ハッピータイム
今回はSINメンバーの一人である憤怒の実力と、その秘められた能力について明らかとなります!!
非正規労働運営取締局。通称、非労運局。政府直属の機関の一つであり、主に非労運達の管理と教育を業務としており、また非労運達の活動拠点としても利用され、全国各地に多数の支部を構えている。
そんな中、とある支部の管理システムに突如赤いランプが点滅し、けたたましい警告音が鳴り響く。その様子に職員が慌てて目の前にある備え付けの電話を手に取って番号を掛ける。
「本部!! 聞こえますか!? こちら第八支部!! 祭典に参加していたクィリティー達からSOS信号をキャッチ!! 至急、近辺をパトロール中の非労運達を応援に向かわせて下さい!!」
***
一方、こちらは非労運局本部。下層と上層に分かれた作戦指令室と呼ばれた部屋。下層は全く同じ服を着た複数人の職員達が同じく複数台のパソコンモニターと向かい合っている。その中の一人が、第八支部の電話を受け取った。
「こちら本部。第八支部、了解した。これより近辺をパトロール中の非労運達を応援に向かわせ……「待て」……え?」
パトロール中の非労運達を向かわせようとした矢先、上層から待ったの声が掛かった。職員が見上げると、そこには軍服に身を包んだ初老の男が立っていた。
「如何されましたか、司令官?」
「近辺だけで無く、現在パトロール中の全非労運達を向かわせるんだ」
近辺だけで無く、パトロール中全ての非労運達を向かわせる様に指示を送る初老の司令官。この発言に下層にいる職員全員が思わず作業を止め、驚きの表情を浮かべる。
「し、しかしそれでは他地区の治安維持が出来なくなります」
職員の言う通り、全てを向かわせるという事は、文字通りその地区の治安が一時的にゼロと化してしまう。そうなれば、例え犯罪が起ころうとも対処する事が出来なくなってしまう。
「いいから、さっさとパトロール中の全非労運達を応援に向かわせるんだ」
「ですが警察組織無き今、街の平和を守れるのは非労運達だけなんです」
この七年の間に警察組織は全て解体された。需要が無くなってしまったからだ。怪異人相手では警察官が何百人いても敵わないが、非労運一人いれば簡単に解決してしまう。また、人間による犯罪も超人的なパワーを持つ非労運達に掛かれば、ものの数分で解決してしまう。
そうした理由から警察組織は衰退して行き、最早過去の遺物として歴史に葬り去られてしまったのだ。そして今現在、警察組織の代わりとして活動しているのが、街の平和と治安維持を目的としたこの非労運局なのだ。
「その彼らを向かわせてしまっては、人々に危険が及ぶ可能性があります」
「そんなのは百も承知だ。しかしそれでも全非労運達を向かわせるべきなのだ」
「それは何故なのですか?」
「……今回の祭典には、クィリティー達以外の非労運達も参加している。にも関わらず、SOS信号が発信された」
「!! それはつまり!!?」
「複数人の非労運達でも対処しきれない事態が起こっているという事だ。なら、たかだか数人程度の非労運達を向かわせても焼け石に水という物……」
「す、直ぐにパトロール中の全非労運達を現場に急行させます!!」
そう言うと複数人の職員達が、一斉にキーボードを打ち込み始めた。
「(……それに何だ? 妙な胸騒ぎがする……)」
非労運達を応援に向かわせる職員達を眺めながら、初老の司令官は脳裏に不安が過る。
「(……杞憂なら良いんだが……)」
***
所変わってオフィス街。SINメンバー達によって式典に参加していた非労運達が全滅していた。その様子をビルの屋上から眺めるマスターグレー。
「ふん、取り敢えず第一段階は完了だな。“インテリジェンス”、首尾はどうなっている」
“インテリジェンス”。マスターグレーが呼び掛けると、それに応える様に花村が動く。花村という名前は、表の顔として利用している。その為、裏の顔である秘密結社グレーとしての活動名が必要となる。その名前こそ“インテリジェンス”なのだ。
