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強個体

皆さん、お久し振りです。

最近、忙しくて中々更新が出来ていませんが、気長に待っていただけると幸いです。

 「何という体たらくだ!!」


 秘密結社グレーの会議室。SINメンバー全員、花村ことインテリジェンス、そしてマスターグレーの一同が顔を見合わせる。そんな中、憤怒が怒号を上げながら立ち上がると拳を握った両腕を振り上げ、目の前のテーブルに勢い良く叩き付ける。

 テーブルは一撃で粉々に砕け、その破片が周囲に飛び散る。当たらない様に片腕を動かして防ぐ者もいれば、当たっても特に気にしない者。肩に乗った細かな破片を払い除ける者など、対応は様々であった。


 「ふぅー……ふぅー……ふぅー」


 「テーブルの修理代、給料から差し引いておきますからね」


 興奮の熱で体から湯気を立ち上らせ、鼻息を荒くする憤怒にインテリジェンスが冷静な態度で応える。


 「そんな呑気な事を言っている場合か!? 我ら秘密結社グレーが非労運に敗北したんだぞ!! それもたった“一人”にだ!!」


 「正確にはウチの“下っ端連中が”だけどね」


 「黙れ色欲!! 同じ事だ!!」


 「その通りだ……」


 「「!!」」


 怒れる憤怒の揚げ足を取る色欲。そんな二人にマスターグレーが口を開く。肯定の意を示しただけにも関わらず、そこには部屋中に漂っていた喧騒とした雰囲気を黙らせる程の威圧感があった。憤怒はすっかり萎縮してしまい、大人しく席に座り、色欲もバツが悪そうに耳は傾けながらも明後日の方向に目を逸らした。


 「例え組織で末端だとしても、同胞に変わりない。怪異人の怪異人による怪異人のための世界。我らが宿願を阻む者は早急に排除しなければならない。インテリジェンス、敵の情報は?」


 マスターグレーの言葉に応える様に、花村は手元の真っ黒な少し高級感漂う革製のバインダーに挟んだ幾つかの資料をペラリと捲り、読み上げる。


 「はい、隊長ゾンビ達の報告によれば敵は“ジャスヘルト”と名乗ったとの事です」


 「ジャスヘルトか……」


 「「英語の“ジャスティス”とドイツ語の“ヘルト”から取ったのね。直訳すると“正義のヒーロー”って、随分と安直な名前ね」」


 「少し捻ろうとしたのが、何とも痛々しいですね」


 名前を冷静に分析した上で小馬鹿にする嫉妬とインテリジェンス。


 「名前など、どうでもいいだろう。それよりも肝心な実力の方はどうなんだ?」


 そんな二人の会話に割って入る谷原こと傲慢。ジャスヘルトの実力について伺うと、インテリジェンスが人数分の書類を取り出し、各々に配っていく。


 「こちらがその日出動していた戦闘員達の戦闘データ及び所持していた武器になります。これらのデータから計算すると、少なくともジャスヘルトの実力は想定を大きく上回っている物だと思われます」


 配られた書類に対する反応は様々で。憤怒は書類の何倍も大きな手の親指と人差し指で器用に摘まみ上げるも、書かれた内容から再び怒りが込み上げ、指に余計な力が加わり、今にも破けそうだった。マスターグレー、嫉妬、色欲、傲慢の四人は手に取って静かに読み込んでいた。強欲、怠惰はそもそも読む気が無いのか、目すら通さず強欲は紙ヒコーキにして遊び始め、怠惰はその場で眠り始めてしまった。残った暴食はと言うと、書類こそ手には取るものの現在進行形で食べている影響から、油やソースで汚れてしまい、とても読める状態では無くなってしまった。


 「正直な話、戦闘員達のデータだけ見れば何の疑問も湧かない。問題は……」


 「はい、彼らは秘密結社グレー産の武器を所持していました」


 これまで怪異人は非労運+パワードスーツによって、一方的に蹂躙されていた。それが秘密結社グレーが現れた事で状況は一変した。では、そもそも何故彼らはパワードスーツを装着した非労運に勝つ事が出来ているのか。SINメンバー達による活躍も大きいが、最大の理由はインテリジェンスが開発した新型兵器による恩恵だ。新型兵器はたった一撃で、意図も簡単に非労運のパワードスーツを破壊し、命を奪う事が出来る。その為、例え実力が劣る末端の戦闘員達でも数と新型兵器さえ揃えば、一方的に非労運を処理する事が出来るのだ。


 だが今回、数も新型兵器も揃っていた筈の戦闘員達がたった一人の非労運に敗北してしまった。


 「また、隊長ゾンビ達の報告からジャスヘルトは……」


 「どうした?」


 途中で言葉が詰まったインテリジェンスに、マスターグレーが問い掛ける。すると、インテリジェンスは一呼吸置いてから改めて口を開いた。


 「隊長ゾンビ達の報告からジャスヘルトは、パワードスーツを装着していなかったとの事です」


 「「「「「「「!!?」」」」」」」


 インテリジェンスの言葉に場の空気は固まった。一同、信じられないという表情を浮かべ、紙ヒコーキで遊んでいた強欲もこちらを向き、今まで眠っていた怠惰もうっすらと瞼を持ち上げ、それまで決して止まる事の無かった暴食の食べる手が、ここに来て始めて止まった。


