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復活

 リクルートスーツのサラリーマン、お洒落な衣服を身に付けた裕福そうな女性、制服姿の学生達が、携帯を片手にお喋りを楽しみながら闊歩している。


 交通量も凄まじく、道路は車やトラックで埋め尽くされ、激しいエンジン音で思わず耳を塞ぎたくなる程、けたたましい。


 そんな人と車両で賑わうここオフィス街だが、今日は何やらいつもと様子が違う。歩道を歩いている筈の人々は全員足を止め、道路の方に目を向けている。道路には一台の車も走っておらず、更に歩道と道路の間には侵入防止用の柵が設置され、等間隔で警備員が配置されていた。


 「まだかしら?」


 「もうすぐの筈よ」


 「あぁ、待ち遠しい!!」


 などと、人々は何かを待っている様子だった。よく見ると、各々“布切れ”や大きめの“うちわ”を手に持っていた。そうこうしていると、地平線上から複数台の車が現れた。


 「来た!!」


 「「「「きゃあああああああああああああああああああああああああ!!!」」」」


 「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」


 女性陣による黄色い声と、男性陣による歓喜の声が混ざり合い、現場は一瞬にして騒然と化した。こちらにゆっくりと近付いて来る車は、所謂オープンカーであり、座席には運転手を除いて三人が座れる構造だった。


 車それぞれには非労運達が三人ずつ座っており、車の傍らでは音楽団が楽器を鳴らしていた。


 その複数台の車に向けて、ある者は持っていた“タオル”を両手で広げる。そこには非労運の顔がプリントされていたり、ある者は自作した少し大きめの“うちわ”を掲げる。勿論、そこには非労運の名前と顔写真がプリントされていた。


 「あははー、皆来てくれてありがとうー」


 先頭の車に座る、向かって一番左側に座る男。アイドルを彷彿とさせるキラキラの衣装に身を包み、柵の向こう側にいるファン達に両手を振って、愛嬌を振り撒く。


 「はぁー、ダルい。何でこんな祭典に参加しなくちゃいけないの? “イノセントボーイ”、あんたは良くまぁ無邪気に愛想振り撒けるわね」


 その反対側、一番右側では燕尾服を着た女が溜め息と祭典に対する不満を漏らしながら、爪ヤスリで自身の爪を整えていた。


 「そう? 普通だと思うけどな。それに僕達は非労運だよ。市民の気持ちに答えるのは当然じゃないか。ほら、“クィリティー”も少しは手を振ったら?」


 「あたしはパス」


 「えー、じゃあ“カオス・マッドネス”。君も一緒に手を振ろうよ」


 そう言ってイノセントボーイは、“カオス・マッドネス”と呼ばれる真ん中に座る男に目を向ける。ボロボロのマントにボロボロの衣服を身に付けているカオスは瞑っていた目をそっと開くと、包帯がグルグル巻きになっている右腕をじっと見つめる。


 「悪いがそれは出来ない。この手には闇の力が封印されている。俺が抑え続けている限り害は無いが、闇雲に使えば世界は一瞬にして暗黒に包まれてしまうだろう」


 「ご、ごめん……僕そうとは知らず……」


 「気にするな」


 「なら、左手で振れば良くない?」


 「あっ……」


 「…………」


 バッサリと正論を叩き付けられ、少し気まずい雰囲気になってしまった。




***




 非労運達による祭典が執り行われている一方、ビルの屋上では武装した怪異人達が集まっていた。そんな中、マスターグレーは屋上から非労運達を見下ろしていた。そんな彼の下に花村が歩み寄る。


 「全員、配置に就きました。後はマスターグレーのお声一つで、作戦が開始されます」


 「そうか、ご苦労」


 そう言うと見下ろすのを止め、怪異人達の方に振り返る。


 「諸君、決起の時は来た。虐げられて来た我々が表舞台に名乗りを上げる。いいか、情けは掛けるな。目の前の敵を殲滅しろ。今日の主役は下にいる奴らでは無い。我々なのだ」


 「「「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」


 マスターグレーの演説に雄叫びを上げる一同。これだけ大声を上げても、下にいる者達には全く届かない。それだけ下が騒がしいという事だ。


 一通り演説し終えると、マスターグレーは花村が開発したノンワイヤレスの最新型トランシーバーを起動させる。

 

