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歴史的な大敗北

将来、歴史の教科書に載る出来事となる。

 「マスターグレー!!」


 先程まで非労運達の弱さに冷めた表情を浮かべていた憤怒だったが、マスターグレーが来た事に気が付くと一瞬で明るい表情に変わると共に、主の前という事から慌てて片膝を付いて頭を垂れた。


 その様子を見たマスターグレーは、側に仕えているインテリジェンスに視線を送り、軽く頷く。すると、インテリジェンスが代わりに発言する。


 「楽にしなさい」


 その言葉に憤怒は下げていた頭を上げ、マスターグレーの方に顔を向ける。完全に頭を上げ終わるのを確認すると、漸くマスターグレーが口を開く。


 「どうやら念願の非労運達との戦闘は、酷く退屈な物だった様だな」


 「本当に軟弱な奴らばかりだった……でした」


 「他のSINメンバー達の所にも同様に増援が来たらしいが、難なく対処出来た様だ。恐らくお前と同じ心境だろうな」


 「期待外れにも程があった……ありました」


 その言葉にマスターグレーは、わざとらしく鼻を鳴らした。


 「ふっ、期待外れか……七年前、一度はそんな期待外れの連中に組織を壊滅されかけたんだがな……」


 「!!! も、申し訳ありません!!」


 言葉の選択を誤った。そう感じた憤怒はマスターグレーに土下座をする。元々の身体能力の高さと、額を地面にぶつける勢いが相まって土下座した瞬間、凄まじい地響きと土煙が舞い上がる。


 その影響により、三人の姿が土煙に隠れて見えなくなってしまった。しかし、マスターグレーが指をパチンと鳴らし、風圧で土煙を一気に吹き飛ばした。そして、そこに広がるのは綺麗な土下座をする憤怒の姿。


