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粗悪品

前回、まさかまさかの谷原がパワードアクセサリーを使用し、パワードスーツを装着した!!

非労運と同じ姿になった谷原、果たして影野は勝てるのだろうか!?

 怪異人になって早数ヶ月。これまで色んな事があった。非労運達に殺されかけたり、近藤との戦いで怪異人が特殊能力を有する可能性がある事を知ったり、姫宮家の底知れぬ闇を目の当たりにしたり、WTSを襲撃して全世界にメッセージを配信したり、そこで偶然にも夢川さんと鉢合わせたり、死んだと思われていたヤクザの組員が実は生き残っていたなど、最早大抵の事では驚く事は無いと思っていた。思っていたんだが……。


 「そんなまさか……いったいどうやって手に入れたんだ!?」


 俺の目の前には一人の男が立っている。先程まで何の能力も持たない只の人間だった存在が、今ではパワードスーツを身に纏っている。昭和生まれの特撮番組を彷彿とさせる武骨なデザインであり、谷原自身の片腕が欠損している為か、パワードスーツを装着した状態でも片腕が無かった。また、塗装が施されておらず全身が灰色だった。


 端から見ても弱そうに感じる。だが、非労運と戦った事のある俺には分かる。この見るだけで肌がピリピリと焼け付く感じ、本能が逃げろと訴えかける。間違いなく、あの非労運その物だ。


 そんな中、俺は一番の疑問であるパワードアクセサリーをどうやって手に入れたのか知りたかった。


 パワードアクセサリーは政府が独自に開発、製造している特注品だ。小さい子達にも大人気で何種類ものレプリカがホビーショップで販売されている。勿論、その中に本物が紛れる事なんて絶対にあり得ない。


 そもそも何処でどの様にして作られているかも、世間には一切知られていない。過去に一度、ドキュメンタリー番組が非労運の密着取材を行った事がある。私生活から主な仕事内容、恋愛経験など根掘り葉掘り聞かれていたが、何故かパワードアクセサリーに関してだけ掘り下げられる事は無かった。今思い返せば、政府による圧力が掛かったのかもしれない。


 「ウチも落ちぶれたとはいえ、それなりの組だったからな。古い人脈を駆使して、元政府関係者を頼る事で何とか手に入れる事が出来たのさ」


 「だとしても分からないな。パワードアクセサリーは政府にとっての最重要品。一つでも盗まれれば、大騒ぎになる筈だ。そうなれば、お前らが無事な訳が無い。まさか、運が良かったなんて言うつもりじゃないだろうな」


 「勿論違うさ。これは所謂“粗悪品”という代物でな。製造ラインの基準を満たせなかった物を処分される寸前に掠め取ったらしい」


 粗悪品。成る程、それなら納得だ。完成品なら死んでも守るだろうが、それよりも性能が数段劣る物なら、例え一つ二つ無くなったとしても問題無い。万が一何かあったとしても、完成品を持たせた非労運が解決してしまうからな。


 「どうやら納得して貰えた様だな。なら、そろそろ始めるぞ!!」


 「っ!!?」


 その瞬間、目の前にいた谷原の姿が消える。この突然の出来事に困惑しそうになるが、それよりも早く背後に回り込んだ谷原が、左側頭部目掛けて回し蹴りを繰り出して来た。咄嗟に右手で支えながら左腕でガードするが、あまりの威力に押し負けてしまい、そのまま勢い良く吹き飛ばされてしまう。


 「影……あっ、マ、マスターグレー!!」


 影野を心配して花村が声を掛けるが、さすがに組員達の前で本名をばらすのは不味いと思ったのか、慌てて組織としての名前である“マスターグレー”と言い直した。


 しかし、そんな花村の言葉は影野には届いておらず、蹴られた際の衝撃と痛みに耐えていた。よく見ると蹴られた左腕が赤く腫れ上がっていた。


 「(骨は折れてないな。だが、この痛み……建設現場で戦った非労運達から受けた時と全く同じだ)」


 これは想像以上に不味い。そんな悠長な事を考えていると、真上に跳んで来た谷原が影野目掛けて、かかと落としを繰り出して来た。


 「っ!!」


 谷原の追撃を何とか避ける影野。外れた攻撃は地面に激突し、巨大なクレーターを作り上げた。威力が高過ぎたのだろう、かかとが突き刺さってしまい、抜けなくなってしまった。


