表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/46

秘密基地

お久し振りです!!

長らくお待たせしました。

続きを更新します。

 怪異人達を打ち破り、華々しいデビューを飾った私、夢川美咲こと“ジャスヘルト”は現在、優子さんと供に非労運局本部へと戻って来ていた。


 「何だか随分と遠回りしちゃったけど、問題無いわ。予定通り、ジャスヘルトを正式に非労運として登録を済ませましょう」


 「はい!!」


 胸が高鳴る。ずっと憧れ続けていた非労運になれる。一度は諦めかけた夢が今日遂に叶う。先走る気持ちを抑えながらも、早足で本部の入口へと歩みを進める。


 「ちょっとちょっと、何処に行くつもり?」


 そんな私を引き留める声が聞こえて来る。振り返ると、優子さんは本部の入口とは別方向に歩いていた。


 「えっ、あれっ、さっき本部で登録って……」


 本部の入口を指差す私の姿に、優子さんは少しの間固まった後、ハッとした表情を浮かべた。


 「あっ、そっか、本来の入口は関係者以外知らないものね。それじゃあ無理もないわね」


 「あの……?」


 何か、ぶつぶつと独り言を呟いているみたいだけど、よく聞き取れない。私が改めて声を掛けようとすると、優子さんはスタスタと一人で歩き始めてしまった。


 「えっ!? あの!? いったい何処に!?」


 「いいから私に付いて来なさい」


 「ま、待って下さい!! その前に同僚の嵐山さんに事情を説明しないと……」


 「あぁ、彼女ならもういないわよ」


 「えっ……?」


 「美咲さんが非労運として覚醒を確認した瞬間、あなたの周りの人間関係を全てシャットアウトさせて貰ったわ。いつ何処で誰が情報を漏らすか分からないからね。特に同僚なんて身内よりも口が軽いものよ」


 「い、いないって言うのは……」


 「本日付で海外支部へと転勤して貰ったわ。今頃、空港にいるでしょうね」


 「そんな勝手に……!!」


 「あら、勝手じゃないわよ。ちゃんと本人にも了承して貰ったわ」


 「あの面倒くさがりの嵐山さんが!!?」


 「最初こそ拒絶してたけど、向こうで一切の身の回りの世話と支援を約束したら、あっさり引き受けてくれたわよ」


 「嵐山さんらしい……」


 メリットが無ければ決して動かない。逆に言えば、メリットさえあれば簡単に動くという、何とも現金な性格。


 「納得して貰えたかしら。それなら、私に付いて来なさい」


 「あっ、は、はい!!」

 

 そう言うと優子さんは、指でクイクイと手招きし、入口とは違う方向へと迷い無く突き進んでいく。私は慌ててその後を追い掛ける。


 「それとごめんなさいね。実はあなたが今まで働いていたあの本部は、本当の本部じゃ無かったのよ」


 「えっ!? そうだったんですか!!?」


 その道中、本部に関する衝撃の事実に私は驚きを隠せなかった。


 それじゃあ、今まで本部だと思っていたあの施設は何だったのだろうか。そんな疑問を口にする前に、優子さんが答えてくれた。


 「まぁ、あそこも本部には違いないんだけど、正確には“一般人”向けの本部なのよ」


 「“一般人”向け?」


 「そっ、主に非労運に対するクレームや要請に対応したり、従業員達の金銭面や福利厚生を受け持ったりしているの」


 「あっ、それなら私も何度か対応した事があります」


 非労運は国民を危険な怪異人から守ってくれるという理由で、絶大な人気と支持を得ている。しかしその一方で、一部の人々から批判を受けている。


 ここに来て一ヶ月の私も、既に数百件のクレームを対応していた。


 “あんな危険な存在をいつまで放置しておくつもりだ”


 “怪異人に苦戦していた、もっと確りしろ”


 “サインをねだったのに断られた”


 “非労運のせいで就職に落ちた”


 “非労運のせいで彼女に振られた”


 “非労運のせいで働く気が起きない”


