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SINメンバー

今回はちょっとした説明回となります。

次回から本格的に話が進むのでお楽しみに!!

 遡ること一時間前。まだ影野と花村がRegyで社長と秘書という表の顔として振る舞っていた時の事。


 地下の秘密結社グレーでは、世界中からかき集められた怪異人達が、近い将来訪れるであろう非労運達との戦いに備え、トレーニングや武器製造等に日夜取り組んでいた。


 そんな中、新人教育担当の男が最近入って来た新人に基地内部を案内していた。


 「そしてここがグレーの誇る武器製造ラインだ」


 そう言った目線の先には、片手に収まる程の小さな武器から、三メートルは軽く越えるであろう巨大な武器まで選り取り見取りであった。そしてそんな武器を黙々と量産している怪異人作業員達の姿が目立っていた。


 「うわぁーお。何だこれ、こんな武器今まで見た事も聞いた事も無いぞ!?」


 「おい、勝手に触るな。ここで作られているのは、どれも人知を越えた最新鋭のだ。訓練もまともに受けてない素人が扱える物じゃない」


 緑色の肌に尖った耳と鼻。折れ曲がった腰に子供の様な短い身長。それはまるでファンタジー作品に伝えられる小鬼が、そのまま現実に飛び出して来たかの様な見た目をしていた。彼は所謂新人と呼ばれる存在。そんな彼は教育担当の言葉を無視して、ベタベタと武器を触る。


 「え?」

 

 次の瞬間、大方予想していた通り、新人が触った武器が暴発し、淡い翡翠色の閃光が作業員の頭ギリギリを横切り、壁に着弾した。


 「おい!! 何やってるんだ!!?」


 「あわわ!!?」


 部屋中に響き渡る教育担当の怒号。慌てて武器から手を離す新人。着弾した壁には見事な円形状の穴が空いており、その縁はドロドロに溶け始めていた。この有り様に作業員全員が新人を睨み付けていた。


 「えーと、ごめんなさい……」


 謝罪する新人に対して、教育担当は彼の耳を引っ張り、無理矢理その場を移動させようとする。


 「おら、さっさと次行くぞ!! これ以上、基地をメチャクチャにされる訳にはいかないからな!!」


 「痛でででで!!! ご、ごめんなさい!! ごめんなさい!! もう二度と勝手な真似はしないから、耳を引っ張らないで!!!」


 そんな新人の言葉を無視して、教育担当は耳を引っ張り続けてその場を後にした。




***




 「うー、まだ耳がズキズキする……」


 「自業自得だ」


 武器製造ラインを後にした二人。引っ張られた耳を優しく撫でながら、教育担当を先頭に基地内部を進んでいく。


 「それより、これで粗方この基地の説明はし終えたが、何か質問はあるか?」


 「あっ、えっと、マスターグレーに会うにはどうしたら良いですか?」


 「……何だと?」


 「いや、ですからマスターグレーに会うにはどうしたら……」


 「ちゃんと聞こえていた」


 先程とは異なり、教育担当から重々しい空気が感じ取れた。しばらく無言の時間が続いた後、答えが決まったのかゆっくりと口を開いた。


 「……知っての通り、マスターグレーはこの組織のトップだ。会社で言えば社長。そんな相手に新人がおいそれと会える訳が無いだろう」


 「あー、やっぱりそうですよね」


 答えを分かっていたのか、そこまで落ち込んでいる様子では無かった。そんな様子の彼に逆質問を投げ掛ける。


 「……何でそんなにマスターグレーに会いたいんだ?」


 そう言いながら教育担当は、新人に見えない角度で両拳を合わせ、緑色の炎を灯らせた。


 「え? そりゃあ、俺達怪異人達にとっては憧れの存在だからですよ!! 政府に正面切って宣戦布告する度胸。無法者だった俺達を一つに纏める統率力。そしてその圧倒的なカリスマ。そんな凄い方に一目でいいから会いたいと思うのは自然な事でしょう?」


