あれから7年
今回、前回から一気に7年の月日が流れます。
「秘密結社グレー。7年前、WTS襲撃事件にて、突如彗星の如く現れた組織の訳だが、その後瞬く間に勢力を拡大。政府が所有する幾つかの科学研究所を襲撃し、破壊し始める。これに対して政府は対策本部を設立し、対処に当たった」
ここは学校。今は歴史の授業をしており、教師がチョークで黒板に文字を書き込んでいく。そして、その文字をひたすら書き写す生徒達。
全員が書き写し終わるのを確認すると、教師は再びチョークで黒板に新たな文字を書き込んでいく。
「そして12月31日、大晦日。遂に政府率いる非労運達と秘密結社グレーの全面戦争が勃発した。場所は非労運の育成施設。戦いは連日連夜続き、持久戦に突入した。一進一退の攻防の中、最初の非労運にして伝説の存在、“マキシマム”が活路を見出だした」
“マキシマム”。原点にして頂点の存在。その昔、放射線の影響で怪物と化してしまった者達が怪異人という名が付けられる以前、力を手に入れた事で好き勝手に暴れていた頃、彼は初めて人の姿のまま突然変異を起こし、怪物達と同等の強さを手に入れた。そしてパワードスーツ無しで真っ向から、怪物となった者達と戦っていた。彼がいたから、人々は希望を失わずに済んだ。彼がいたから、人々は安心して生活を送る事が出来た。マキシマムは正に英雄と呼ぶべき存在だ。
「マキシマムの活躍により、秘密結社グレーは瓦解。その隙を見逃さず、政府は大量の非労運達を送り込み、その結果秘密結社グレーは壊滅。これが後々の世にまで伝えられる事になった“大晦日灰色事件”だ。この事件で政府は多くの非労運を失ったと言われている」
「先生、質問」
「ん、何だ?」
教師が黒板に文字を書き終えたタイミングで、生徒の一人が手を上げて質問を投げ掛ける。
「グレーのリーダー、マスターグレーは死んだんですか?」
マスターグレー。出身不明、年齢不明、性別不明、秘密結社グレーの創設者にして怪異人達の指導者。怪異人の怪異人による怪異人の為の世界を作るという理想を掲げ、真正面から政府に非労運に楯突いた存在。大晦日灰色事件において討伐と記録されているが、肝心の死体は上がっておらず、取材に対しても曖昧な返答しか貰えていない。その為、世間では“とある説”が当時真しやかに囁かれていた。
「あー、当時世間では“生存説”が囁かれていたらしいが、ここ数年なんの音沙汰もない。だから年月が経てば経つ程、本当に死んだというのが真実味を増してくるんだ」
「じゃあもしかしたら、生きているかもしれないんですか?」
「さぁな。あの事件の詳細を知っているのは、直接関わった連中だけだからな仮に生きていたとしても、何処に隠れていたのか、どうやって政府の包囲網から逃げ仰せたのか、そして何故この数年間動かなかったのか。どんなに頑張っても、納得のいく説明が見つからない」
「そうなんですか……分かりました、ありがとうございます」
「他に質問ある奴いるか? んじゃあ、続けるぞ。秘密結社グレーが起こした行動の数々によって、怪異人達に対するヘイトが高まり……」
「マスターグレー……か……」
質問を終えた生徒は、教科書に貼られたマスターグレーの顔写真をじっと見つめる。鬼の形相をした灰色の化物。しかし、その表情には何処と無く人間特有の暖かみを感じていた。
「いったいどんな人だったんだろ……」
その生徒がマスターグレーと会う事は決して無い。しかし、一般人が歴史上の人物に思いを馳せる様に、彼の中にもマスターグレーに対する何かしらの思いがあるのかもしれない。
***
巨大な交差点。周りは数多の高層ビルに囲まれており、今日もサラリーマン、OLに学生と溢れ返る程、人々が行き交っている。そんな高層ビルの中でも、一際目立つビルが存在している。他のビルよりも一回り大きく、他が標準的な白や灰色なのに対して、そのビルは全体が黒、縁の部分が金色に塗装されていた。
そんなビルの最上階。外装に負けず劣らず豪華な内装をした部屋。しかし、部屋の大きさに対して家具は机と椅子の二つだけ。その背後には壁一面に嵌め込まれた巨大な窓ガラス。そんな窓越しに地上の人々を見下ろす人物がいた。スーツ姿に痩せこけた頬をして、白髪のオールバックに縁無しメガネを掛けた男。見下ろした事で落ちそうになるメガネを右手の中指で押し戻す。
すると部屋の扉がノックされる。男は入れと一言。現れたのは美しい女性。整った顔立ちに黒髪ロングで、男と同じスーツ姿にハイヒールを履いており、大人の女性をイメージした姿その物だった。そんな女性が口を開く。
