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WTS

皆さん、お久し振りです。

こちらの作品は不定期なので中々更新しませんが、気長に待って頂けると幸いです。それではどうぞ

 WTS(World Television Society)は、全世界で親しまれているテレビ局だ。日本に本部を置き、世界各国に根を張っている。その影響力は凄まじく、一度番組やニュースを流せば、あっという間に世界から認知される事になる。


 その為、視聴率は毎回80%台を軽く越える。世界で最も力を持つ存在と問われれば、一二を争う名前として必ず挙げられるだろう。


 そんな世界が誇るテレビ局の本部前に、俺は立っていた。何故俺が一人でこんな所にいるのか。当然、WTSの配信をジャックする為だ。


 「……作戦開始だ」


 周囲から怪しまれない様に眼鏡とスーツを着用し、大きなキャリーケースを片手に自動ドアを通り抜け、中へと入る。


 エントランスは広々として、業界人が忙しなく行き交っていた。その中央では、受付嬢が来客の訪問を的確に捌いていた。


 「はい、そちらの件でしたら7階の会議室までお越し下さい。加藤様ですね、今すぐお繋ぎします。吉田様、一階エントランスで五十嵐様がお待ちしております」


 まるで千手観音の様に対処していく様子は、見ていて圧巻だった。が、今はそんな事に気を取られている暇は無い。俺は壁側に置かれているソファに腰掛け、周囲を見回す。


 「……あった、あれが目的のエレベーターか……」


 このエントランスだけでも、十五人の警備員が周囲を監視している。少しでも不振な動きを見せれば、即座に取り押さえられてしまうだろう。


 特に上の階に行く為の階段やエレベーターには、警備員が必ず二人付いている。そして今回、俺達が狙っているエレベーターはその中でも特別。非労運(ヒーロー)達の活躍を生放送でお茶の間に届けるスタジオへと通じる直通エレベーター。警備員も一人増えて三人と豪華だ。

 

 「(よし、ここまでは計画通り……後は“あの男”が上手くやれば良いんだが……)」


 計画が順調に進んで行く一方、俺は“ある男”の事が気掛かりになっていた。それは数日前、このテレビ局の配信をジャックする事を計画した時から始まっていた。




***




 「……と、ここまでがテレビ局の内部へと侵入するルートだ」


 俺達はテレビ局の設計図を広げながら、どう侵入するかプランを組み立てていた。


 「しかし驚いたな。まさかあのWTSの設計に姫宮さんの会社が関わっていただなんて……」


 「一時期、姫宮グループは兵器開発だけで無く、産業や建設業にも手を出していました。その時に資金援助した施設が……」


 「WTSだった訳か……でもまさか、当時の設計図があの屋敷で埃を被っていたとは……運命的な何かを感じるな」


 「お役に立てましたでしょうか?」


 「あぁ、大手柄だ。後はエレベーターの警備員を引き付ける囮役が必要なんだが……」


 「それなら俺様が引き受けようじゃねぇか」


 「…………」


 確かに、近藤ならばその役目を充分果たせるだろう。能力は正直微妙だが、時間稼ぎには問題無い。しかし……。


 「いや、駄目だ」


 「何でだよ!?」


 「危険過ぎる。これから俺達が襲撃するのは、そこらのテレビ局じゃない。世界でも指折りのWTSなんだ。騒ぎを起こした瞬間、非労運(ヒーロー)を呼ばれて即ゲームオーバーだ」


 「そんなの返り討ちにすればいいじゃねぇかよ!?」


 「お前は知らないんだ!! 非労運(ヒーロー)の強さを!! あいつらの強さは異常だ。正直、俺達全員が束になっても勝てるかどうか……」


 甦る非労運(ヒーロー)に殺されかけた恐怖。戦う気が無かったとは言え、近藤や姫宮に勝った俺が一方的にボコられた。もし、駆け付けた非労運(ヒーロー)があれだけの強さを持っているとしたら、近藤の命はそこまでになってしまう。


