。
「あなたが勧誘してくれた事は凄く嬉しかった。今すぐにでも仲間に加わりたい。でもね、私にだって準備だったり生活があるの。聞く所によると、まだ仲間はその怪異人一人だって言うじゃない。それに活動拠点がトレーラーハウスってのもね……」
「うぐっ……」
痛い所を突かれた。今の俺達には金銭的な余裕が全く無い。拠点だって乗り捨てられたトレーラーハウス、いつまでも過ごせる訳が無い。
「という訳で、組織がもっと大きくなってから誘ってね。その時は喜んで仲間になるわ」
「……今日はお時間を取って頂き、ありがとうございました」
ぐうの音も出なかった。意気揚々と勧誘しに来たが、現実に引き戻されるだけで終わった。これからどうすれば良いんだ。俺は重い足取りでその場を後にしようとする。
「もう……そんなに落ち込まないで。手ぶらで帰らせたりしないわよ」
「?」
「仲間集めに役立つ情報を提供してあげる」
「本当ですか!?」
「その昔、“姫宮”と呼ばれる企業が軍事産業で栄えていたのは知ってる?」
「確か、他国に武器を売り捌いて莫大な利益を出していたんですよね?」
「えぇ、でも全世界の戦争が完全に終結してしまった為、儲けを失った姫宮グループはあっという間に倒産してしまった」
「その姫宮グループと仲間集めがどう関係するんですか?」
「噂によると、倒産した理由は戦争の終結では無く、怪異人が関わっていると言われているらしいわ」
「怪異人が!?」
「もしその噂が本当なら、あの姫宮グループを倒産まで追い込んだ怪異人を仲間にしたいと思わない?」
「相澤先生……ありがとうございます」
「ふふっ、また会える事を楽しみにしてるわね」
次の目的地が決まった俺は、相澤先生にお礼を述べ、その場を後にしようと扉を開けた。
「………あ……」
「……へ……?」
そこには、見覚えのある人物が立っていた。その人物は保険委員で、将来の夢が非労運という将来的にも影野の敵になりうる存在であった。
「影野君……?」
「ゆ、夢川さん……」
結果、勧誘は失敗に終わった。
しかし、新たな情報を手に入れた影野重孝。
そんな影野と夢川が運悪く出会してしまった。
果たして影野の運命は如何に!?
次回もお楽しみに!!
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