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初めての仲間

見事、近藤強との戦いに勝利した影野重孝。

果たして彼から何を聞き出せるのだろうか。


 「……んっ……」


 目が覚めるとそこには見慣れた天井が広がっていた。頭がボーッとする。起きたばかりで脳がフル回転していなかった。


 「どうなってやがる……俺様は……」


 確か、俺様のキャンピングカーに人間が入り込んで来て……そうだ、俺様はそいつと戦ったんだ。記憶が甦った俺様は、慌てて上半身を起こした。


 「起きたみたいだな」


 「あぁ?」


 振り向くとそこには、その人間がいた。図々しくふてぶてしい態度で、くつろいでいやがった。


 「どうだ? 体に支障は無いか?」


 「てめぇ、さっきはよくも……」


 「憎まれ口を叩ける元気があるなら、大丈夫そうだな」


 けっ、嫌味な野郎だぜ。自分で失神させといて、何が『体に支障は無いか?』っだ。そんな事を考えていると、不覚にも腹の虫が鳴いちまった。


 「何だ、腹減ってるのか?」


 「あっ、いや、これは違う!!」


 「丁度良かった。今、腹ごしらえの料理を作った所だ。悪いが勝手に台所を借りたぞ」


 こいつ、俺様に怪我を負わせるだけじゃ飽きたらず、残り少ないプロパンガスまで根こそぎ奪うとは、何処まで付け上がる気だ。


 「それにしても、探せば見つかる物だな」


 「何がだ?」


 「食べられる野草だ。冷蔵庫を見たが、おかずになりそうな物が無くてな。その辺を探し回って見つけた」


 差し出された器には、緑色の液体に緑色の草花が敷き詰められていた。どうやらスープの様だが、お世辞にも美味しそうには見えない。


 「野草に詳しいのか?」


 「生憎、野草博士ではないんだ。TVで見掛けた事のある有名な野草だけをかき集めた。無駄話は良いから、早く食べたらどうだ?」


 「……毒とか入ってないだろうな」


 「入ってる訳が無いだろ。もし殺すつもりなら、お前はもう既に死んでいる」


 「それもそうだな」


 考え過ぎか。そう思いながら、スプーンで中のスープを掬い上げた。


 「(そう言えば、誰かの手料理を食べるなんて、随分と久し振りな気がする)」


 あの頃は食べられる事が当たり前だと思っていた。こんな生活が無ければ、その有り難みには一生気付けなかっただろうな。


 「(その点に関してだけは、良かったと思えるかもな)」


 温もりを感じながら、俺様はスープの入ったスプーンを口に運んだ。


 「○☆△□◇#!!?」


 口一杯に広がる圧倒的な苦味。壊滅的な味だ。出汁が全く取られておらず、最早お湯と言っても過言ではない。野草の強烈な青臭さが鼻の穴を突き抜ける。今すぐに水で流し込みたい。


 「どうした?」


 「み……水……水……」


 「水? もしかしてポリタンクに入ってた奴か? 残念だがもう無いぞ。スープを作るのに全て使ってしまった」


 「っ!!?」


 本気で言ってるのか!? この形容しがたい味わいが抜けきるまで、耐え続けないといけないのか!?


 「顔色が悪いが大丈夫か?」


 「大丈夫かだと!!? 大丈夫な訳ないだろ!! お前、ちゃんと味見はしたのか!!?」


 「味見? する訳が無いだろ。仮にも道端に生えていた草花だ。衛生的にも危険と言える」


 「じゃあ、そんなの作るなよ!! がぁああああ!!!」


 「そうはいかない。生き物皆、食べなくては飢え死にしてしまうからな。最悪の場合、覚悟を決め手食べるつもりだった」


 「はぁ……はぁ……お前、料理した事はあるのか?」


 「無いが? 別に問題無いだろう」


 「問題だらけだ!! ちょっと台所を見せろ!!」


 ふらふらな足取りで、台所へと向かう。するとそこには、めちゃくちゃに荒らされた凄惨な現場が広がっていた。水はあちこちに飛び散っており、まな板を使わなかったのか、台は傷だらけで包丁も酷い刃こぼれをしていた。そしてそこら中に野草の切り残しが散らばっていた。


