偶然の再会
大変長らくお待たせしました。
更新を再開させて頂きます!!
偶然とは恐ろしい物だ。本人が意図してない出来事が突然起こってしまう。前々から欲しかったゲームソフトが、ふと立ち寄った家電量販店に売っているのを見掛けたり、教科書で覚えた内容と全く同じ内容の問題がテストに出たり、そしてかつての旧友とバッタリ再会したり……。
「影野君……?」
「ゆ、夢川さん……」
どうして夢川さんがここに!? 今は授業中じゃないのか!? そういえば、さっきチャイムらしき音が聞こえた気がしたが、まさかこんなにもタイミング悪く保健室にやって来るだなんて。
などと自身の凡ミスを嘆いていると、夢川さんがいきなり体に抱き付いて来た。
「ちょ、夢川さん!?」
突然の出来事に、正直驚きを隠せなかった。よく見ると、若干涙ぐんでいる様であった。更にぐずぐずと鼻をすする音まで聞こえた。だが、さすがは学年1、2を争う美女。泣き顔も非常に可愛らしかった。こうして密着している間にも、髪の毛からシャンプーとリンスの良い香りが漂って来ていた。
「今まで何処に行ってたの!? 心配してたんだから!!」
「えっ、あー……」
「昨日、学校を休んだから風邪でも引いたんじゃないかって、お見舞いに行ったら家からいなくなっていて、まだ帰って来てないって……」
「ちょっと夜中に散歩してたら、道に迷っちゃって……」
「嘘!!」
「嘘じゃないよ。道に迷っちゃったんだよ」
強ち嘘とは言い切れない。お金も何も持たずに出てしまい、結果電車にすら乗れなくなって、ずっと帰られずにいたのだ。そういう意味では、道に迷っていたと言えるのかもしれない。
「ならどうしてすぐに警察に連絡しなかったの!?」
「そ、それは……近くに交番が無くて……」
説明出来る訳がない。突然怪異人となってしまって、混乱する中ここまでやって来ましたなんて言ったら、馬鹿にしているのかと怒られてしまう。もし万が一信じて貰えたとしても、怪異人は害虫扱い、即座に非労運を呼ばれて殺されるのがオチだ。
「影野君……もしかして何か隠してる?」
「何も隠してなんかいないよ」
苦しい言い訳なのは知ってる。だけどここで認めて全てを話してしまっては、何もかもおしまいだ。まだ何も成し遂げていないのに……。
「はいはい、そこまでよ夢川さん」
この危機的状況を救ったのは、相澤先生だった。俺達の間に割って入ると、両手を使って夢川さんとの距離を物理的に離した。
「相澤先生……」
「実は影野君はね、保健室で寝泊まりしてたのよ」
「寝泊まり?」
「えぇ、どうにも自宅のベッドでは寝付けないらしくて、それでいつも使っている保健室のベッドで寝てたのよ」
「でも……昨日の朝から見当たらないって……」
「バレるのが恥ずかしかったのよ。家じゃ寝れないからって、保健室のベッドで寝ていた事が。それで素直に帰る事も出来ず……そうでしょ?」
そう言うと相澤先生は、俺にウィンクを送った。先程の言い訳と大差ない気がするが、大人である先生が言うだけあって妙な説得力があった。
「……はぁー、バレちゃしょうがないか……そうだよ、保健室のベッドで寝てたんだ……」
更に張本人である俺の肯定が加われば、信憑性は更に増す。俺は相澤先生の意見に便乗する事にした。対して夢川さんの方は、怪しく思いつつも取り敢えずは納得の意を示してくれた。
「分かりました。そういう事情があったのであれば、私は何も言いません。けど、影野君!!」
「は、はい!!」
「今すぐ家に帰ってあげて!! おじさん、おばさんは私以上に心配しているんだからね!!」
「わ、分かったよ……」
「それで夢川さんはどうしてここに?」
「あっ、はい。実は担任の山本先生から相澤先生に、この間の健康診断の結果を貰って来る様に言われて来ました」
「健康診断ね。分かったわ、ちょっと待ってて」
どうやら夢川さんが保健室に来たのは、保険委員としての仕事の為だったらしい。だとしても、まさかこんなにもドンピシャに鉢合わせしてしまうだなんて、運が悪過ぎる。
「はい、これがあなたのクラスの分よ」
「あ、ありがとうございます」
受け取った書類は見開きタイプになっており、それが1クラス分あるとなるとそれなりにかさ張り、とても持ちにくそうだった。
「…………」
「それでは失礼します……あぁ!!?」
「危ない!!」
案の定、バランスを崩して持っていた書類を落としそうになる。咄嗟に俺が支えた事で大事には至らなかった。
「ありがとう」
「……俺も運ぶよ」
「えっ、そんな悪いよ。これは保険委員の仕事だし」
「それではいそうですかって言える程、俺は薄情じゃない。それにあんな危なっかしい光景を見て、手伝わない人間はいないよ」
「でも……あっ……」
俺は渋る夢川さんを他所に、無理矢理上半分の書類を奪い取った。
「ほら、行くよ」
「……ありがとう」
そしてそのまま有無を言わさず、保健室を後にした。夢川さんはお礼を述べると、俺の後を付いて来た。その様子を見ながら相澤先生は小さく手を振りながら、俺達を見送った。
***
俺はいったい何をしているんだ。ほっとけば良いのに、つい手伝ってしまった。夢川さんを前にすると、気持ちが安らいで落ち着く。頭が真っ白になって、上手く言葉が見つからなくなってしまう。まさかそんな、もしかして俺は夢川さんの事が……。
「ね、ねぇ……」
「ん?」
自問自答していると、後ろから夢川さんに声を掛けられた。俺は歩みを止めず振り返らず、返事と意識だけを向けた。
「影野君って……好きな人いるの?」
何だその質問は!? 今ここでする質問なのか!? 思わず目線を後ろに向けると、そこには頬を赤らめこちらに目線を合わせない様にしている夢川さんの姿があった。何でそんな態度を取るんだ。止めてくれ、これ以上俺の気持ちを揺り動かさないでくれ。
「いないけど……それがどうかしたの?」
「うん……実はね、私……好きな人がいるんだ……」
「へ、へぇ……そうなんだ……」
駄目だ、このシチュエーションでその言葉は完全に誤解を招いてしまう!! その気になってしまう!!
