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夢への誘い

前回、突如として夢川の目の前に現れた相澤。

果たして彼女から何が語られるのだろうか。

 予想外の人物との再会に驚きながらも、私は湧き出す感情を抑えられず、勢い良くベンチから立ち上がる。


 「お久し振りじゃありませんよ!! 七年前、何の説明も無しに急に学校を退職されて、凄く心配していたんですよ!!」


 相澤優子。まだ私が高校一年生だった頃、保健医を勤めていた先生。優しく、美しく、そしてカッコいい、正に理想とする大人の女性その物として、女子生徒達の憧れの存在。勿論、私もその内の一人だった。


 当時、保健委員だった事もあり、幸運にも相澤先生と関わる機会が多く、よく人生相談に乗って貰ったりしていた。影野君が行方不明になって、居場所が全く掴めない時も、まるでその場所にいる事を知っているかの様に、的確なアドバイスをくれたりもした。


 私もいつかこんな女性になれたら……そんな風に考える様になっていた時、それは突然起こった。


 ある日、いつもの様に登校すると教室では喧騒に包まれていた。いったい何があったのか、クラスメイトに聞いてみると……。


 『相澤先生が学校を辞めちゃったらしいよ』


 ショックだった。学校を辞めた事にでは無い。人間、長年生きていればどうしたって、不都合な事は起こってしまう物だ。学校を辞めるのだって、止むに止まれぬ事情があっての事だろう。では、何がショックだったのか、相澤先生とはそれなりに仲良くなっていたと思う、少なくとも他生徒よりは関係を深められていた。なのに、お別れの一言も無く私の目の前からいなくなってしまった。


 裏切られた気分だった。いや、それよりも不安な気持ちで一杯だった。影野君に続いて相澤先生までいなくなってしまった。私に関わる人は皆いなくなってしまうのではないか、そんな言い知れぬ不安がずっと頭を離れず、無意識に友達作りを避ける様になってしまった。


 そのせいで、今でも連絡を取り合う友達は、数えるだけになってしまった。


 そんな相澤先生が今、目の前にいる。私も、もういい大人だ。冷静に聞く事も出来ただろう。しかし、理不尽な現実と日々のストレス、精神的に追い詰められている時に出会った事で、年甲斐もなく怒鳴って問い質すしか出来なかった。


 相澤先生は興奮した様子の私に対して、驚く素振りも、ましてや引く素振りなども見せず、笑みを浮かべて答える。


 「ごめんなさいね。あの時は色々と立て込んでいたから、あなたに一声掛ける暇さえ無かったのよ」


 「そ、そうだったんですか、こちらこそごめんなさい。急に大声出してしまって……」


 こうも素直に謝られてしまうと、こちらとしても怒りの溜飲が下がってしまう。寧ろ、こんな公衆の面前で大声を張り上げてしまった私の方に非がある。申し訳ない気持ちと、恥ずかしい気持ちが一気に襲い掛かって来る。


 そんな情けない姿の私に、相澤先生は少し笑みを浮かべると、私が先程まで座っていたベンチに座り、隣をポンポンと叩いて、こちらにと促して来る。私は言われるがまま、隣に腰を下ろす。


 「改めてお久し振りね、夢川さん」


 「は、はい……お久し振りです。相澤先生……」


 「あら、私はもう先生じゃないのよ?」


 「あっ、そうでしたね。それじゃあえっと……相澤さん」


 「何なら優子で良いわよ」


 「そ、そんな!! それはあまりに慣れ慣れしいですよ!!」


 「そうかしら? 夢川さんとは初めてでは無いし、それなりに親しかったと思っているのだけれど?」


 「え、ええっと……ゆ、優子……さん……」


 「……まぁ、今はそれで構わないわ。それじゃあ私も夢川さんの事、美咲さんって呼んで良いかしら?」


 「は、はい!! 勿論です、はい!!」


 女性同士、名前を呼び合っているだけなのに、何故こんなにも胸がドキドキしているのだろうか。もしかして、私ってソッチの気があるのかな。そんな事を考えれば考える程、私は優子さんの事を変に意識する様になってしまった。心なしか、顔全体が熱く感じる。


