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初めての戦闘

今回、遂に主人公の初戦闘になります。

果たして、キャンピングカーにいた先客とは何者なのか!?

 ガリガリに痩せた体型に、これまたガリガリに痩せた細長い手足。痩せこけた顔付きと全身緑色の肌のそれは、まるで絵本の中から飛び出した“魔女”その物だった。


 「…………」


 「…………」


 そんな存在と相対する影野重孝。互いに見つめ合った状態のまま、動けずにいた。それ程までに、二人の出会いは予想外であった。


 「(しまった……まさか既に人が住んでいるとは……いや、人というかあれは怪異人(かいじん)だな)」


 「何だお前は? どうやってこの公園に入り込んだ?」


 体型と声から察するに、この怪異人(かいじん)の性別は男性だろう。気まずい雰囲気を打ち破る様に、威圧的な態度で問い掛けて来た。


 「突然押し掛けてすまない。実はしばらくの間、この場所を貸して欲しいんだ」


 あくまでも穏便に。下手に高圧的な態度を取って、騒がれたりしたら、入口の警備に気づかれてしまう。そうなってしまったら、俺の計画が全て台無しだ。


 「この場所を貸せだとぉ~? ふざけるな!! ここは俺様の場所だ!! 俺様が最初に目を付けたんだ!!」


 理由も聞かず、怒鳴り付ける。どうやら知能指数はそこまで高く無さそうだ。


 「何も明け渡せと言っている訳じゃない。それこそ、同棲という形でも構わない」


 俺の目的は土地の確保であり、無理矢理奪うという行為は、なるべく避けるつもりだ。無駄な戦闘程、無意味な物は無いからな。


 「冗談じゃない!! どうして“人間”なんかと一緒に過ごさなきゃならないんだよ!!」


 「人間……?」


 言い回しに若干の違和感を覚えたが、直ぐ様言葉の意味を理解した。考えてみれば、今の俺は人間の姿をしている。そんな奴が、汚染されている公園に防護服無しで入ってくるなど、警戒されて当然だ。


 「誤解するな。俺はれっきとした怪異人(かいじん)だ」


 「はぁ? そんな嘘、誰が信じるって言うんだよ!?」


 「そう思うのも仕方の無い事だが、事実だ」


 「誰にも渡さねぇ……ここを拠点にして、全世界に思い知らせてやるんだ。怪異人(かいじん)だって生きている事を!! 俺様がこの世の中に革命を起こすんだ!!」


 「最悪だ……まさかこいつと同じ思考だとはな……」


 いや、そもそも怪異人(かいじん)が認められる平等な世界自体、同じ怪異人(かいじん)だったら誰もが思い付きそうな事だ。大事なのは、その考えを正しく行動に移せるかどうか。


 「(間違った行動の結果が、今のテロリスト達や、目の前のこいつなんだろうな)」


 「俺様の野望を邪魔する奴は、誰であろうとぶっ殺す!!」


 「お、おい、ちょっと待って話を聞け……うっ!!!」


 完全に自分の世界へと入ってしまった。俺の制止する声を無視して、胸を強く殴って来た。衝撃と痛みに耐え兼ね、外に勢い良く飛び出した。


 「気の毒だが、ここで死んで貰うぜ」


 キャンピングカーから、ゆっくりと出て来た怪異人(かいじん)は、昔のバトル漫画の様に、両手の拳をコキコキと鳴らし始める。


 「(話し合いは通じないか……それなら……)」


 ぎゅっと両手を握り締め、拳を作ると、相手に向かってファイティングポーズを取って見せた。


 「おっ、俺様とやる気か? 良い度胸してんじゃねぇか」


 「(気は進まないが、やるしかない)」


 距離を取りつつ、相手の出方を伺う。足を動かす度、足下の雑草が激しく揺れ動き、非常に行動しづらい。対して相手側は余裕の笑みを浮かべ、今度は首をポキポキと鳴らしている。


 「何処からでも掛かって来な」


 「(あの圧倒的な自信、何処から来ているんだ?)」


 「来ないのか? なら、こっちから行くぞぉおおおおお!!!」


 「っ!!!」


 痺れを切らし、自ら積極的に攻撃を仕掛けて来た。初めての戦闘で不安もあったが、避けるのはそう難しい事では無さそうだった。


 「くっ!! この!!」


 次第に攻撃は大振りとなり、時々振るわれる拳が地面や木にぶつかった。


 「ちょこまかと……避けるな!!」


 「ふっ!!!」


 「おげぇ!!!」


 完全に素人の動き。攻撃の後に生まれる大きな隙を狙って、拳を相手の腹に強く深く叩き込んだ。普通の人間なら、その場で踞るだろうが、そこはやはり怪異人(かいじん)、痛そうに片手でお腹を押さえるだけで済んだ。