 「…………」


 「しかしあれだな、キャンピングカーというのは使いづらい物だな」


 「今すぐ片付けろぉおおおおおおおおお!!!」


 この時、俺様は今までの人生の中で一番大きな声で怒鳴った。




***




 「くそっ、何で俺がこんな事を……」


 “近藤強”と名乗る怪異人に勝利し、殺さずに生かした上、食事まで用意してやったというのに、何故俺が掃除をさせられているんだ。


 「ぶつくさ言ってないで、さっさと綺麗にしろ。そんなんじゃ、いつまで経っても終わらないぞ」


 「分かってるよ!!」


 実力は俺の方が上なのに、どうして扱き使われているんだ。いやまぁ、確かに勝手に台所を使ったのは悪かったと思っているけどさ。だからって、あんなに怒らなくたって良いじゃないか。初めての料理で指を何度も切ったんだぞ。もう治ったけど。


 「終わったか?」


 「あぁ、粗方片付いたよ」


 「よし、それじゃあ飯にするか」


 そう言って近藤は、俺に器を手渡した。中には黄金色の液体と、色取り取りの草花が入っていた。


 「これは?」


 「お前のスープを俺様なりにアレンジした物だ」


 「……毒とか入っていないだろうな」


 「さてね、嫌なら食わなくても良いんだぜ」


 「…………」


 いつの間にか立場が逆転している。追い詰めた筈が、今度は逆にこっちが追い詰められている。近藤は平然と口にしているが、もし俺の器だけに毒が入っていた場合、死ぬのだろうか。そもそも、俺の体に毒という概念は効くのだろうか。確かめたい気持ちはあるが、それで本当に死んでしまったら本末転倒だ。しかし、だからと言って食べないのもどうなのだろうか。元々、このスープは俺が飢え死にしない様に作った物。もしここで飲まなかったら、確実に飢え死にしてしまうだろう。いや、だとしても……


 「食べるのか? 食べないのか?」


 「……えーい、ままよ!!」


 どうせ死ぬのなら、腹を満たしてからその命を終えよう。覚悟を決めた俺は、スプーンで中のスープを掬い上げ、口に運んだ。


 「……美味しい……」


 口一杯に広がる圧倒的な旨味。出汁が上手く効いており、何度も飲みたくなる。また、野草の青臭さは全く無く、仄かな苦味がよりスープの旨さを引き立たせている。癖になる一品だ。


 「そうだろう。我ながらよく出来たと、自分を褒めてやりたい」


 「…………」


 気が付けば、俺は無我夢中でスープを啜っていた。思えば、朝から何も口にしていなかった。空腹は最大な調味料とよく聞くが、まさにその通りだった。


 「……それで?」


 「ん? 何が?」


 「何がじゃない。お前はいったい何者なんだ?」


 「言っただろう。俺はお前と同じ怪異人(かいじん)だ」


 「嘘を付くな」


 「嘘なんか付いていない。現にこうして防護服無しで汚染された公園に入っているじゃないか」


 「確かに……いや、それでも非労運(ヒーロー)の可能性だってある」


 「それならパワードスーツを装着して、とっくにお前を殺しているよ」


 「確かに……待て、それならどうしてお前は俺を殺さないんだ?」


 「同じ怪異人(かいじん)だから……っていうのは建前で、色々聞きたい事があるから生かしているだけだ」


 「聞きたい事ってのは何だ?」


 「勿論、お前の発火能力についてだ。その能力は何処でどうやって身に付けた物なんだ?」


 もし、能力を身に付ける方法があるのなら、俺にも強くなるチャンスがあるって事だ。非労運(ヒーロー)と戦う上で、必要不可欠な物だからな。


 「あぁ、俺様の必殺技の事か。別に身に付けた訳じゃない。生まれた時から持っていたんだ」


 「生まれた時から?」


 「正確には俺様が怪異人(かいじん)になっちまった時かな」


 「つまり怪異人(かいじん)になった時には、その発火能力を手に入れていたという事か」


 「まぁ、そう言う事だ」


 「…………」


 そうなると、俺が能力を持つ可能性は限り無く低い。怪異人(かいじん)になった時、凄まじい身体能力以外何も感じられなかった。もしかしたら、気付いていないだけの可能性もあるが、希望的観測はよそう。


 「そんな事より、俺様もお前に聞きたい事がある!!」


 「何だ?」


 「お前は自分が怪異人(かいじん)だと言っていたが、見た目が人間なのは何故だ?」


 「あぁ、それは父……」


 「ん? どうかしたか?」


 「……いや、俺にはお前と同じ擬態の能力があるのさ。こうして人間に成り済ませば、怪異人(かいじん)だとバレずに行動出来るだろう?」


 別に父親が怪異人(かいじん)で母親が人間のハーフだと言っても良かったが、怪異人(かいじん)にとって人間は害悪だ。その血を半分受け継いでいる俺を、目の敵にしても可笑しくはない。だから敢えて嘘を付く事にした。