 「憤怒……面を上げろ」


 「申し訳ありません!! マスターグレーの気持ちも考えないで……本当に……本当にすみません!!」


 「……いいから面を上げろ。これは命令だ」


 「し、しかし……分かりました……」


 マスターグレーの言葉に従い、素直に顔を上げる憤怒。


 「いいか、俺は全く気にしていない。本当だ」


 「お、俺は……頭が悪い……だから、すぐカッとなるし、周りも見えなくなる……他人の気持ちも理解出来ない……です」


 「憤怒。お前が何度も謝る様に、俺も何度でも言い続ける。気にするな。壊滅されかけたと言ったが、それは最早過去の事だ。見ろ、周りを……」


 言われた通りに憤怒が周りを見回すと、そこには他の非労運達を殺し終えたSINメンバーそれぞれがこちらに集まって来ていた。


 「マスターグレー様!! 私、確りと任務を果たしましたわ!!」


 「何言ってるのよ。働いたのは私、あなたは何もしてないでしょ?」


 「同じ体なのだから、どっちが働いても同じ事でしょ」


 「何ですって!!?」


 「何よ!!?」


 どっちが働いたかという内容で言い争う嫉妬。


 「いぇーい、非労運達の腕や足、沢山手に入れちゃった。うーん、今度は何処に結合しようかなー」


 殺した非労運達から無理矢理引き千切った、大量の腕や足を満足そうに掲げる強欲。


 「……Zzz……Zzz……」


 我関せずという態度で、下半身だけの馬に馬車を引かせ、その中で眠り続ける怠惰。


 「花村ちゃ……じゃなかった。インテリジェンスちゃん見てたー? 僕のカッコいい所?」


 花村はあくまでも表での名前。今はグレーの参謀“インテリジェンス”の立場。その事を理解している色欲は、訂正した上で話し掛ける。


 「はい、皆さんの戦闘は一通り確認しております」


 「ほんと? うわー、嬉しいな。ねぇ、それなら頑張ったご褒美に今度一緒にデートしてよ」


 「申し訳ありませんが、これから業務で忙しくなりますのでお断りします」


 「あら、それは残念だな。でも、もし気が変わったらいつでも声を掛けてね。待ってるよ」


 マスターグレーへの報告よりも、インテリジェンスへのアプローチを優先する色欲。


 「ボリボリ、バキバキ、くちゅくちゅ、ミシャア……」


 相変わらず食べ続ける暴食。しかし、確りと任務は果たしたらしく、体には生々しい返り血が付いていた。


 「…………」


 何も語る事は無いと、終始無言の傲慢。


 「お前ら……」


 「あれれ~? 何処の誰が土下座なんかしているかと思ったら、まさか憤怒とはね」


 「「情けないですわね。こんなのがSINメンバーの一人だと思うと、泣けて来ますわ」」


 憤怒の様子に気が付き、面白おかしく煽り立てる色欲。それに便乗して、嫉妬がここぞとばかりに見下して来る。


 「き、貴様ら……「お前達、ご苦労だった」……!!!」


 マスターグレーが労いの言葉を掛ける。するとSINメンバー全員がその場に跪く。


 「どうやら何も問題は無かった様だな。さて、憤怒……」


 「はい……」


 「先程の話を続けよう。確かに我々は一度壊滅されかけた。しかし、それは過去の事……周りを見てみろ」


 改めて周りを見回す憤怒。そこにはSINメンバー達の姿と、これまで決して敵わないと思われていた非労運達の死体が転がっていた。


 「この七年、我が組織はずっと身を潜んで力を蓄え続けて来た。最早、非労運など敵ではない。だが、これらは全て過去の敗北があっての結果だ……」


 マスターグレーが憤怒に歩み寄り、彼の肩に手を置く。


 「だからこそ、俺は忘れたりはしない。それにどれだけ敗北の歴史を掘り返されようと構いはしない。何故なら、大事なのは“今”であり“未来”なのだからな」


 「マスターグレー……」


 「そして、その未来の最前線をSINメンバーのお前達も一緒に歩んで貰うぞ。いいな?」


 「あ、ありがとうございます!!」


 その言葉に憤怒は、歓喜に満ちた表情を浮かべながら頭を下げた。


 「それと憤怒」


 「は、はい?」


 「俺はお前の何も考えないその無鉄砲な性格が好きだぞ。だからという訳ではないが、最低限の礼節さえ守っていれば、敬語だって使わなくても構わないからな」


 「わ、分かりました!!」


 「当然だが、これはあくまでも俺とお前達SINメンバー間だけだという事を忘れるな。他の一般兵士を付け上がらせるな。分かったか?」


 「「「「「「「はい!!」」」」」」」


 「よろしい。では、これより本作戦は最終段階へと移行する。既に他は配置に着いている。お前達も、予定通り配置に向かえ」


 そう言うとSINメンバー全員が頷き、一斉にその場から消えていなくなった。


 「さて、俺達も準備に取り掛かるとしようか。インテリジェンス、用意は出来ているか?」


 「はい、こちらに……」


 インテリジェンスが取り出したのは、メガホンだった。しかし普通のと比べ、何倍も小さかった。サイズとしては、成人男性の小指の爪程の大きさだった。


 「本当にこれを奥歯に取り付ければ、メガホンと同じ様に声を大きく出来るのか?」


 「はい、テスト済みです」


 「そうか、なら心配いらないな」


 確認が取れると、その後は躊躇無く奥歯に極小の機械メガホンを取り付ける。その瞬間、起動を知らせる音楽が奥歯から聞こえて来た。


 『あ、あー、あー』


 試しに声を漏らすと正常に作動し、周囲に大きな声が流れる。


 「(よし、問題無いな。後は他が配置に着いているかだが……)」


 チラッと横目で確認すると、目が合ったインテリジェンスは小さく頷く。するとマスターグレーは一歩前に出ると、静かに口を開く。


 『この声が聞こえる全ての“人間”よ、聞くがいい。私は秘密結社グレーの首領“マスターグレー”である』


 マスターグレーの声が響き渡る。それに反応して、逃げ遅れて今まで物陰に隠れていた一般市民が、怯えながらもこちらの様子を伺っていた。


 『七年前、我々は怪異人達の正当な権利と自由を求め、立ち上がった。しかし、邪なお前ら人間はそれを良しとせず排除しようとした。それにより、組織は一度壊滅寸前まで追い込まれる形となった……しかし!!!』


 ここ一番で声を張り上げる。元々大きな声は機械で更に増幅され、体が感じる程の振動が周囲に伝わった。


 『今ここに!! 秘密結社グレーは完全復活を果たした!! より強大に、そしてより残酷に!!』


 すると何処から嗅ぎ付けて来たのか、テレビ局らしきスタッフ数名がカメラを構えた。マスターグレーとインテリジェンスの二人は気付いたが、特に気にせず語りを続ける。


 『私は甘かった……心の何処かで人間と怪異人の両者が、手を取り合って生きていけると……そう思っていた。だが、それは大きな間違いだった!! 歴史が証明する様に人間は差別をする生き物!! 真なる平和などありはしない!!』


 『そんなに己と異なる者を痛め付けるのが好きか。そんなに立場の弱い者を虐めるのが楽しいか。ならば私もお前達を見習おうではないか!!』


 『異なる者を痛め付け、弱い者を虐めよう。それが世界の常識なのだから!! それがお前達が歩んで来た道なのだから!!』


 『これまでであれば、怪異人は非労運に一方的に殺られる存在だった。しかし、その立場は今や逆転した!! 見るがいい、この惨状を!! 見よ、この非労運達の屍の山を!!』


 『最早、我々は狩られる存在では無い。狩る存在へとなったのだ!!』


 『そして最後に……あの日……七年前のWTSで送ったメッセージ……あの時の宣言を改めてさせて貰おう』


 『聞こえているか!! 今尚怯えて隠れている同胞達よ!! 私は……いや、“俺”は!! 怪異人の怪異人による怪異人の為の世界を実現して見せる!! そして、これまで我々を虐げて来た人間達を皆殺しにする事をここに誓う!!』


 『非労運達よ……人間達よ……死と恐怖に……打ち震えるがいい!!!』


 その言葉と共に、各ビルの屋上で待機していた一般兵士達が持っていた、SF映画に出て来そうな未来チックな銃を上空に向けて引き金を引く。その瞬間、淡い緑色の光が一斉に発射され、空の上で勢い良く爆発した。


 それはまるで秘密結社グレーの復活を祝う“打ち上げ花火”の様であった。


 後に“グレーの惨劇”と呼ばれる今日、人間と非労運、そして政府は歴史的な大敗北を記憶と心に深く刻み込まれるのであった。

遂に復活を果たした秘密結社グレー。

ここから怪異人と非労運の血で血を洗う闘争が始まる!!

次回もお楽しみに!!

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