 「……そうか……」


 教育担当は両手に灯らせた緑色の炎を消した。そして何事も無かったかの様に基地内を歩き続けた。


 「おい、壁に寄れ」


 「えっ、何でですか?」


 「いいから早く壁に寄るんだ」


 突然壁に寄った教育担当。更に新人にも壁に寄る様に強要する。訳が分からなかったが、取り敢えず言われた通り壁に寄る新人。


 「今から俺がする事と全く同じ事をしろ。分かったな?」


 「あっ、はい。分かりましたけど、いったいどうしたんです……」


 「来たぞ」


 「?」


 教育担当の視線の先に、複数人の人影が見えて来た。合わせて七人。


 前から、腰簑だけを身に付けた赤い肌をした屈強な大男。


 鮮やかな赤いドレスを身に纏った一つの下半身にそれぞれの上半身を併せ持つ双子。


 体から大量の手足が生えている子供。


 上半身の無い下半身だけの馬の様な存在が馬車を引き、馬車の中には下半身の無い上半身だけの男が眠っていた。


 更にその後ろからは、前髪で両目が隠れたピンク髪のボブショートヘアの少年か少女か見分けが付かない存在。


 歩く度にズシンズシンと床に振動が送られる程、脂肪に包まれた体。肉と肉の間からまるでポケットの如くチョコバーを取り出し、美味しそうに頬張る巨漢。


 最後に、羽織を上から羽織った片目だけの男。また、片方の腕は欠損していた。


 七人の姿を確認すると、教育担当は深々と頭を下げた。一方、訳が分からず困惑する新人。


 「早く頭を下げろ」


 「おわっ!!?」


 そんな新人を見かねて、教育担当が無理矢理頭を下げさせた。やがて七人は二人の横を通り過ぎて行く。その際、最後尾にいた片目片腕の男だけ、何故か教育担当の姿を目で追っていた。


 七人がいなくなった事が分かると、二人は下げていた頭を上げた。


 「な、何ですかあの色物集団……」


 「“SINメンバー”だ」


 「新メンバー? 何だ、俺と同じ新人ですか。なら、同僚として挨拶位……」


 そうして後を追い掛けようとした新人の後頭部に、教育担当が拳骨を振り下ろした。


 「この馬鹿!! そんな無礼な事をしてみろ。あっという間に殺されるぞ」


 「えぇ、でもさっき新メンバーだって……」


 「その“新”じゃねぇ。俺が言ってるのは英語の“SIN”だ」


 「英語の“SIN”? ……って、何でしたっけ?」


 再び新人の後頭部目掛けて拳骨を振り下ろす教育担当。


 「痛い!! 何で殴るんですか!!?」


 「自分の入った組織の事位、少しは勉強しろ。いいか、この秘密結社グレーは“マスターグレー”を筆頭に組織化されている」


 「そりゃあ、創設者であり俺達のリーダーですからね」


 「その下に彼を支える“参謀”、その下に七人の幹部、そして更にそこから俺達みたいな末端と、こうした組織図が生まれているんだ」


 「七人の幹部?」


 「怪異人の中でも特に優れた能力、ポテンシャルを秘めている者達の事だ。その人達は皆、マスターグレーが直接組織に勧誘した」


 「直接ですか!!? 羨ましいな……俺なんて路地裏にいた所を一年上の先輩にスカウトされただけですよ」


 「更に選ばれた幹部達には、他のメンバー達との差別化として、それぞれ肩書きに七つの大罪を与えられている」


 「七つの大罪?」


 「“憤怒”、“嫉妬”、“強欲”、“怠惰”、“色欲”、“暴食”、そして“傲慢”……人間を罪に導くとされた欲望や感情を指し示す言葉。それら与えられた幹部達を総称して“SIN”メンバーと呼んでいるのさ」


 「そ、そうだったんですか。そんな凄い方々に会えるだなんて……くっそー、もっとちゃんと見ておくんだった!!」


 「お前は気楽で良いな。とにかく、俺達みたいな末端が気軽に声を掛けてはいけない存在なんだよ」


 「成る程……そう言えば、七人の内の最後尾にいた方。何だかこっちの方を目で追ってた気が……」


 「…………」


 「どうかしましたか?」


 思い詰めた表情を浮かべる教育担当。それを心配して声を掛ける新人に対して、三度目となる拳骨を振り下ろした。


 「痛!!? ちょっ、何で殴るんですか!!?」


 「余計な事を考えている暇があったら、もっと組織について勉強しろ」


 「ちぇ、相変わらず手厳しいお言葉ですね……“近藤先輩”は……」


 そう、教育担当の正体は影野達と苦楽を共にした近藤強であった。


 「ほら、さっさと行くぞ」


 「あっ、ちょっと待って下さいよ。近藤先輩!!」


 そして二人は、再び基地内を歩き始めるのであった。

教育担当の正体は近藤強だった!!

創設初期からいる彼が何故こんな低い地位にいるのか?

それはそれとして次回、漸く幹部達の会議に突入!!

次回もお楽しみに!!

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