 そんな中、書類に目を通したマスターグレーがポツリと呟く。


 「“強個体”か」


 強個体。放射線による突然変異として生まれた怪異人。だが、ごく稀にその状態から更なる変異が起きる事があった。それらは通常の個体よりも遥かに強く、更に必ず何らかの特殊能力に目覚めている。


 「新たな強個体を耳にするのは、お前達以来じゃないか?」


 「一人、仲間外れがいるけどねー」


 「……ふん」


 色欲の煽りを適当にあしらう傲慢。何を隠そう傲慢を除くSINメンバー達こそ、最初に目覚めた強個体なのだ。憤怒が持つ“ハッピータイム”然り、強個体が持つ特殊能力は強力な物ばかり。一人で複数人の非労運達と相手取る事も出来る。だからこそ、非労運達に新型兵器無しで勝つ事が出来た。しかし今回……。


 「初の非労運側の強個体か……」


 傲慢の呟きに、場に沈黙が流れる。今まで現れた事が無かった非労運の強個体。最早、外見が変異する怪異人だけの特権なのだとばかり思われていた。だが、その考えが一気に覆された。重々しい空気の中、最初に口を開いたのはマスターグレーだった。


 「皆、分かっているだろうが、向こう側に強個体が出現した以上、一刻も早く排除する必要がある。何故なら、今回の一件で非労運達は強個体の存在に気が付くからだ。そうなればジャスヘルトを始めとした非労運側の強個体が次々と生まれる事となるだろう。そうなる前に、お前達SINメンバー全員で始末しろ」


 「「お言葉ですがマスターグレー様、さすがにそれは大袈裟では無いでしょうか? いくら強個体とは言ってもたかが知れています。ここはこの嫉妬にお任せ下さい。必ずやご期待に応えて見せますわ!!」」


 椅子から立ち上がり、胸に手を当てながら自信満々な良い笑顔で宣言する嫉妬。周りも先を越されたと、悔しそうな表情を浮かべる。


 「…………」


 そんな嫉妬を見ながらマスターグレーはゆっくりと立ち上がり、嫉妬の側まで歩み寄る。そして右手を彼女の肩に優しく乗せた。


 「嫉妬……」


 「「マスターグレー様……」」


 「(ギリギリ……)」


 ポッと、二つの顔の頬がそれぞれ赤く染まる。まるで先輩と後輩、先生と生徒の恋愛模様を見せられているかの様だった。その様子に色欲が歯軋りを立てる中、マスターグレーがうっすらと笑みを浮かべ、口を開いた。


 「……お前はいつからこの俺に“意見”する立場になった?」


 「「!!?」」


 周囲の空気が一気に凍り付いた。マスターグレーから発せられた言葉には、明確な殺意が込められていた。


 「「い、いえ、わ、たくし……そ、そんなつもりは……」」


 つい先程まで頬を赤らめていた嫉妬だが、みるみる内に青ざめていき、まるで別人の様だった。唇も青紫色に変色し、何とか弁明しようとするも、上手く言葉が出て来ない。


 「インテリジェンス」


 「はい」


 「秘密結社グレーのリーダーは誰だ?」


 「他でも無いマスターグレー様です」


 「その通りだ。俺あってこその秘密結社グレー。つまり俺の言葉は絶対であり、何者であろうと否定してはならない訳だ」


 「「そ、そんな私はひ、否定などしておりません!!」」


 「いや、お前は俺のSINメンバー全員で始末するという考えを一蹴し、自分だけで充分だと意見した。これは俺のやり方では不服だったという事だろう?」


 「そんなつもりは……」


 パワハラ。立場を利用した理不尽な物言いに、嫉妬は言葉を失ってしまった。周りのメンバーも見守るだけで、誰も彼女を助けようとはしない。


 SINメンバー達に仲間意識などは無い。その為、端から助けるつもりなど無いのだが、理由はそれだけじゃない。それはシンプルに誰も、マスターグレーに逆らう事が出来ないからだ。古参のメンバーである傲慢でさえ、助けようとはしない。