 非労運のせいで……非労運のせいで……と、真っ当なのは少しだけで殆どが私怨によるクレームだった。


 私も非労運を目指す以上、ある程度は覚悟していた。しかし、まさかここまで身勝手な事で怒鳴られるとは想像もしていなかった。


 何度、心が折れそうになった事か。これが特定の非労運に対してなら、まだ受け入れられた。だけど、受けるクレームはどれも個人ではなく、非労運全体に対してだった。


 「まるで非労運の存在その物を否定されている気分でした……」


 「それでよく諦めなかったわね。やっぱり幼い頃から叶えたい夢だったから?」


 「それもあります。でも、それ以上に皆の感謝に助けられました。」


 そう、私が今日まで心を折れずに頑張れたのは、感謝の言葉があったおかげ。


 “非労運のおかげで毎日を平和に過ごせる。ありがとう”


 “非労運に命を助けられました。本当にありがとうございました”


 “いつも怪異人と戦ってくれて、感謝してるよ”


 “非労運から勇気を貰いました”


 “非労運は僕達の希望です。僕も将来は非労運みたいになりたいです”


 数こそ少ないけど、その言葉一つ一つには想いが込められていた。この人達の為にも、私は非労運にならなければいけない。


 「……そう感じたんです」


 「ふーん、でもそれって別に美咲さんに言った訳じゃないのよね?」


 「確かにそうかもしれませんが、それでも自分の事の様に嬉しいんです。やっぱり私が目指している非労運は間違っていないんだって」


 「……私には理解出来ないわね。あっと、そんな事を言ってたら着いたわよ」


 「えっ、ここって……」


 歩みを止めた目線の先に広がるのは、本部の駐車場。その一角に存在する今は使われていない古いエリアだった。


 本部の駐車場はかなり広く、入口から一番近い場所でも歩いて5分ほど掛かってしまう。そんな中、このエリアは入口から最も遠く、入口まで歩いて20分近く掛かってしまう。その為誰も利用せず、実用性の無さから手入れも行き届かず、結果コンクリートはひび割れ、そこから雑草が生い茂り、ますます利用されなくなってしまった。


 「ほ、本当にここなんですか?」


 優子さんには悪いが、こんな人気の無い場所に本当の本部があるとは考えられなかった。そんな私の疑問に優子さんはクスリと笑って見せる。


 「まぁ、見てなさい」


 そう言うと、近くにあった同じく放置されてすっかり錆び付いてしまっている自動販売機へと歩み寄る。そして、硬貨挿入口へ右目を覗かせる。


 次の瞬間、挿入口から赤いレーザーポインターが照射され、優子さんの右目を読み取り始める。間も無く、ピーという電子音が鳴り響き、雑草が生い茂る地面の一部が窪んでゆき、地下へと続く階段が姿を現した。


 「も、もしかしてこれって、秘密基地への隠し階段ですか!!?」


 「えぇ、そうよ。ここから……「きゃあああああ!!!」……美咲さん?」


 あまりの嬉しさに私は、優子さんの言葉を遮る様に喜び飛び上がる。軽く抑えたつもりだったが、非労運として覚醒した私の脚力は、それでも3m近く飛び上がってしまう。


 「スゴイ!! スゴイ!! 夢にまで見た非労運の秘密基地!! アニメやドラマでしかあり得ないと思っていたけど、本当に存在してるだなんて!! あ、あの!! 写真とか撮っても良いですか!!?」


 「え、えっと……別に構わないわよ……」


 「本当ですか!!? ありがとうございます!!」


 水を得た魚の様に興奮しっぱなしの私は、若干引いている優子さんを他所に、急いで携帯を取り出して、まるでマシンガンの様に連続撮影を行った。


 「はぁ……はぁ……「……美咲さん? 美咲さん?」……はぁ……えっ、何ですか?」


 「そろそろ良いかしら? こっちにも色々と予定があるのよ」


 「あっ、ごめんなさい。もう大丈夫です!!」


 私が落ち着いた所を見計らい、優子が腕時計を見せながら、人差し指でコツコツと鳴らす。その様子に、一人だけテンションが上がっていた事に恥ずかしさを覚え、慌てて携帯をしまう。