「さ、参考にまでなんだけど……いったい誰なのかな……?」
心臓が激しく鼓動する。あまりに激し過ぎて痛みすら感じる。もしこの音を聞かれていたらどうしよう。自然と鼻息も荒くなってしまう。落ち着け、落ち着くんだ俺!!
「えっ、あっ、さ、三年の……武内悟先輩……」
「…………」
一気にテンションが下がるのを感じた。結局俺も男の子だったという訳だ。“武内悟”成績優秀、スポーツ万能、オマケにルックス自体も高い。部活はサッカー部で主将を勤めており、リーダーシップに長けている。正に完璧超人、非の打ち所が無い。夢川さんが惚れるのも無理はない。
「どうしてそんな話を俺に?」
「え、えっと……ほら影野君って一つ年上じゃない? だからかな、とても頼りがいがあるっていうか、こういう個人的な事を話せるのは影野君しかいないかなって……」
「そっか……」
何とも泣ける話じゃないか。年が一つ上なだけで、恋愛経験があるかどうかも分からない男に、自分の恋愛を相談するのだから。はぁ、思えば思う程に自分が惨めになっていく。早めに話を切り上げよう。
「大変そうだけど夢川さんの高いポテンシャルなら行けるよ」
「ほ、本当に!? 本当にそう思う!?」
俺が太鼓判を押した途端、側に詰め寄り再確認して来た。正直、ちょっとうざく感じた。あぁ、またやってしまった……自分がフラれたからって、態度を改めるのは惨め過ぎる。
「も、勿論だよ。自覚無いかもしれないけど夢川さんは美人だし、性格も良いから絶対上手く行くと思うよ」
「へ、へぇ……そうなんだ……因みにもし影野君だったら嬉しい?」
「っ……そりゃあ、嬉しいに決まってるよ」
「そっか……そうなんだ……えへへ……」
その笑顔が俺の心を傷つける。悪意の無いその想いが余計に俺を惨めにする。夢川さん、君の事は嫌いじゃない。けど苦手だ。このまま話続けてしまうと、俺は俺自身が許せなくなってしまう。失恋のショックから、君を傷付けてしまう可能性があるから。
「まぁ、頑張って応援してるよ」
「えっ、あっ、う、うん……」
ん? 何だか少しテンションが下がった様に見えたが、多分気のせいだろう。そんな事より一刻も早くこの書類を教室に届けてしまいたい。そして出来るだけ早く夢川さんの側から離れたい。
それから俺達は一言も発する事無く、教室まで辿り着いた。扉を開けると既に皆下校した後なのか、先生を含めて誰もいなかった。仕方なく教卓の上に持って来た書類を乗せた。
「それじゃあ俺は先に帰るよ」
「うん、手伝ってくれてありがとう。また明日ね」
「……うん、また明日……明日ね……」
恐らく二度と俺自身が、ここに足を踏み入れる事は無いだろう。俺にはやるべき事が出来た。これから虐げられて来た怪異人達の理想的環境の為に動かなければならないんだ。いちいち学校に通っている余裕は無い。
俺は夢川さんに別れを告げて教室を後にした。
「痛っ!!」
その直後、廊下で人とぶつかってしまった。俺は衝撃に押し負け、尻餅を付いてしまった。慌ててぶつかった相手を確認した。
「あ? おやおやこれはこれはサボり魔の影野君じゃありませんか?」
「!!!」
それは他ならない俺を虐めていたクラスメイト達であった。
その時、俺は夢川さんの手伝いをした事を後悔した。手伝わなければ、こうして出会う事も無かったかもしれなかったのに。いや、そもそもこの学校に再び足を踏み入れようとしなければ良かったのかもしれない。いくら後悔しても、起こってしまった事を覆す事は出来ない。
「昨日はお前が学校を休んで退屈だったんだ。今日はその分、キッチリ楽しませて貰うからな」
「逃げられると思うなよ」
逃げられない様、背後を取られた。正直な話、このまま無理矢理逃げる事も可能だが、俺は敢えて黙って付いて行く事にした。だって、だってそうしないと……。
***
人目に付きにくい体育館裏。ここまで俺を真ん中に一列で歩いて来た。先頭の虐めっ子がこちらに振り返った。
「さてと……これからじっくりと料理してやっ……あがっ!!?」
「!!?」
と、同時に俺はムカつく顔面に拳をねじ込んだ。虐めっ子は勢い良く吹き飛び、無様に地面を転がった。
「あぁ、じっくりと料理してやるよ……但し食材はお前ら……調理するのはこの俺だ!!」
だってそうしないと、こいつらをぶっ飛ばせないからな!!
遂に復讐する時がやって来た!!
虐めっ子達に裁きの鉄槌を!!
次回 茨の道
次回もお楽しみに!!
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