 「それで? 今はどんな生活を送っているのかしら?」


 「え?」


 「最後に会ってから、七年も経っているんだから、気になるのは当然じゃない?」


 「そ、そうですよね。私は高校を卒業した後…………」


 私は高校を卒業した後を優子さんに話した。大学受験、大学内で起こった出来事、そして非労運を目指して就職して来た筈が、叶わず自問自答の毎日を繰り返しているという事を。


 「……という具合で、私どうしたらいいんでしょうか。夢を追い掛け続けるべきなのか、それともキッパリと諦めて、このまま安定した職を満喫するべきなのか……」


 「やっぱり、子供の頃の夢を叶えたいと思うわよね。それがもし、手の届く範囲にあるなら、尚更ね」


 「優子さんはどうなんですか? 子供の頃の夢は叶ったんですか?」


 「私は……そうね……」


 そう言いながら、優子さんは空を見上げなから、思い詰めた表情を浮かべ、何処か遠い目をしていた。昔を懐かしんでいるのだろうか。


 「優子さん?」


 楽しい思い出から引きずり出すのは忍びないが、声を掛けて呼び戻すしかなかった。すると、優子さんはふと我に返り、いつもの優しそうな笑みを浮かべる。


 「ごめんなさい、少しボーッとしていたわ。私の場合、叶えている途中……といった所かしらね」


 「叶えている途中? 優子さんって今、お仕事は何されているんですか?」


 率直な疑問だった。保健医だった女性が、突然退職してそれからどうなったのか。


 「今は人体に関する仕組みと構造を取り扱う研究に着手しているわ。所謂、研究者って言った所かしら」


 「す、凄いじゃないですか!?」


 「そんな大層な事じゃ無いわ。それよりも今はあなたの事よ」


 「わ、私ですか?」


 「えぇ、非労運になりたいと言うけど、非労運は美咲さんが思っている程、楽な仕事じゃないわよ」


 「…………」


 「狂暴な怪異人と戦うのなんて日常茶飯事。だからいつも生傷が絶えない。最悪の場合、命だって落としかねない。更に最近、“秘密結社グレー”という組織が次々と非労運達を倒して、その支配領域を広げて行っている。例え運良く非労運になれたとしても、殺されてしまうのが関の山ね」


 分かっている。優子さんが並べ立てた非労運のデメリットは、私だって重々承知だ。無敵だと思われていた非労運の敗北。それはこれまで当たり前だった人々の安心が崩れ落ちる事にも繋がる。守るべき筈の一般市民からは罵倒を浴びせられる。怪異人に負けて死ぬかもしれない。最早、非労運という職業は誰もが就きたいと願う最高の職から一変、誰も就きたくない最悪の職と化している。それでも……!!


 「それでも……それでも私は非労運になりたいんです!!」


 「……非労運になって、何がしたいの?」


 「皆の安心と幸せを奪う秘密結社グレーを……マスターグレーを倒したい!!」


 「……ふふっ」


 私の言葉に優子さんが笑みを溢す。それは私を小馬鹿にする様な笑いでは無く、まるで面白い物を見た時の様な笑いに思えた。


 「ねぇ、美咲さん。もし、本当に非労運になりたいんだったら、私が美咲さんを非労運にしてあげましょうか?」


 「え!!? そんな事が出来るんですか!!?」


 思わず大声が出てしまう。諦めざるを得なかった筈の夢が、優子さんの言葉で手の届く範囲まで近付くのを感じた。だが、それを素直に信じる程、私もお人好しでは無い。

 

 「で、でも確か非労運って、放射線の影響で内的変化を起こさないとなれないんじゃ……」


 そう、私が非労運になれない最大の理由。放射線による内的変化。私が生まれるずっと前は、戦争の影響でそこら中が放射線だらけだったと歴史の授業で習った。その為、放射線で亡くなる人も多いけど、非労運や怪異人が生まれる確率も高かったらしい。けど、現代ではその放射線も落ち着き、不運で亡くなる人もいなくなった反面、非労運や怪異人も生まれなくなってしまった。そんな放射線をもう一度生み出すなど、禁忌に値する上、戦争終結時と全く同じ物を用意出来る訳が無い。つまり、もう二度と非労運と怪異人は生まれない筈なんだけど……。


