全て君のせい
夢川と思わぬ再会を果たしてしまった影野。
いったいどうやってこのピンチを切り抜けるのか!?
「(どうして夢川さんがこんな所に!?)」
地元からここまで来るには、電車を何本か乗り継がなければいけない。決して高校生が気軽に出掛ける様な距離ではない。
それに見た所、夢川さんは一人みたいだ。家族や友人などの連れがいる様子は見受けられない。だとしたら、尚更こんな所で何をしているのか。
「(い、いやそれより今はこの状況を無事に乗り越える方が先決だ……)」
あまりにも突然の出来事に理解が追い付かず、パニックになっていたが、徐々に冷静さを取り戻し始めていた。夢川さんと出会ったのは想定外だったが、怪異人の姿では無く、人間の姿だったのは不幸中の幸いだ。
ここは適当に話を合わせて、何とかこの場をやり過ごそう。
「や、やぁ、夢川さん……こんな所で会うだなんて奇遇だね」
「えっ、あっ、う、うん……そうだね……」
「「…………」」
き、気まずい。話を合わせようにも、夢川さんまで黙ってしまっては、合わせる物も合わせる事が出来ない。こっちから話を振っても良いが、下手に情報を流せば、俺が怪異人である事がバレないとも限らない。だからと言って、このまま何も無言の状況が続くのも不味いぞ。
少しでも早くこの場から離れなければ、追手の非労運達がここにやって来るかもしれない。そうなったら俺の身元を調べられ、数ヶ月間失踪していた事が知られてしまう。家に連れ戻されるだけならまだ良いが、最悪の場合、俺が怪異人である事がバレてしまうかもしれない。それだけは何とかして避けなくてはならない。
「影野君は……」
「!!」
頭の中であれこれ考えていると、夢川さんの方から声を掛けてくれた。これは願ってもないチャンス。予定通り、話を合わせてこの場をやり過ごそう。
「怪異人……」
「!!?」
い、今何て言った!? 怪異人……? そう言ったのか!? まさか既に正体がバレていた!? もしくは怪異人から人間に戻る光景を何処かで見られていた!? くそっ!! 何が“人間の姿だったのは不幸中の幸いだ”!!
どうする……ここで消すべきか? 駄目だ、リスクが高過ぎる。俺に続いて彼女まで失踪すれば、さすがに警察も事件性を考えて動き出してしまう。そうなれば、今後の活動に支障が出る。第一、俺には夢川さんを殺せる度胸が無い。
ここまでなのか……。
「影野君は怪異人……を見掛けなかった?」
「…………へ?」
「あのね、この近くにあるWTSで怪異人が暴れたらしいの。それでその時、それらしき人影を追い掛けたんだけど、途中で見失っちゃって……そうしたら偶然、影野君を見つけて……それでもしかしたら逃げた怪異人を見掛けたんじゃないかと思って……」
「…………」
どうやら……夢川さんは俺が怪異人だとは思っていないらしい。ホッと胸を撫で下ろす。が、状況は何も変わっていない。寧ろ悪化していると思った方が良い。
彼女は先程、怪異人らしき人影を追い掛けて来たと言っていた。追い掛けたその先に偶々、数ヶ月失踪していた男がいた。こんなの誰がどう見ても俺が怪異人だと思うだろう。しかし、俺にはこの状況を逃れる考えがある。
「影野……君?」
「あぁ、その怪異人なら見掛けたよ」
「ほ、本当に!?」
「うん、実は俺も夢川さんと同じで、それらしき人影を見掛けたから、後を追い掛けて来たんだけど……見失っちゃって……」
「そ、そうなんだ……」
一見するとこの発言は、自分を追い込む物だと思われるが、そもそも人間が怪異人に変身するという事例が存在しない為、影野重孝=怪異人と導き出す事は不可能に近い。更に夢川さんは、自身が見た物と俺の発言を照らし合わせる事で、怪異人は何処かに逃げてしまったと判断するだろう。
これで夢川さんが、俺を怪異人だと思う可能性は限り無く少なくなったと言えるだろう。
「おい、何チンタラやってん……!?」
「!!!」
何とか誤魔化せたのも束の間、先に脱出用のマンホールに向かった近藤が、中々来ない俺に痺れを切らして、迎えに来てしまった。
「(ふ、ふざけるなよ!! 何で戻って来てるんだよ!!)」
「(や、やべっ!! 中々来ないから、心配して戻って来てみたら、人間の女の子に足止めされていたのか!! み、見られたか!?)」
「…………」
影野に声を掛けようとして、夢川の存在に気が付き、咄嗟に曲がり角の壁に身を隠した近藤。影野と近藤が恐る恐る夢川の方を振り向くと、どうやら彼女は何か考え事をしていたらしく、影野達の方には目線を向けていなかった。
「えっ、何か言った?」
「ううん、何も言ってないよ(あ、危なかった……)」
「(た、助かった……ん?)」
ホッとしていると、影野が夢川からには見えない様、左手を背後に回し、先に行く様に合図を送って来た。