 俺が激情した事で、三人の雰囲気が重たい物になってしまった。これでは駄目だ。何とか立て直さないと。


 「すまない。つい熱くなってしまった。でもこれだけは忘れないでくれ、俺はこんな所でお前達を失いたくないんだ」


 「重孝さん……」


 「ったく……じゃあどうするんだよ?」


 「誰か雇おう。出来れば人間で、金の為なら何でもやる様な奴が理想的だ」


 「……おい、それならピッタリの奴を知っているぜ」


 「本当か?」


 「あぁ、高校時代の同級生で所謂悪友だ。卒業してからは疎遠だったんだが、風の噂で黒い仕事に手を出しているらしい」


 「信用出来るのか?」


 「分からん。けど、金さえ払えば殺しだって引き受けるらしいぜ」


 正直、人間の力は借りたくない。利用するにしたって、数少ない軍資金を崩すのは痛い。だが、道は他に無い訳だから……。


 「……よし、その男には俺から直接アプローチを掛ける。この中で人間に化けられるのは、俺だけだからな。近藤、後で男の居場所について、噂程度でも良いから教えてくれ」


 「分かった」


 「姫宮、悪いがお前の屋敷にあった残り少ない資金、使わせて貰うぞ」


 「気にしないで下さい。元々、汚い商売で稼いだお金。少しでも世の中の為に役立てられるのなら、喜んで差し出します」


 「世の中の為……ありがとう」


 これは一つの賭けだ。もし、その男が信用に値しない存在だった場合、別の手を考えなければならない。




***




 薄暗く油や食べカスが落ちている人気の無い飲食店。謎のネバネバとした液体が壁から滴り落ち、ゴキブリが我が物顔で店内を動き回っていた。


 「(酷い臭いだ……)」


 営業時間にも関わらず、店主のオヤジは居眠りをしていた。店内には店主の他に数えるだけの客しかいなかった。それも食べるのが目的では無く、裏取引するのが殆どだった。そんな中で、一人だけ隅のテーブルで食事を取る男がいた。


 「(あいつか……)」


 俺はその男に近付き、向かい合う様に座った。しかし男は特に気にした様子を見せず、無言で食事を続ける。


 「お前がドブネズミの“ラット”だな」


 「誰だお前は?」


 「お前に依頼したい。報酬は百万だ」


 「まず俺の質問に答えろ。名を名乗れ」


 緊迫した雰囲気が流れる。名前か。本名は当然言える訳が無い。かと言って、偽名なんて使い慣れていない。下手な嘘はすぐにバレるだろう。となると、俺が取るべき行動は……。


 「悪いが、まだ名乗れる程の名は無い」


 「はぁ? まぁいい……この業界で名前なんてあって無い様な物だからな。だが、名乗れる名前が無いなんて、まるで何処かの組のトップみたいな言い方だな」


 「……無駄口を叩くのなら、この話は無かった事にするぞ」


 「おいおい落ち着け、ジョークだって。ユーモアの無い奴だな……余計なお世話かもしれんが、名前が無い奴なんかに誰も付き従わないぞ」


 「…………」


 「分かった、仕事は引き受ける。何をすれば良い?」


 「内容はシンプル。WTSのエントランスで暴れろ。警備員の目を引き付けろ」


 「WTSだって? お前、いったい何をするつもりなんだ?」


 「質問は受け付けない。お前は頼まれた仕事を黙って遂行しろ。これは前金の三十万だ。無事に依頼を成功させたら、残りの七十万を支払う」


 「……契約成立だ」


 「…………」


 そう言うとラットは右手を差し出し、握手を求める。が、俺は握手せずにその場を後にした。これ以上、この男に関わりたくないというのが建前で、本音はあの汚ならしい手を触りたく無かった。




***




 「(あの男が三十万片手に逃げ出していなければ、そろそろ来る筈だが……やっぱりあんなのを信用するべきじゃ無かったか……)」


 『おいおい!! どうなってんだよ!! このテレビ局はよ!!』


 「この声は……」


 声のする方向に顔を向けると、そこにはラットがいた。どうやら受付嬢に対してクレームを入れている様だ。わざとらしく大声を上げ、周りの目線を集めている。


 「お客様、落ち着いて下さい」


 「うるせぇ!! こっちはイライラしてるんだ!! いいから責任者を出せ!!」


 「ですから当社の何にお怒りなのかを仰って頂かないと、我々も対処に困ります」


 「だからそれはえーと……とにかくこのテレビ局がイラつくんだよ!!」


 そう言うとラットは、受付嬢の顔面を殴り飛ばした。突然の出来事に周囲は混乱し始める。この事態に警備員も何人か対処に回った。しかしまだ特別エレベーターの警備員は動いていない。


