手を組む
前回、谷原達の過去が明らかになった。
その話に対して影野達は何を思うのだろうか。
「……これが怪真会で起こった真実だ……」
谷原の口から長々と語られた回想。その話にある組員は涙を流し、またある組員は身を震わせていた。それは裏切りに対する怒りか、はたまた何も出来なかった自分自身への不甲斐なさか、その両方か。
一方で最後まで話を聞いた影野と花村。花村は脳ミソだけなので読み取れないが、影野は耳を傾けるだけで興味無さそうな表情をしていた。
ふと気が付くと、谷原がこちらをじっと見つめている。語りの感想を述べろとでも言うのだろうか。影野は少々の面倒臭さを感じながらも、これから仲間に引き入れ様としている者達へのある程度のコミュニケーションは必須だと考え、口を開いた。
「それは……大変だったな」
「大変だったな……か。他人事だな」
「他人事だからな」
「これがアニメや漫画だったら、その定型文の返しに激昂するんだろうが、生憎俺はそこまで感情的じゃない」
「そうか……」
「お前は言ったな。怪異人にとって住みやすい世の中になると……」
「あぁ、少なくとも今の非労運による怪異人の一方的な虐殺は無くなると思っていい」
「そうか……なら、お前達と手を組もう」
「「「「!!?」」」」
「……どう言うつもりだ?」
あっさりと仲間になると公言した谷原。組員は勿論、花村や影野も驚きを隠せなかった。影野は警戒を高め、不信に思いながら意味を問い掛ける。すると谷原が答えるよりも早く、組員による質問ラッシュが飛び交う。
「そうですよ!? 今の流れからどうして手を組む事になるんですか!?」
「そもそも、こんな素人連中に手を貸す必要はありません!!」
「そうです!! こんな得たいの知れない連中の手なんか借りずとも、俺達だけでやれますよ!!」
「黙って聞いていれば素人連中だって? その素人連中に居場所を特定された間抜けな組員さんは何処の誰かな?」
煽られた事に対して、花村が煽り返す。その言葉にカチンと来たのか、組員が花村に詰め寄る。
「俺達が間抜けだと? ヤクザ嘗めんじゃねぇ!! ぶち殺すぞ!!」
「その脳ミソをグチャグチャにしてやろうか? あ!?」
「そうやってムキになるのは、間抜けだっていう自覚があるからじゃないの? あっ、それとも間抜けだから自覚はあっても直せないのかな?」
「何だとてめぇ!!」
しかし脳ミソだけの花村にとって、組員の脅しは全く効果は無い。寧ろ、倍にして煽られた事に組員が激昂し、脳ミソが入った入れ物に向かって殴り掛かろうとする。
「……」
ドガン!!! バギャン!!!
「「「「「!!?」」」」」
次の瞬間、谷原が目の前のテーブルを蹴り上げた。テーブルは空中を二、三回転した後、窓ガラスをぶち破って外へと飛び出した。
パラパラと窓ガラスの破片が床に落ちる。頭に血が上り、興奮状態だった組員はすっかり大人しくなっていた。
「わ、若……」
「すまなかったな、ウチの若い連中が迷惑を掛けた」
「いや、気にする必要は無い。売り言葉に買い言葉だ。こちらにも非はある」
「ご、ごめんなさい……」
同じく冷静になった花村が申し訳なさそうに謝罪する。本来、脳ミソだけで表情は分からない筈だが、その時は何となく落ち込んでいる事が伺えた。
「何処の組織でも、部下には苦労するって事か」
「そうみたいだな。それでこいつらの言葉を借りる訳じゃないが、俺も知りたい。どういうつもりなんだ?」
「……組織ってのは上に立つ者によって、第一優先される物が変わる。お前は怪異人の理想郷実現。そして俺は……」
と、そこまで言い掛けた所で口を閉じた。しかし既に谷原の見つめる先に答えはあった。視線の先にあった物、それは間抜けに呆然と立ち尽くす組員の姿だった。
「成る程、偶然にも利害関係が一致した訳か。しかし良いのか、俺の野望が実現すれば人間であるお前の立場は危うくなるぞ」
「そうならない為にも、お前に便宜を図らって貰いたい。こうしてわざわざ組織の長がスカウトしに来たんだ。まさか一般兵として雇う訳じゃあるまい?」
「ふっ、全て折り込み済みか。良いだろう、それくらいならどうって事はない」
「あ、あの若……?」
「何だ? 今、良い所だろうが」
話が纏まったタイミングで組員が声を掛けて来た。
「ほ、本当にこいつらと手を組むつもりなんですか?」
「不満か?」
「いや、その……まぁ、はい……」
上が決めた事の為、ばつが悪い。しかしそれでも引けない事がある。玉砕覚悟で不満である事に頷いた。