「順調に進んでおります。予想通り、政府はパトロール中の全非労運達を向かわせている模様です」
「そうか……では、これより第二段階へと移行する。一般戦闘員はそれぞれの配置に付け」
そう言った瞬間、戦闘員全員がインテリジェンスが開発した武器を片手に一斉に行動を開始し始め、ビルの屋上をジャンプで飛び越えて移動し始めた。残ったのはマスターグレーとインテリジェンスの二人のみ。
「マスターグレー、我々もそろそろ行きましょう」
「あぁ……」
その後、二人は瞬く間に屋上から姿を消した。
そんなやり取りが屋上で行われている中、下の祭典場では憤怒がオープンカーを持ち上げ、歩道にいる民間人目掛けて投げ付けていた。
「きゃああああああ!!!」
「逃げろぉおおおおおお!!!」
「し、死にたくない!!!」
「助けてママーー!!」
「非労運達は何をしてるんだ!!?」
人々は逃げ惑い、現場は混沌と化していた。暴れ足りないのか憤怒はガードレールをアスファルトから引き抜き、辺り構わず振り回し始める。
「あああああああ!!!! 足りない足りない足りない足りない!!!! 全然足りないぞぉおおおおおおお!!!!」
「そこまでだ!!!」
「あ?」
暴れる憤怒に背後から呼び掛ける声。振り返るとそこには数十人の非労運達が立っていた。その内の一人が代表して、掌をこちらに突き出していた。
「おぉ、やっと来たのか!!!! 待ちくたびれたぞぉおおおおお!!!!」
「これ以上の悪逆非道の行為は俺達が許さない!! さぁ、大人しくお縄に付くんだ!!」
まるで定型文を読み上げるが如く言い慣れた台詞。しかしそれで止める程、憤怒は出来た性格をしていない。
「さぁさぁさぁ、殺り合おうではないか!!!! 血の滾る戦いにしよう!!!!」
「どうやら止める気は無さそうだな。仕方ない、お前はここで俺達が倒す!! 行くぞ皆!!」
その言葉を切っ掛けに、一斉に走り出す非労運達。それに合わせて憤怒も走り出す。両者が攻撃の射程範囲内に入ると、先に攻撃を仕掛けたのは憤怒の方だった。
「おんどりゃああああああああああ!!!!」
巨木と勘違いする程の逞しい右腕を振りかぶり、非労運達目掛けて叩き付ける。大振りで遅い攻撃。当然、非労運達に当たる訳も無く、全員が意図も簡単に避けると同時に憤怒目掛けてパンチとキックを繰り出す。
「一気に畳み掛けるんだ!!」
「ぐぉおおおおおおお!!!!」
「一旦、離れるんだ!!」
四方八方からタコ殴りにされる憤怒。そこから抜け出す為、デタラメに両手を振り回す。しかし、その動きは簡単に予測されてしまい、当たる前に避けられてしまう。
「随分と頑丈な様だが、それも時間の問題だな」
何とか一時的にリンチから解放された憤怒だったが、受けたダメージは致命的であり、複数箇所に痣と出血が見られた。
「俺達に喧嘩を売った事、あの世で後悔させてやるよ」
「……ふふ……ふふふふ…………ふははははははははは!!!! あーはっはっはっはっはぁああああああああ!!!!」
一方的とも言える現状に勝利を確信する非労運達。対して、追い詰められている筈の憤怒なのだが、突如として高笑いを始めた。
「何が可笑しいんだ!!?」
「とうとう恐怖で頭が狂ったか?」
「恐怖? 否、断じて否!!!! 寧ろ、楽しくて楽しくて仕方がないわぁああああああああああああ!!!! もっともっと楽しませろぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「な、何だよこいつ……」
この圧倒的不利な状況を寧ろ楽しんでいる憤怒。そのあまりに不気味な光景に気味悪がる非労運達。
「おらおら、どんどん行くぞぉおおおおおおおおおおおおお!!!!」
再び攻撃を仕掛ける憤怒。そしてそれを避けつつ、パンチとキックを浴びせて着実にダメージを稼いでいく非労運。しばらくこのやり取りが続くと、非労運達はふとある事に気が付いた。
「な、何なんだよこいつ……殴っても殴っても……全然倒れねぇぞ!!?」