 「分かっていると思うけど、中での撮影は控えて貰うわよ。その度に貴重な時間を取られたくないからね」


 「は、はい……気を付けます」


 優子さんに釘を刺されながら、私達は階段を降りていく。二人が入りきった所で、秘密の入口が自動で閉じていく。完全に閉じると、壁に埋め込まれたオレンジ色の照明が点いた。何て事の無い演出だが、物珍しさから私は必要以上に辺りをキョロキョロと見回してしまう。


 一段、一段、降りる度に足音が反響し合って全体に響き渡る。やがて最深部まで辿り着くと、そこにはドアノブの無い機械的な扉があった。側には、入力パネルが備え付けられている。それを優子さんは、慣れた手付きで入力していく。


 「後でパスワードを教えるから、今後は自分で入力してね」


 「あ、ありがとうございます!!」


 思わずお礼を述べてしまう程、私は緊張していた。優子さんがパスワードを入力し終わると、高い電子音が鳴り響き、扉が自動ドアの様に開き始める。


 「ようこそ、非労運秘密本部へ」


 中から漏れ出る眩しい光に耐えながら、優子さんに促されるまま、私は中へと足を踏み入れる。


 「うわぁああ…………!!!」


 まず飛び込んで来たのは、その圧倒的な広さ。某ドーム10個分はあるであろう広大さに私は驚きを隠せなかった。


 次に目に付いたのは、そこを平然とした様子で歩く非労運達の姿だった。


 「あれってもしかして、“パイロマン”!!? “ビルダーボーイ”に“トリックガール”、あっ!! “曲芸大老”までいる!!」


 私は周りの目など気にせず、目にした非労運達の名前を叫ぶ。まるで初めて遊園地に来た子供の様に。そんな興奮気味の私に優子さんは声を掛ける。


 「はい、そこまでよ。登録する前に倒れられたら、こっちが困るんだから」


 「あっ、ごめんなさい。つい……」


 「ふふっ、安心しなさい。さっきの非労運達にも、後で会えるわよ」


 「本当ですか!!?」


 「えぇ、でも先ずはあなたの能力を確かめる所からよ」


 「確かめる? でも、私怪異人を倒しましたよ?」


 「あのね、あんな小規模の戦闘で実力なんか分かる訳無いでしょ。ちゃんとデータとして弾き出す為に、専用の機械があるのよ」


 「そんな便利な物があるんですね」


 「科学は常に進化し続けてるってね。ほら、分かったらとっとと行くわよ」


 「はい、分かりましっ……!!」


 優子さんに連れられ、歩き出そうとした次の瞬間、私は背筋に寒気が走った。そして考えるよりも先に体が動き、目の前の優子さんを勢い良く突き飛ばした。


 「きゃっ!! ちょっと、何するの……」


 そう優子さんが言い掛けた時、二人の間に白い人影が割って入る。私は咄嗟に両腕を縦に動かし、ガードの構えを取る。が、気が付いた時には何者かの拳が私のみぞおちに叩き込まれていた。


 「おぐぇ……!!!」


 痛みと気持ち悪さ。立っている事すら叶わず、その場で踞ってしまう。


 『あらら? 寸止めするつもりがクリーンヒットしちゃった感じ?』


 「あ、あなたは……」


 パワードスーツこそ着ていなかったが、キャラ付けとして着けた赤いサングラス、そして特徴的な“ウサギ耳”。

 

 私は知っていた。その人物が何者かを。当時雑誌やメディアでも大きく取り上げられ、世間から多くの注目を浴びた。非労運を目指していた私も印象深い存在だった。


 史上最年少で非労運になった男。


 「“ホワイトラピッド”……」


 「へぇー、俺を知ってる感じ?」

突然襲って来た非労運。

彼の目的とはいったい……?

次回もお楽しみに!!

評価・コメント・ブックマークお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