 「今だ!!」


 この絶好の機会を逃す訳にはいかない。避けた影野は流れる様に谷原の横っ腹に拳を叩き込んだ。硬い物同士がぶつかり合う爆音と衝撃波が周囲に広がる。


 「……痒いな」


 「!!?」


 が、まるで効果無かった。その間に谷原は冷静に突き刺さったかかとを抜き、突き出された影野の拳を掴んだ。そしてまるで子供がオモチャの人形を振り回すかの様に、片手で影野を左右交互に地面へと叩き付ける。


 「オラオラ!! どうした!! この程度か!!?」


 「がはぁ!! ぐごがぁ!! こ、この野郎!!」


 地面に何度も叩き付けられ、血反吐を吐く影野。再度地面に叩き付けられる瞬間、両足で上手く着地し、力任せに地面を蹴り飛ばす。すると地面が抉れ、その破片が谷原の顔に振り掛かる。


 「何っ!!?」


 視界を阻害された谷原は、思わず掴んでいた影野の手を離してしまう。その隙を狙い、影野は自身の右腕で谷原の首を巻き込み、左手で谷原の片腕を背中に無理矢理回し込み、最後に両足で谷原の両足を引っ掛け、前のめりに倒れた。


 「は、離しやがれ……」


 「誰が離すかよ」


 全身を使って身動きを封じ、巻き込んだ右腕で谷原の首を締め上げる。このまま落とそうという腹積もりらしい。谷原も必死に抵抗を試みるが、体制が悪いらしく上手く体に力が入らない。


 「大人しくギブアップしたらどうだ!!?」


 「嘗めるなよ……はぁあああああああ!!!」


 「な、何だ!!?」


 突然全身を痙攣させる谷原。すると段々と谷原の体が熱を発し始める。やがて視界が歪む程の湯気が放出され、その湯気が影野の顔面を直撃する。


 「がはぁ!!!」


 一瞬の怯み。これが谷原の拘束を解く切っ掛けになってしまった。緩んだ片腕で影野の体を殴り、更に立ち上がる瞬間に両足を高速回転させ、顔面に蹴りを多段ヒットさせた。


 「て、てめぇ……」


 「動けなくて一瞬焦ったが、大した障害にはならなかったな」


 「くそ……それなら……これでどうだぁ!!!」


 そう言うと影野は自身の右腕に力を込める。すると瞬く間に右腕が変形し、通常の何倍も肥大化、肩から指先にかけて鋭いトゲが生えるなど、より凶悪な見た目に変貌した。


 「それは……」


 「“部分成長”。俺は過去に非労運にボコボコにされた事があった。もし次戦う事になった時の為、俺なりに考えて編み出した応用技。体の一部を強制的に成長させるシンプルな技だがな。だけど……」


 「!!?」


 すると影野は谷原目掛けて、その肥大化した右腕を勢い良く振るった。咄嗟にガードの構えを取る谷原だが片腕という事もあり、防ぎきれずに遠くへ吹き飛ばされる。その距離は最初に影野が谷原に吹き飛ばされた時よりも倍近かった。


 「「「「若頭!!」」」」


 巻き上がる土煙からヨロヨロと立ち上がる谷原。この時、初めて目で分かるダメージを与える事が出来た。そしてそれは同時に、影野にとって初めて感じる成長でもあった。


 「(もうあの時の弱い俺じゃない。確実に強くなってる)」


 「へ、へへ……中々やるじゃねぇか。面白くなって来たぜ……ぐっ!!?」


 「!!?」


 ここからが本番。そう思った矢先、谷原の様子が急変する。両膝を地面に付き、倒れてしまった。そして装着していたパワードスーツも強制解除されてしまった。


 「お、おいどうした!!?」


 「く……そ……これ……か……ら……だっ……に………」


 慌てて傍に駆け寄る影野。続いて花村、組員達が駆け寄って来る。皆の心配を他所に谷原は意識を失ってしまった。


 「お、おい!! 急いで部屋に運べ!!」


 倒れた谷原の手当てをする為、組員達が部屋へと運んで行く。


 「いったい……何がどうなってんだよ……ん?」


 この急展開に困惑する影野。その視線の先には谷原が付けていた指輪がいつの間にか外れ、地面に転がっていた。それを拾い上げてじっと見つめる。


 「……花村、この指輪の解析を頼めるか?」


 「任せてよ」


 谷原が倒れた原因。今はまだ分からないが、もしかするとこの指輪が原因かもしれない。俺は解析を花村に任せ、谷原の容態を確かめるべく組員達の後を追い掛ける。

不本意な形ではあるものの、結果としてこの勝負は影野の勝利。

次回、谷原が倒れた原因が明らかとなる。

次回もお楽しみに!!

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