決起の時
これが今年最後の更新となります。
会議室に現れたマスターグレー。
果たして何が起こるのか!?
「……それで誰が始めた?」
その瞬間、SINメンバー六人の目線が色欲一人に注がれる。
「あはは……」
言い逃れ出来ないこの状況に、色欲は愛想笑いを浮かべる。そんな彼の下に歩み寄るマスターグレー。
「いやー、ごめんごめん。傲慢の反応があまりに面白くてさ、ちょっとからかいたくなっちゃって……」
弁明する色欲に対して、マスターグレーは彼の腹に拳を叩き込む。
「……ぁが!!?」
突然の痛みに殴られた腹を抱え込む色欲。更にマスターグレーは片手で首を掴み、その場で高く持ち上げる。
「かはぁ!!? ぐぁ……ぐっ……!!!」
逃れようと必死にもがくが、マスターグレーは微動だにしない。今にも色欲が殺されてしまうにも関わらず、秘書である花村や他のSINメンバーは助ける素振りすら見せない。
やがてマスターグレーは、色欲を持ち上げたまま壁に思い切り強く叩き付ける。そのあまりの衝撃に壁一面にヒビが入る。
「一つ……ハッキリさせておこう。確かにお前達は、俺が直接スカウトした。それは可能性を感じたからだ。これから築く新しい時代の先導者の一人になり得ると思ってだ」
「あぐぁ……ぎぃ……」
首を絞め続けられている事で、みるみる内に色欲の顔が赤く染まり、パンパンに膨らみ始めていた。マスターグレーはそんな彼の様子を無視しながら話を続けていく。
「だが、あくまでも可能性の段階だ。なれるかどうかは今後の行動で決まる。そして同胞を殺し合わせるお前は、新しい時代には必要無いのかもしれないな」
「ぞ……ぞん……な事はあり……ありま……じぇん……」
「面白くてついやっちゃったんだろう? なら、今後も面白半分で命を弄ぶかもしれない」
「も……も……うじ……まぜん……」
ピクピクと手足が痙攣し始め、真っ赤だった顔は青白く変色していた。辛うじて発した“もうしない”という言葉に、マスターグレーは数秒間沈黙した後、色欲の首から手を離した。
「はぁああああー!!! はぁー!!! はぁー!!! はぁー!!!」
解放された瞬間、肺から大きく息を吸い込む。何度やっても治まらず、遂には着ていた服を引きちぎり、胸をさらけ出す始末。
その様子を見かねた花村が、何処からか持って来た呼吸器を手渡そうとするが、渡すよりも早く色欲が呼吸器を奪い取り、自身に使用する。
「悪いな。お前の苦しむ姿があまりに面白くて、ちょっとからかいたくなってしまった」
皮肉を込めた言い方をするが、顔は全く笑っていなかった。そして、未だに立つ事すら出来ない色欲を見下ろすその瞳には、光が一切宿っていなかった。
「分かっていると思うが、次は無いぞ」
そう告げ終わると、マスターグレーは一番奥の席に腰を下ろした。花村は側に控え、他のSINメンバー達は一斉に座った。少し遅れて色欲も何とか立ち上がり、まだ呼吸器は手放せないが席に座った。
「さて、今日の議題だが……その前に花村、机の補充を」
「かしこまりました」
割れて無くなってしまった机の補充を頼み、それを花村が了解した次の瞬間、床が割れて下から新しい白机が姿を現した。
「相変わらず仕事が早いな」
「恐れ入ります」
「さて、今日の議題だが……決起の時は来た」
この時、またしても場の空気が変わった。しかし、先程の背筋が凍る様な寒気では無く、寧ろ身体の芯から高揚する様な興奮を覚えた。
「で、ではいよいよ!!?」
高ぶる精神が抑えられず、憤怒は両手を机に叩き付けながらその場に立ち上がり、質問を投げ掛ける。
「あぁ、明後日。我々秘密結社グレーは表舞台に参戦する」
「うっ……うぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「「ふふっ、腕が鳴るわ」」
「楽しみだなぁ。非労運の手足ってどんな形なんだろうなぁ」
「うへぇ、面倒臭いな……でもちょっと楽しみでもあるかな……」
「はぁ……はぁ……あは……は……やったね、オモチャが増える……」
「くちゅくちゅ、あぐあぐ、もちゃもちゃもちゃ」
「…………」
マスターグレーの言葉に沸き立つ面々。唯一、傲慢だけを除いて……。
「……不服か?」
他とは異なり、終始無言である傲慢の様子に気が付き、声を掛けるマスターグレー。その様子に他のSINメンバーが敵意を向ける。するとマスターグレーが眉をひそめる。
「はぁ……本当にお前達は蛆虫以下だな……」