 「憤怒、聞こえているか?」


 『はい、聞こえますマスターグレー』


 「よし、これより作戦を開始する。予定通り先陣は任せたぞ」


 『お任せを』


 そう言い終わると通信が切れる。そしてマスターグレーは再び屋上から非労運達を見下ろす。


 「さて、この七年の成果……たっぷりと堪能させて貰うとしよう」




***




 下では変わらず非労運達による凱旋パレードが執り行われていた。


 「はぁー、全くいつになったら終わるのかしら……」


 暇そうに溜め息を漏らすクィリティー。早く終わる事を願っていると、突然車が停止してしまう。


 「む……」


 「あれ? 止まった?」


 「嘘でしょ? ちょっと何やってるのよ」


 予定には無い車の停止に困惑する三人。先頭の車が止まった事で、後続車両も次々と停止していき、それによって非労運達が騒ぎ始めてしまった。


 このハプニングにクィリティーが、車を停止させた運転手に話し掛ける。


 「そ、それがあそこに人が……」


 「は?」


 そう言って運転手が指差した方向には、黒いローブを身に纏った大男が立っていた。この事態に観客達も気付き始め、ざわめき出していた。


 「何あれ? 何かの演出?」


 「ていうか、誰なのあれ?」


 「何か凄い不気味なんだけど……」


 これ以上、観客達に不安を煽らせない為に、近くの警備員が大男の側に近付く。


 「あー、ちょっとすみません。今からここに車が通るので外れて貰ってもよろしいですか?」


 「…………」


 道路から離れて貰う様に指示するが、大男は無視して離れようとしない。その態度に腹を立てた警備員は、先程よりも強い口調で指示する。


 「あの、ここにいると通行の邪魔になるので退いてくれますか?」


 「…………」


 「……おい、いい加減にしろよ。お前一人のせいで皆が迷惑してるんだぞ。早くここから出ていけ!!」


 「…………」


 「はいはい……あくまでもそういう態度を取り続けるなら、こっちにも考えがあるぞ」


 頑なに動こうとしない大男に業を煮やし、警備員は近くにいた仲間の警備員を呼び寄せ、無理矢理その場から引き剥がそうとする。


 「おら、さっさとこっちに来るんだ!!」


 しかし、大人数人が束になっても大男はびくともしなかった。


 「……軟弱な野郎共だな……それでも男か?」


 「な、何だと!?」


 すると大男は身に纏っていた黒いローブを脱ぎ捨てた。そこに現れたのは、赤い肌をした腰簑一枚の大男である憤怒であった。


 「ま、まさか……か、“怪異人”!!?」


 「俺様が本物の男ってのを教えてやるよ!!」


 憤怒の姿を目にして、慌てて逃げようとする警備員達であったが、それよりも早く憤怒が両腕で警備員達を拘束する。


 「ぐ、ぐるじぃ……だ、だずげっ……!!!」


 「安心しろ、直ぐ楽にしてやる」


 もがき苦しむ警備員達。この異様な事態に逸早く気が付いたのは、先頭車両に乗っていた三人の非労運達だった。


 「早く助けないと!!」


 「分かってる!!」


 「くそっ!! 間に合わない!!」


 急いで車両を降りて、捕まった警備員達を助けに向かうが、最早手遅れだった。既に憤怒が両腕の筋肉で警備員達の首をへし折っていた。白目を向き、全身を痙攣させ、口から泡を吹きながら崩れ落ちる。


 「きゃああああああ!!!」


 そのあまりに生々しい光景に、人々は演出では無い事を悟り、黄色い声は瞬く間に悲鳴へと変わった。


 「ふはははははは!!! 逃げ惑え!! 脆弱な人間共!!! 今日を持って、貴様らの時代は終わりを告げるのだ!!」


 「「「変身!!」」」


 「ん?」


 高笑いを上げていると、パワードスーツに装着し終えた非労運達が憤怒の前に現れた。


 「よくも私達の目の前でやってくれたわね」


 「覚悟するがいい。貴様を俺の封印されし右腕の供物としてくれよう」


 「許さない……罪の無い人々を苦しめるお前を……僕は許さない!!」


 「来たか。この日をずっと待ちわびていた。存分に暴れさせて貰うぜ!!」


 「随分と威勢が良いじゃない。私達三人を相手にたった一人だなんて」


 「貴様ら程度、この俺様一人で充分……と、言いたい所だが、生憎今日は一人では無い」


 「何ですって?」


 次の瞬間、背後で後続車両が爆発した。


 「いったい何が起こった!!?」




***




 非労運達と憤怒が対峙している中、それより後ろの後続車両でも同じ様な事が起こっていた。既にボロボロの姿をした非労運達の目の前には、一つの体に二つの頭を持った女性型の怪異人。嫉妬が立っていた。彼女達は退屈そうに欠伸を漏らす。


 「弱いですわねー。これじゃあマスターグレー様に良い所が見せられませんわ」


 「くっ、化け物め……」


 更に別の所ではそれぞれ“強欲”、“怠惰”、“色欲”、“暴食”、“傲慢”が非労運達と対峙していた。


 「あれれー、もうおしまいなのー? ちょっとがっかりだなー」


 「ふぁ……これなら寝ながらでも勝てそう……」


 「まぁ、予想通りかな。けど、僕的にはもう少し刺激が欲しいかも」


 「んちゅ、ぐちゅ、がふっ、ぐふっ、むぐむぐ……」


 「ここから始まるんだ……もう俺は二度と……失ったりしない」




***




 「がぁあああああああ!!! こんなんじゃ物足りないぞ!!」


 他のSINメンバーが非労運達を始末する一方、憤怒も三人の非労運達を片付けていた。しかし、あまりの弱さに暴れ足りないと憤慨していた。


 「そんな……僕達……正義が負けるだなんて……」


 「封印を解いたのに……くそ……」


 「応援を……早く……応援を……」


 薄れ行く意識の中、最後にクィリティーは緊急用のSOS信号を発信するのであった。

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