 「早く責任者を出せ!! さもないと皆殺しだ!!」


 何処から仕入れたのか、ラットは拳銃を取り出し、受付嬢を人質にした。


 「「きゃあああああ!!!」」


 「お、おい!! 誰か非労運(ヒーロー)を呼べ!!」


 「た、助けて!!」


 この事態に、さすがの特別エレベーター警備員も対処に回った。この隙を狙い、俺は目立たずに特別エレベーターへと乗り込む。非労運(ヒーロー)を呼ばれた以上、ここからは時間勝負だ。一分一秒も無駄に出来ない。エレベーターのドアが閉じる瞬間、ラットと目が合った。その時、奴は何故か不適な笑みを浮かべていた。


 エレベーターはぐんぐん上へと進み、目的のスタジオへと辿り着いた。エレベーターのドアが開くと、そこには撮影スタッフとタレントの全員が倒れている光景が広がっており、中央には既に侵入していた近藤が待っていた。


 「よっ、遅かったな」


 「時間通りだ。お前が早過ぎるんだ」


 「へへっ、俺様は仕事が早いからな」


 「姫宮、着いたぞ」


 そう言いながら俺は、持っていた大きなキャリーケースを開けた。すると中から姫宮がニュルニュルと這い出して来た。


 「申し訳ありません。私がこの様な体のばかりに重孝さんにご迷惑を……」


 「気にするな。俺達は仲間なんだ。仲間は支え合って行かないと意味が無い」


 「ありがとうございます」


 「おい、イチャイチャするのは後にしてくれ。もうすぐ本番だぞ」


 「分かってる。機材の用意は?」


 「バッチリだ。と言っても、全てスタッフが用意していたみたいだけどな。後はボタンを押すだけだ」


 「準備OKですわ」


 「それじゃあ始めよう。あっ、ちょっと待ってくれ。まだ人間の姿のままだった」


 これじゃあ何を言っても説得力が無い。流すのなら怪異人(かいじん)の姿でなければ。俺は全身に力を込め、怪異人(かいじん)の姿へと変わる。


 「よし、始めてくれ」


 「本番十秒前、九、八、七、六、五、四…………」


 近藤は口を閉じ、指を折り曲げていく。もうすぐ始まる。怪異人(かいじん)達にとっての歴史的瞬間が。何事もスタートダッシュが大切だ。自分が何をしたいのか、何を掲げるのか、世界中の人に伝えなければならない。


 その時、何故だが分からないが、ラットの言葉が頭を過る。


 “余計なお世話かもしれんが、名前が無い奴なんかに誰も付き従わないぞ”


 名前か。考えても見なかった。だが、これから組織を立ち上げるのなら、必ず名前が必要になる。組織の名前は後にするとして……問題は自分の名前だ。本名じゃない。怪異人(かいじん)として活動する名前……。


 象徴的なのが良い。分かりやすく色で例えるのはどうだろう。白……怪異人(かいじん)達の幸せと平和を望む存在……いや、これから俺が歩む道は決して褒められた物じゃない。それなら黒……例えどんな汚い手を使おうとも、怪異人(かいじん)達の平等を掴み取る信念……いや、そんなやり方じゃ、非労運(ヒーロー)達と同じだ。白でも黒でも無い。そうなると……。


 頭の中で高速回転した脳ミソは、撮影開始直前に答えを導き出した。そして近藤の指が全て折り曲げられ、リアルタイムの映像が全世界へと流れた。不思議と落ち着いていた。俺はカメラに向かって静かに口を開いた。


 「皆さん、初めまして。私は“マスターグレー”、この世の秩序を正す者です」


 全てはここから始まる。

影野達の作戦は成功し、見事テレビ局の配信をジャックした。しかし本番はここから……。

世界中に伝える影野のメッセージとは!?

次回もお楽しみに!!

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