右手で顔を覆い、左は握り拳を作り机の上に置いた。そして次の瞬間、左の拳から机が真っ二つに割れた。
これには傲慢とマスターグレー以外の全員が顔を青ざめた。
「我々は同じ目的を持った同士とも言える存在だが、全く同じという訳では無い。姿形が異なる様に、考え方や捉え方もまるで違う。輪の中で唯一違う反応をしたからと言って、それを責め立てるのは単なるワガママという物だ」
「マスターグレー……」
「いいか、仲間同士で争うな。そんな無駄な事をしている暇があるのなら、一刻も早く我々の悲願が成就する様な行動を取れ。分かったな」
「マスターグレー……今壊した机の料金分、給料から差し引いておきますからね」
他のメンバーには聞こえない様、耳元で囁く花村。
「……机の補充を」
「……ふぅ、かしこまりました」
マスターグレーは何も言わず、机の補充を願い出る。対して花村は、軽く溜め息を漏らしながらも再び机を補充した。
「それで話を戻す訳だが、不服なのか傲慢?」
「そう言う訳では無いが、明後日とあまりにも急な話だからな」
「急なものか!!! 俺はこの日が来るのをずっと待っていた!!! 遂に憎き非労運達と拳を交える事が出来る!!! 散って行った同胞達の無念をこれで漸く晴らせるのだ!!!」
傲慢の言葉に突っ掛かる憤怒。亡くなった仲間の事を思いながら涙を流す。
「憤怒、俺も気持ちは同じだ。別に非労運達と戦いたくないと言ってる訳じゃない」
「ならば……「しかしだ」……!!?」
「何故、明後日なのか。明日でも一週間でも無い。何故、明後日なんだ?」
「「確かに……それは少し気になります」」
「答えろマスターグレー。何故、明後日なんだ?」
傲慢の質問に対して黙り込むマスターグレー。そしてしばらくして、ゆっくりと口を開いた。
「明後日、非労運達の祭典が執り行われる」
「祭典? 何のだ?」
「……秘密結社グレー壊滅記念」
「「「「「「「「「!!!」」」」」」」」」
「一年毎に開催され、今年で七年目を迎える一大イベントの様だ」
「……そうか、確かにそれなら納得だ」
「ますますやる気が湧いて来たぞ!!!」
「「目に物見せてやるわ」」
「あはあは、祭典って事は沢山の非労運達が集まるって事だよね。選り取り見取りだなー」
「それって仕事が増えるって事? うーん、それはそれで面倒臭いな……」
「はぁ……はぁ……やっと落ち着いて来た……ふふふ、楽しみにしててよマスターグレー。僕の可能性を見せてあげる」
「くちゃくちゃ、むふー、むふー」
納得の理由にやる気を向上させる一同。そんな中、唯一傲慢だけはマスターグレーの曇った表情を見逃さなかった。
「どうやら皆納得してくれた様だな。それでは明日、詳しい作戦を伝える。それまで各々己の牙を磨くと良い。それでは……解散」
そう言うとマスターグレーと花村は、会議室を後にした。
***
「……おい、待てよ」
二人の後を追い掛けて来た傲慢。
「傲慢……いや、この場合は“谷原”と呼ぶべきか。どうした?」
「マスターグレー……いや、“影野”。秘密結社グレー壊滅記念という事は……」
「あぁ、“彼女”の命日でもある」
「…………」
二人の会話に花村が暗い表情を浮かべる。そして影野と谷原もまた、表情にこそ出してはいないが、とても辛そうだった。谷原が重々しく口を開く。
「“あの日”俺達は全てを失った……」
「お陰でここまで上り詰める事が出来た」
「お前、そんな言い方は無いだろ!!!」
「だが、事実だ」
「っ!!!」
影野に詰め寄り、胸ぐらを掴んで拳を構える谷原。
「……どうした、殴れよ」
「…………」
「頼む……殴ってくれ……」
が、直前で思い止まり、構えた拳を解いて掴んだ胸ぐらも離した。
「……悪い、自分勝手だった。一番辛いのはお前なのに……」
「気にするな。それにお前は自分勝手でいてくれなきゃ困る。SINメンバーの傲慢なんだからな」
「ふっ……そうだな。次、殴る機会があったら、躊躇しない様に心掛ける」
「あぁ、そうしてくれ。さてと……それじゃあ明日の作戦会議でまた会おう……“傲慢”」
「分かった……“マスターグレー”」
そうして二人は別れを告げるのであった。
そして明後日……。
如何だったでしょうか?
それでは皆さん、良いお年をお過ごし下さい。
また来年も、よろしくお願いします。
次回もお楽しみに!!
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