「(先に行け、後から追い掛ける)」
「(わ、分かった)」
合図を受け取った近藤は、そのままその場を後にした。
「(これで取り敢えずは安心か……)」
「ねぇ、影野君……」
「どうしたの、夢川さん?」
本当は一秒でも早くこの場から離れたい。しかし、そんな事をすれば逃げなければならない、やましい理由があると思われてしまう。時間を掛けてでも、どうにか穏便に済まさなければ……。
「聞いたよ、まだ家に戻ってないみたいだね」
「…………」
薄々そんな予感はしていたが、やはりその話題を振ってくるか。
「ねぇ、一緒に帰ろ!! おじさん、おばさんが心配してるよ!! それに学校の……学校の……皆……だって……」
「?」
急に歯切れが悪くなった。口ごもる彼女に俺は理由が何となく分かっていたが、敢えて分からない振りをして首を傾げた。
「と、とにかく一緒に帰ろうよ!! ね?」
「…………」
本当ならここは適当に話を合わせる所だが、俺は過去にこの件で嘘を付いている。恐らく二度目は通用しないだろう。それなら……。
「……ごめん、夢川さん。それは出来ないよ」
本音を語るしかない。
「どうして!?」
「俺にはやらなければならない事がある。その為にも帰る訳にはいかないんだ」
「やりたい事って?」
「悪いけど、それは言えない」
「私……知ってるよ……影野君が虐められていた事……」
「…………」
「知ったのは最近だけどね……ごめんね、辛かったよね……誰にも相談出来ず、一人で苦しんで……それなのに私は無神経に話し掛けたりして……非労運を目指している癖に、一人の友達も助けてあげられないだなんて……」
ポロポロと涙を流す夢川さん。演技……ではなさそうだ。心の底から悲しんでいる。助けられなかった事を後悔している。
やがて服の袖で涙を拭い始め、決意を固めた表情を見せる。あぁ、嫌な予感がする。
「でも、もう安心して。これからは私が影野君を守ってあげる。もう誰にも影野君を傷つけさせたりはしない!!」
「(夢川さん……君は優しいな……)」
もし、もっと早くその言葉を聞かせて貰えれば、俺もこうはなっていなかったかもしれない。
いや、違うな。例えどうなっていようと遅かれ早かれ、俺は怪異人として目覚めていただろうな。そしてこの理不尽な世の中に対して、何か行動を起こしていたと思う。
だからこそ、言わせて貰う。この言葉を。君の優しさを踏みにじる言葉を。
「夢川さん……自惚れるのもいい加減にしてくれ」
「……え?」
「私が守ってあげる? 冗談じゃない!! そもそも、いったい誰のせいで虐められる様になったと思っているんだ!!?」
「えっ、え?」
「君のせいだよ。夢川さん」
「!!?」
驚いている。そりゃあそうだ、非労運を目指す者が実は虐めの原因になっていたなんて聞かされれば、矛盾と自己嫌悪に苛まれるだろう。
「気付いていないみたいだけど、君はクラスではマドンナ的な存在なんだよ。クラスメイトの皆が君の事を好いている。それなのに君は俺にばかり話し掛けて来る。当然、それを面白くないと思う人達がいる訳だ。その結果、俺は虐められる事になったんだよ!!」
「そ、そんな……私は……」
混乱している。これじゃあまるで、俺が夢川さんを虐めているみたいじゃないか。でも、もう止まらない。鬱憤が溜まっていたのか、それともずっと言ってやりたいと思っていたのか、次々と言葉が出てくる。
「君が余計なお節介を焼かなければ、俺は何事も無く学園生活を送れたんだ!! こうなったのは全て君のせいだ!!」
「!!!」
泣き崩れる夢川さん。俺は生まれて初めて女の子を泣かせてしまった。それも自分の怒りをぶつける事で。
何事も無く学園生活を送れた? 何を言ってるんだ俺は。夢川さんが話し掛けなくても、虐められていただろう。全ては結果論だ。それを全て夢川さんの責任にした。遂に俺は本物の悪になってしまった。
本当は穏便に済ませたかったが、こうなっては仕方無い。これ以上、彼女を傷付けない様、そして怪しまれない様に俺は脱出用のマンホール側では無く、表通りから堂々と出る事にした。俺は無言のまま、足早に夢川さんの横を通り過ぎようとする。
「……待って……」
「…………」
夢川に呼び止められ、思わず歩みを止める影野。しかし、互いに振り返りはしなかった。
「おじさん、おばさんから伝言……あの家でずっと帰るのを待ってるって……」
「…………」
影野は何も答えずに、その場を去った。一人残された夢川は、しばらく泣き続けるのであった。
一人の少女を泣かせ、それでも影野は歩み続ける。
果たして彼が行き着く先は希望か、それとも絶望か。
次回もお楽しみに!!
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