 「そうだったのか!! お前も俺と同じ様な必殺技を持っていたんだな!! それならそうと早く言ってくれれば良いのによ!!」


 馴れ馴れしく肩を組んで来た。前も思ったが、やっぱりこいつは馬鹿だ。人の話を素直に受け入れ過ぎだ。こんな奴と同じ考えを持っていたかと思うと、少し恥ずかしさを覚えた。


 「お前、名前は?」


 「……影野重孝だ」


 「そうか!! よろしくな重孝!! 俺様の事は強って呼んで良いぜ!!」


 「あ、あぁ……よろしくな強……」


 いきなり名前呼び。こいつは礼儀とか常識を知らないのか。


 「それで重孝は何でこんな所に来たんだよ?」


 「……同じだよ」


 「えっ?」


 「お前と同じ考えを持ったからだよ」


 「つ、つまり重孝も……俺様と同じ怪異人(かいじん)の自由の為に……?」


 「そうだよ……だからその為にっ!!?」


 「うぉおおおお!!! 嬉しい!! 嬉しいぞ!!」


 近藤は突然号泣しながら、俺に抱き付いて来た。妙に暑苦しい。恐らく発火能力によって平熱が高いのだろう。


 「ちょ、離れろよ。暑苦しい!!」


 「俺様は嬉しいんだ!! 今までずっと一人だったから、同じ思いを持った仲間が出来て!!」


 「な、仲間だって!? 俺とお前が!?」


 「そうだ!! 供に怪異人(かいじん)の自由の為に人間どもと戦おうじゃないか!!」


 「やる気があるのは良いが、作戦はあるのか?」


 「作戦? そんなの適当に暴れまくって、政府に自由を認めさせちまえば良いだけの話だ!!」


 「…………」


 馬鹿だと思ってはいたが、まさかここまでだったとは……何とか思い直させないと、近い内に暴走する。


 「ちょっとは頭を使え。そんな事をしても、自由は手に入らない。寧ろ、危険な存在として非労運(ヒーロー)達に抹殺されるぞ」


 「じゃあ、いったいどうすれば良いんだよ!!?」


 「まずは仲間集めだ。何をするにも、人数は多い方が良いからな」


 「成る程、それで? どんな奴を仲間にするんだ?」


 「そうだな……出来れば怪異人(かいじん)非労運(ヒーロー)について詳しくて……情報通な人材が欲しいな。心当たりはいないか?」


 「言っただろう。今までずっと一人だったって」


 「そうだった……それじゃあどうするか……」


 「重孝にはいないのか? そんな心当たりは?」


 「俺? いるにはいるんだが……」


 そう、一人だけ心当たりがある。しかしそれは俺が今、最も会いたくない人物なのだ。


 「いるんだな!! じゃあさっそくそいつを仲間にしよう!!」


 「いや、でもな……あまり気乗りはしないんだよな」


 そいつは確かに、怪異人(かいじん)非労運(ヒーロー)について詳しい。だが、致命的な欠点があった。


 「そんな贅沢言ってる場合か!!? 少しでも多くの仲間が必要なんだろ!!?」


 「そうなんだけどさ……」


 妙に渋る俺の態度を流石に不自然に思ったのか。近藤が問い掛けて来た。


 「何だ? 何か問題でもあるのか?」


 「そいつはさ……“人間”なんだよ……」


 「あ?」

団員No.1

近藤(こんどう) (つよし)

年齢 28歳 怪異人

職業 元料理人

家族構成 父母供に故人 独身

元々は小さな料亭で働くしがない料理人だった。

そんなある日、料理の仕込みで帰りが遅くなってしまい、終電を逃してしまう。仕方なく近くの公園で寝泊まりするも、そこは例の汚染された公園だった。そうと知らず、公園で一晩明かし目が覚めると怪異人になってしまっていた。周囲の人間に助けを求めるも、気味悪がられ逃げられてしまう。悪い時には暴力を振るわれた。最後の希望を胸に、自分が働いていた料亭へと足を運ぶが、包丁で刺されてしまう。その時、初めて発火能力を発動させ、店主を焼き殺している。その後、逃げる様に公園へと身を隠した。 


今回から仲間が加わる度に、詳しいプロフィールを後書きに載せていきたいと思います。

次回もお楽しみに!!

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