 「幹部を一人失うのは心苦しいが、俺に従えないのなら致し方無い」


 「「ご、ごめんなさっ……」」


 嫉妬の謝罪を受け入れる事無く、マスターグレーは彼女の肩に置いてた手を、そのまま彼女の首に動かす。


 「あがっ……がぁ!!!」


 「お願いします!! どうか!! どうかお慈悲を!!」


 二つの首の内、一つを締め上げるマスターグレー。残った首が必死に懇願するも、止める気配は無い。


 「二つあるんだ。一つ位、減っても何の問題も無いだろう。寧ろ、それで許して貰えるんだ。俺の慈悲に感謝すると良い」


 「がふっ……が……ぁ……」


 「い、いやぁあああああああ!!!」


 絞められている顔が白目を向き、口から泡を吹き始め、もう間も無く息の根が止まる寸前、突如としてマスターグレーの締める手が緩んだ。


 「げほっ!! がほっ!! ごほっ!!」


 「ね、ねぇ、大丈夫!!?」


 「…………」


 「……いったい何のつもりだ? インテリジェンス?」


 彼女を助けたのは、インテリジェンスだった。マスターグレーの手首を掴み、無理矢理引き剥がしたのだ。


 「確かにマスターグレー様の考えは絶対です。しかし、嫉妬様の意見も一理あるかと思います」


 「お前も、俺の考えが気に食わないと?」


 「はい、気に食わないです」


 「「「「「「「!!?」」」」」」」


 真っ向からマスターグレーの意見を否定した事を認めるインテリジェンス。その瞬間、SINメンバー達に緊張が走る。


 「…………」


 「…………」


 じっと見つめ合う二人。一触即発の雰囲気に、何人か思わず身構えてしまう。そして……。


 「……ふぅ、良いだろう」


 マスターグレーが一息つくと、それまで感じていた殺意が無くなった。SINメンバー達もホッと胸を撫で下ろす。


 「嫉妬様、大丈夫ですか?」


 「「…………」」


 苦しそうに膝を付いていた嫉妬に、手を伸ばすインテリジェンス。嫉妬はその手をじっと見つめ、何かを考えた後、素直に手を取って立ち上がる。


 「「……借りが出来てしまったわね」」


 「お気になさらず、参謀としての務めを果たしただけですので」


 「「……やっぱりムカつくわ」」


 そう言うと嫉妬は、掴んでいたインテリジェンスの手を振り払い、席に座る。その間、マスターグレーも自身の席に戻っていた。


 「それで? 聞かせて貰おうか、その一理ある理由を?」


 「はい、現在秘密結社グレーの最高戦力はマスターグレー様、ここにいるSINメンバーの皆さま、そして新兵器となります」


 「それで?」


 「結果から言わせて貰えば、組織としてはあまりに貧弱であると言えます」


 「俺が貧弱だと!!?」


 インテリジェンスの言葉に、憤怒が突っ掛かる。


 「憤怒、話を遮るな」


 「も、申し訳ありません!!」


 「だが、憤怒の意見も最もだ。どうなんだ?」


 「私が申し上げたいのは、集団としての力です。個人として見れば、皆様優れています。しかし、我々はあくまでも組織……上ばかりが強くては下が脆く崩れ落ちてしまう」


 「成る程、つまりこう言う事か? 下の者達にも学びの機会を与える事で、組織全体の強化を図ると?」


 「端的に言えば、その通りです」


 「だが、相手は強個体。上級の戦闘員達は愚か、隊長クラスの怪異人達でも歯が立つか分からないぞ」


 「はい、ですのでSINメンバーの方々の誰かを当てたいと思っております」


 「おい、それではさっきと言っている事が違うぞ。下に学びを与えるのではないのか?」


 「マスターグレー様、何も体験するだけが学びではありません。見るだけでも、大きく成長に繋がるでしょう」


 「見るだけなら、それこそ俺の考えでも問題無いと思うが?」


 「一人を複数人で仕留めるやり方では、今までと同じ。一対一を想定した戦いを見せるべきです」

 

 「そういう事か……お前の意見は分かった。確かに一理ある理由だ。嫉妬」


 「「は、はい!!」」


 「俺の先程の態度は、不適切だった。お前に不要な怪我を負わせてしまった事を許して欲しい」


 そう言うと、マスターグレーは部下である嫉妬に頭を下げた。


 「「そ、そんな!! 私の方も不用意な発言をしてしまい、申し訳ありません!!」」


 「ふむ、ではこれでおあいこだな。これからもよろしく頼むぞ」


 「「は、はい!!」」


 満面な笑みを浮かべる嫉妬。数分前まで、死にかけていたとは思えない。


 「さて、今回は嫉妬もといインテリジェンスの意見を採用とする。その上で、この中の誰がジャスヘルトと戦うか選ぶとしよう。さて、立候補はいるか?」


 その言葉に、憤怒、嫉妬、強欲、怠惰、色欲、暴食、傲慢、SINメンバー全員が一斉に手を挙げる。その圧巻の光景にマスターグレーが溜め息を漏らす。


 「これは……長引きそうだな……」

次回、遂に夢川ことジャスヘルトと秘密結社グレーとの全面対決勃発!!

果たして、ジャスヘルトの前に現れる相手とは!!?

そして、ジャスヘルトに与えられたパワードスーツもお披露目!!

次回もお楽しみに!!

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