「社長、お時間です」
「……ご苦労」
そう言うと、社長と呼ばれる男は秘書と思わしき女性と一緒に部屋を後にする。
***
着いた先は会議室。二人が部屋に入ると、そこには既に何人かの幹部社員が席に着いていた。
「「「「「社長、おはようございます!!」」」」」
「…………」
社長は特に返事を返す事なく、自身の席である一番奥に座る。一方、秘書は壁際に用意された簡易的な椅子に座る。
「それでは、今期の定例報告会を始めさせて頂きます。まず始めに、わが社の主力である最先端な家庭用機械の売上に関する報告になります。お手元の報告書をご覧下さい」
それぞれの席の目の前には、ホッチキスで纏められた資料が置かれていた。幹部連中は手に取り一通り目を通すが、社長は興味なそうに資料を裏返す。
「え、えっと……ご、ご覧の通り先月よりも70%増加しており……このまま行けば、最高売上を軽く越す見込みがあります」
「ふぁーあ……」
社員が報告書を読み上げる中、欠伸をする社長。小指の爪で耳の穴を掻きほじる。
「えっ、あっ、社長……?」
「……何だ?」
「い、いえ……何かご不明な点でもごさいますでしょうか?」
「別に無い。続けろ」
「は、はい!! そ、それでは次のページをご覧下さい!! わが社が売り出している主力商品の人気度を調査致しまして…………」
「……ふぅ」
社員による報告が続く中、社長は爪の間に挟まった耳垢を見ながら、溜め息を含めた息で耳垢を飛ばす。最早、社員の言葉は社長の耳には届いていなかった。
***
「報告は以上となります。何かご質問はございますでしょうか?」
誰も手を上げない。
「それではこれで定例報告会を終わりたいと……」
と、社員が言い終わる前に社長は立ち上がり、足早に秘書と一緒に会議室を後にする。
「……思いま……す……」
残った幹部社員達は、その様子を呆然と眺める事しか出来なかった。勿論、途中で止める事も考えたが、社長相手に出来る訳が無い。しばらく無言の時間が続く。
「……行ったか……」
「その様だな」
「はぁー、緊張したー」
社長が遠くに離れた事が分かると、緊張の糸が切れたのか、全身脱力状態になる。締めていたネクタイを緩め、椅子に深く沈み込む。
「凄い威圧感だったな。あれで私達より年下だなんて信じられない」
「だが、あの態度はいただけないな。せっかく用意した資料に目すら通さないとは」
「通す必要が無いからだろう。正直言って、わが社の売上が落ち込む事などあり得ない」
「それだけわが社の商品が素晴らしい証拠だな」
「だからといって、あんな若造に好き勝手させて良いのか?」
「好き勝手と言うが、そもそもこの会社は社長が一代で築き上げた物。私達はその甘い汁を啜っているだけに過ぎませんぞ」
「それならいっそ、社長を役員会議に掛けて社長交代させるのはどうだ?」
「何の理由でだ? 社長の業績は凄まじい。類を見ない新技術の提供に、それらを世の中に広める情報操作能力、更に社員達を纏める統率力。非の打ち所が無い」
「あぁ、だけど女性関係ならどうかな?」
「まさかあの秘書の事を言ってるんじゃないだろうな?」
「その通り。どんなに完璧な人間だって、何かしらの弱点は存在する。それがあの秘書という訳だ」
「成る程、確かに社長はあの秘書にベッタリだ」
「だろ? だからそれをネタにして役員会議に掛ければ……」
「あっ、やるなら一人で勝手にやってくれ。私達は関係無い」
「えっ?」
「万が一思った関係じゃなかった場合、私達の首が飛びかねない。せっかくの地位を捨てたくないのでね」
「一人で頑張ってくれ」
「応援はしないよ」
「期待もしてないよ」
「……じょ、冗談に決まってるじゃないか!! 今の社長に不満などある訳が無いだろう!!? あの人は完璧な人なんだからな!!」
「あぁ、それを聞いて安心したよ」
「本当に。幹部が一人消えるかもと考えていたよ」
「皆、身を粉にして働こうではないか!!!」
「調子の良い奴だな」
「それにしても、部下の謀反すら起こさせないとは、流石としか言いようが無い」
「人の上に立つべくして生まれた存在……」
「“Real・Gadget・yield”。通称Regy社長“影野重孝”。恐ろしい男だ」
あれから7年、大企業の社長となった影野。
いったい彼に何があったというのか。
その秘密が徐々に明かされていく。
次回もお楽しみに!!
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