 「な、中々やるじゃねぇか」


 「降参するなら今の内だぞ?」


 「へっ、馬鹿言ってるんじゃねぇ。まだまだ余裕だっての。それに俺様には、とっておきの必殺技があるからな」


 「必殺技?」


 すると相手は、親指と中指を合わせ、パチンと打ち鳴らした。


 「な、何だと!!?」


 信じられない事が起こった。突如、俺の体が発火したのだ。緑色の炎が今にも全身へ燃え広がりそうだった。


 「あ!! あぁ!!」


 あまりにも現実離れした出来事に、頭はパニックを起こしていた。恥も外聞も無い。俺は慌ててその場で這いつくばり、土に火を擦り付ける事で消火を試みた。


 「はぁ……はぁ……はぁ……」


 咄嗟の判断のお陰で、何とか火を消す事は出来たが、発火した箇所である胸の部分は焼き爛れ、皮膚同士がくっついてしまっていた。


 「どうだ、驚いたか? これが俺様の必殺技だ。俺様は好きな場所に緑色の炎を発火させる事が出来るのさ」


 自身の強さを披露するかの様に、再び親指と中指を合わせ、パチンと打ち鳴らした。すると今度は、足下の雑草が発火した。


 「まだまだ」


 どうやら自己顕示欲が強いらしい。自身の強さを見せびらかす様に、もう一度指をパチンと打ち鳴らした。すると今度は、側にあった木が発火した。


 「お、おい!! 何やってるんだ!!? 早く消火しないと、この場所が燃え尽きるぞ!!」


 そうなれば当然、入口の警備に気づかれてしまう。俺は慌てて火を消そうと、まずは燃えている雑草を踏みつけ、消火を試みた。


 「そう慌てるな。俺様の火は、普通の赤い炎や青い炎とは違う。よく見てみろ」


 「何?」


 言われた通り、燃えている雑草と木を観察した。すると不思議な事に、燃えているのは発火した雑草や木だけで、その周りには燃え広がっていなかった。やがて雑草や木が燃え尽き、真っ黒な灰になると、緑色の炎は自然と消えてしまった。


 「これはいったい……」

 

 「俺様の出す緑色の炎は、対象物だけを燃やすのさ。つまり、他の余計な物には被害が及ばないという訳だ」


 「まさかそんな能力をもっているだなんて……お前はいったい?」

 

 「俺様か? 俺様の名前は“近藤強”、世界最強の怪異人にして、将来全ての怪異人を束ねる男だ!!」


 不味いな。もし、奴の言う事が本当なら、今の俺に勝ち目は無い。せめて、怪異人(かいじん)の姿に変化する事が出来れば……。


 「さて、お喋りはここまでだ。そろそろ決着を付けるとしようか!!」


 「っ!!!」


 そんな悠長な事を考えている暇は無い。近藤がこちらに接近し、殴り掛かって来た。


 「おらおら!!」


 「…………」


 俺は近藤の拳を避けながら、いつ発火させられるか注意していた。そんな時、ある疑問が頭に浮かんだ。それは誰もが考え付く、当たり前と言える疑問だった。


 「おい、どうしてさっきの様に発火させないんだ? 好きな場所を燃やせるのなら、今すぐ俺の顔面を燃やせば良いじゃないか」


 「へっ、それは素人の考えだ。俺様の場合、腹の一発分を返さないと気が済まないんだよ」


 「そうか……」


 確かに筋は通っている。しかしどうしても腑に落ちない。もし、一発返したいのなら、俺の周りを火の海に変え、避けられない様にすれば良い。だが、そうしない。一体何故? ここは鎌を掛けてみるか。


 「もしかしてお前、殴った箇所にしか発火させられないんじゃないか?」


 「なっ!? 何故分かった!!?」


 図星だったか。しかも、惚ける様子も一切無いとは、素直という好印象を受ける反面、馬鹿正直という印象も感じられる。


 「それなら対処は簡単だな。不意打ちさえ無ければお前程度の拳、俺に当たる事は決して無い」


 「へっ、へへへ……俺様の能力について見破った事は褒めてやろう。だが、流石のお前もこれは避けられまい」


 そう言うと近藤は、両拳をそれぞれ打ち合わせる。そして親指と中指を合わせ、パチンと打ち鳴らした。その瞬間、近藤の両手が緑色の炎に包まれた。


 「どうだ? 炎の拳だ!! 少しでも触れれば、大火傷だぜ!!」


 「…………」


 「おっと、俺様の拳が燃え尽きるのを期待しても無駄だぜ。俺様の体は、炎などの熱に対して耐性を持っているからな!!」


 俺は思わず溜め息を漏らした。勿論、勝てないと絶望したからじゃない。相手があまりにも馬鹿過ぎたからだ。そんな俺の様子を勘違いした近藤は、意気揚々と近づき、拳を構えた。


 「死ねぇえええええ!!!」


 「…………」


 顔面目掛けて突き出された燃え上がる拳。それを俺は平然と掴んで見せた。近藤の狙い通り、俺の皮膚は大火傷を負う筈だった。しかし、待てど暮らせど、一向に燃え移る気配は無かった。


 「……あれ?」


 「お前さ……自分から、この緑色の炎は燃え広がらないって言ってたじゃないか」


 “俺様の出す緑色の炎は、対象物だけを燃やすのさ。つまり、他の余計な物には被害が及ばないという訳だ”


 「あっ!!?」


 「馬鹿だろ」


 俺は躊躇無く、その間抜け面に拳を叩き込んだ。そのまま勢い良く、後頭部から地面に叩き付けられた近藤は、気絶してしまった。同時に、意識が途切れた影響からか、拳に宿っていた緑色の炎が消えた。


 「何とか勝てたな。こいつが馬鹿で助かった」


 だがもしこの先、こいつよりも頭が良く、似たような能力を持った奴が現れたら、その時俺は勝てるのだろうか。


 「……こいつは俺の知らない情報を知っている。それを聞き出すまで、殺すのは控える事にしよう」


 外に放置するのも不憫と思い、取り敢えずキャンピングカーまで運ぶ事にした。

意外と呆気なく終わってしまった初戦闘。

しかし、ここから徐々にタグの通り“異能力バトル”が展開されて行きます。

次回もお楽しみに!!

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