「それに攻撃が……ど、どんどん速くなって来ている!!?」
今の今まで意図も簡単に避けられていた筈の憤怒の攻撃が、段々と避けにくくなり始めていた。より速く、より強くなって来ていた。そして何より、これだけダメージを与えているというのに、一向に倒れる様子が見られないのだ。
「ほらほらほらぁああああああ!!!! どうしたどうしたぁああああああああ!!!? 動きが鈍くなってきているぞぉおおおおおお!!!! もっと楽しませてくれよぉおおおおおおおおおおお!!!!」
ここで解説しよう。特別な怪異人は、特別な能力を持っている。近藤の発火能力が良い例だ。そして当然、幹部であるSINメンバー全員が能力を持っている。
“ハッピータイム”。それが憤怒の能力である。効果は楽しいと感じれば感じる程、身体能力が向上する。更にその数値は二倍や三倍などでは無く、二倍、四倍、八倍、十六倍、三十二倍と倍に増え続ける。
そして最も重要なのが、憤怒という男は戦う事を何よりも楽しいと思っている。つまり、戦う時間が長ければ長い程、無限に強くなれるのだ。
「おらぁあああああああああ!!!!」
「…………え?」
実に数十分の戦い。遂に憤怒の拳は音速へと達した。その瞬間、非労運一人の頭が消し飛んだ。この信じられない出来事を呆然と眺める非労運達だったが、直ぐ様それは悲鳴へと変わった。
「うっ、うわぁああああああああ!!!」
「わっはっはっはっは!!!! まずは一人だぁあああああああ!!!!」
「そんな……死ぬなんて聞いてない……お、俺……もう帰る!!!」
「おい、馬鹿!! 勝手に陣形を崩すな!!!」
逃げ出そうとする仲間を引き留めようとするが遅かった。既に憤怒が後を追い掛け、その者の首をフルーツの様にもぎ取っていた。
「二人目だぁああああああああ!!!!」
「い、嫌だ……死にたくない!!! 死にたくないよ!!!」
「た、頼む!! 命だけは助けてくれ!! か、金ならいくらでも払うからさ!! 頼むよぉ……」
その場から一目散に逃げる者。逃げられないと悟り、命乞いをする者。そんな非労運達を次々と殺していく憤怒。「今度はおいかけっこかぁあああ!!!!」と、叫びながら逃げる者を仕留め、命乞いする者に対しては、興味を無くした様にさっさと殺した。
そんな中、逃げるのを呼び止めた非労運は呆然と目の前の地獄を現実だと受け入れられずに眺めていた。やがて、元から真っ赤な肌をしていた憤怒が、返り血でより赤くなって戻って来た。
「これで残ったのはお前だけだ」
「あ……あ……」
「正直、ガッカリだ。非労運は強いと期待していたのに、とんだ肩透かし……これじゃあ、トレーニング相手にもならない」
「ふ、ふ、ふざけるなぁああああああああああああ!!!」
「おっ、怒ったのか? 良いぞ!!!! もっと感情を昂らせろ!!!! 生物は逆境に立たされて初めて成長出来る!!!! さぁ、その力でもっと楽しませてくれよぉおおおおおおおおおおお!!!!」
「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
憤怒に触発されながら、拳を強く握り締め、目の前の敵に目掛けて勢い良くパンチを繰り出した。
「…………」
が、楽しいと感じて身体能力が向上している憤怒には、全くと言っていい程ダメージを与える事は出来なかった。その瞬間、憤怒は冷めた表情を浮かべ、それを見た非労運は絶望の表情を浮かべる。
「そん……な……」
「興が冷めた」
そう言うと憤怒は、非労運の頭を片手で握り潰した。まるでトマトの中身が弾けるかの様に、血と脳ミソが辺りに勢い良く飛び散った。
「はぁ……期待外れだった……」
「すまなかったな憤怒……」
「!!!」
聞き覚えのある声に憤怒が振り返ると、そこにはマスターグレーとインテリジェンスの二人が立っていた。
次回もお楽しみに!!
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