「……切っ掛けが欲しかった。今のままじゃ、力を蓄えるだけで放つ事が出来なかった。俺達以外の正面から非労運とやり合う奴らが必要だった。それが今日揃ったんだ」
「「「…………」」」
「とは言え、お前達の気持ちも分からない訳じゃない。実力も不確かな連中に背中を預けるなど正気の沙汰じゃない。なら、今確かめれば良い話だ。なっ?」
「……?」
谷原に同意を求められるが、何の事を言っているのかサッパリ理解出来ず、影野は思わず首を傾げた。
***
「こうなるかもしれないと予想はしていたが、まさか手を組んだ後にやるとはな……」
舞台は外に変わり、影野を中心にしてその周りを組員が取り囲んでいる。更にその奥では谷原と花村が傍観していた。
「ルールはシンプルだ。最後まで立っていた奴が勝者。敗者は勝者の言うことに従う事。それで良いなお前ら!!?」
「「「「「おぅ!!!」」」」」
「にしてもあいつ一人で良かったのか? こっちは組員全員で相手するんだ。二人でも構わないぞ」
「それでもそっちの方が遥かに多いでしょ。それに…………」
「?」
「彼ら程度の相手なら一人でも余裕だと思うしね」
「ほぅ……おっ、始まるみたいだぞ」
花村との会話に花を咲かせていると、影野の方で動きがあった事に気が付いた。
「ほら、どうした。こっちの準備は出来てる。さっさと掛かって来たらどうだ?」
「てめぇ、若に気に入られたからって調子に乗ってんじゃねぇぞ!!」
「その生意気な口、直ぐに利けなくしてやるよ!!」
「まずは俺から行かせて貰う」
そう言うと一人の組員が歩み出る。それはあの十五メートルは越える巨大な怪異人だった。
「お前か、相手にとって不足無しだな」
「へへへ……おら、潰れちまえぇえええええええええ!!!」
巨大な拳が勢い良く振り下ろされる。対して影野は避ける素振りも怪異人に変化する素振りも見せず、そのまま正面から受け入れた。勢い良く当たり、その場で土埃が舞い上がる。
「ひゅー、相変わらずデタラメなパワーだぜー!!」
「へへっ、ざまあみやが……あ?」
「ふん、中々のパワーだな」
が、押し潰される事は無かった。影野は片腕だけを怪異人化させ、振り下ろされた拳を汗一つ流さずに受け止めて見せた。
「だが、非労運達の攻撃に比べるとまだまだだな」
そう言うと影野は拳を掴み、巨体の組員を軽々と持ち上げて見せた。そして腕を上下させ、地面に何度も叩き付けた。
「どうした? 突っ立って見ているだけか? もう面倒だから全員で掛かってこい」
「こ、この野郎!! ふざけやがって!! やっちまえ!!」
その言葉を皮切りに一斉に襲い掛かる組員。それに合わせて持ち上げていた巨体の組員をハンマー投げ宜しく、360度回転させた。
「「「「「どわぁああああああ!!!」」」」」
例え怪異人としての強靭な肉体を有していようとも、同じ肉体を持つ物をぶつければ互いに傷付くのは明白。そしてたった一度吹き飛ばされただけにも関わらず、その場の組員全員がノックアウトされてしまった。
「おいおい、まさかこれで終わりか。俺はまだ半分の力も出していないんだぞ?」
奮起させようと分かりやすい挑発を送るが、組員は誰一人として起き上がる事は出来なかった。
「(これは思った以上に脆いな。もしかしたら戦力としては期待出来ないかもしれない)」
「おい、その辺で許してやってくれないか」
「ん? 何だ、お前も戦うつもりなのか?」
今後の戦力として加えるべきかどうか思案を巡らせる中、傍観していた筈の谷原が羽織を脱ぎ捨て、上半身だけを露出させた。服越しからでは分かりにくかったが、その肌は傷だらけで欠損した片腕がより痛々しく見えた。
「こいつら怪異人になってからまともに鍛えて無いんだ」
「成る程、だから弱かったのか。でも良いのか、人間のお前じゃ怪異人の俺には歯が立たないぞ」
「確かに今のままじゃ無理だ。だからこいつを使わせて貰うぜ」
そう言って取り出したのは、塗装が施されていない灰色の指輪だった。
「ま、まさかそれは!!? “パワードアクセサリー”!!?」
「“装着”」
谷原を中心に辺りが目映い光に包まれる。
「……何だと……」
目を開けるとそこには、武骨で昭和の特撮番組を彷彿とさせる古臭い灰色のパワードスーツを身に纏った谷原の姿があった。
まさかの非労運に変身した谷原!!
果たしてその実力とは!?
次回、影野VS谷原!!
次回もお楽しみに!!
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