 「えぇ、勿論その通りよ」


 「だったら、現代で生み出すのは不可能なんじゃ……」


 「でも、今でも非労運は生み出され続けている」


 「っ!!! それってまさか!!?」


 嫌な汗が額から噴き出す。考えない様にはしていた。現代で非労運が生み出せないのなら、年月が経つに連れて自然と数は減っていくだろう。しかし、現実は違った。減る処か寧ろ増えているのだ。それが意味する所は当然……。


 「政府は秘密裏に放射線で、非労運を増やす技術を確立しているのよ」


 「そんな!!? だ、だとしてもそんなトップシークレットをどうして優子さんが知っているんですか!!?」


 「それはね、私がそこの“責任者”だからよ」


 「優子さんが……!!?」


 私は今、何を聞かされているのだろう。将来について悩んでいたら、偶然にも優子さんと再会して、他愛ない世間話をしている筈だったのに、気が付けば裏取引の様な会話になっていた。まだ話についていけているのが、奇跡としか言い様が無かった。


 「だから私の権限を使えば、美咲さん一人位、対象者にねじ込めるわよ」


 「で、でも放射線を浴びるって事は、最悪死んでしまうんじゃ……」


 「……確かにその可能性もある。だけど、何事にもリスクは付き物でしょ?」


 「死ぬリスクなんて、誰も受けませんよ!!」


 「安心して、私の前任者……といっても、個人で活動していた人なんだけど、その人が人為的に怪異人を生み出す方法を見つけ、それを私が改良する事で、幾分か死ぬかもしれない可能性を減らす事が出来る様になったわ」


 「そんな人がいるだなんて……」


 「世界って広いわよね。それで? どうする?」


 「ど、どうするとは……?」


 「今、あなたの目の前には最大のチャンスがぶら下がっている。掴めば、夢にまで見た非労運の生活が待っている。それまでの生活は百八十度変わり、正義の為に悪と戦う事が出来るわ」


 「正義の為に……」


 「だけど……私も暇じゃないのよね。答えは今すぐ欲しいわ。少し考えさせてなんて、言ったらこの話は無かった事にして貰うわ」


 「そ、そんな!!?」


 「当たり前でしょ。こんな美味しい話が、いつまでもぶら下がっている訳が無い。さぁ、選びなさい……非労運になって世界を救うか。それともこのまま、年老いて死ぬまで叶わぬ夢を追い掛け続ける?」


 「…………」


 「さぁ、どうするの?」


 「わ、私は……」


 最悪、死ぬかもしれない。でも、このまま好きでも無い仕事を続けて、無意味に時間を過ごすのも、死ぬ事と大差無いんじゃないか。非労運になれば、皆を助けられる。影野君……あの時、あなたは悩み苦しんでいたのに、私が未熟のせいで助けられなかった。だからこそ、影野君の分まで多くの人を助けるべきなんだ。それが私に出来る影野君への、せめてもの償いだから……


 「……受けます……私、その実験に参加します!! 必ず非労運になって、悪を倒して見せます!!」


 「ふふっ、あなたならそう言うと思っていたわ。なら、早速向かいましょうか」


 「え、今ですか?」


 そう言うと優子さんは立ち上がり、噴水広場を出ようとする。そこには黒塗りの高級車が停まっていた。


 「乗って。あなたの未来が待ってるわ」


 「私の未来が……」


 そうして、私は優子さんの誘いに乗り、供に黒塗りの高級車に乗車すると、何処かへと走り去って行くのであった。













 受付窓口。そこには既に昼休憩を終えて、席に戻っている嵐山がいた。一人で暇そうにしながら、時計をチラリと確認する。


 「……夢川さん、遅いわね……」


 もう二度と来る事の無い同僚の帰りを待ち続けるのであった。

遂に夢川の人生が大きく動き出した。

次回、夢川覚醒!?

次回もお楽しみに!!

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