第九十五話〜血戦の刻シーニャ視点Part3〜
投下です!
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暗い、ここはどこだ?
(私はさっきまで戦って……そうか、やられたのか?)
ならばここは死後の世界ということになる。
広く、のっぺりとした床がどこまでも続いている。
それは薄雲がかかった青空のように曖昧で、不安を掻き立てる。
(教義には死後の世界があると書いてあったが……意外にも本当に存在していたとは)
自分の服装はいつものメイド服だった。
突然足元に魔法陣が広がる。
(これは、現実か!)
そう認識するも、シーニャの意識は途切れるのだった。
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「アンタを育てたのなんて金のために決まってるじゃないか」
「貴様らが必要にされているなどと思い上がるな!」
「いくらでも換えが効く消耗品だ!」
「どうした! 出来ないのなら早く死んで消費食料を減らせ!」
「離れろ!」
「汚い……」
「私、こんなのと一緒に居たんだ」
「アンタさえ居なければ……」
「自分でわかってないかもしれないけど、アンタ嫌われてるよ」
「私の方が良かった」
「ありがとね……」
「どうして……! ごめんね、シーニャは頑張ってくれたんだね」
***
シーニャは本来、非常に感受性の高い人間だ。
花に微笑み、青空に心を弾ませる、もちろん少しでも辛いことがあれば気に病む。
シーニャの幼少期の育ての親からの裏切りは彼女の心を酷く蝕んだ。
だが幸か不幸か、彼女にはそれ以上の精神力と並外れた肉体があった。
そんな強靭な精神を持ったシーニャをしても自殺を図る程に、幼少期の経験と洗脳とも言えるほどの教育は厳しかった。
否、それだけならばシーニャは耐えたのかもしれない。
仲間が居れば人間とは強くなれる生き物だ。
しかし、シーニャはその仲間にさえ裏切られた。
そしてシーニャの心は堅く、表情は無くなった。
一見無表情にも見える彼女の表情は、その裏にある、感受性を覆い隠している。
彼女は務めて感情を表に出さないだけだ。
感情を表に出してもいい事など何も起こらなかったから。
しかしそんなシーニャにも本当の仲間というものが出来た。
彼らはシーニャの生まれを聞いても嫌な顔一つせず、それどころか羨ましがるような奴らだった。
だからこそシーニャは彼らに秘密を語るのを恐れた。
かつて仲間に裏切られたようなことが起こるのが嫌だったから。
しかし現実はあまりにも、あまりにも非情だった。
シーニャは自分の秘密を隠そうとする余り、仲間を失ってしまったのだ。
本気を出せば助けられた。
だが本当の姿を見せたくなかった。
他の仲間は仕方の無い事だと赦してくれた。
だがそれは一層シーニャにとって重荷となった。
一週間後、シーニャは耐えきれず、涙を流しながら本当の事を話した。
仲間はシーニャを責めたが、結局は諦めた様子で許した。
それがきっかけとなり仲間は離れ離れに、その内の数人とは未だ親交が続いてはいるが、それ以来会っていない仲間も居る。
それ以来、シーニャはずっと自分を責め続けてきた。
時の流れとは偉大なもので、数年が経つとシーニャにも守りたい物が見つかり、前向きになれた。
(だが今、自分はどうしている? 敵には負け、守りたかった物をまた、失う?)
『諦めたらいいじゃない』
目の前に自分が現れ、甘い言葉を囁く。
『諦めたら楽になれる、世界は私を裏切った。後は私がやるから、諦めて眠ったら良い』
嫌だ、心の底からそう思う。
それと同時に自分がまだ死んでいない事を認識する。
死んでいないならばまだ戦える。
一気に手足の感覚が戻る。
だがまだ膜に包まれたように動きが鈍い。
痛む身体を無視し、魔力を巡らせる。
もっと、もっと強く!
「あ、ああ、ああああ!」
膜を突き破るように一気に体が現実に引き戻される。
「……こいつは驚いた、ヒトの精神攻撃を乗り切るなんてな。まあ仕方ない、殺れ。俺もそろそろ魔力量が不味いんだ」
一斉に魔物が飛び掛かってくる。
身体強化はもうほとんど機能していない。
素の身体能力で勝負するしかない。
「は、あああ、ああ!」
ワルドサーペントの頭に鎌を突き立て、放電、頭を吹き飛ばすが威力が出ない。
勢いは止まらず、そのまま弾き飛ばされる。
そこへグリフォンがその爪を叩き付ける。
シーニャは腹に一撃を貰うが、グリフォンも翼を半ばから切り飛ばされる。
動きが止まったシーニャへ魔法と針の連打。
障壁を使い、なんとか魔法を逸らし、ゴブリンスペリアーと黒狼の動きを止める。
だが霞んだ目で針は捌き切れなかった。
「かはっ……」
脇腹に一本、貰ってしまう。
肝臓がやられたのか、肩にまで響くような鋭い痛みが走る。
三つ首ドラゴンが止めだと言わんばかりに突進してくるが、まだ終われない。
突き出た針を半ばからへし折り、三つ首ドラゴンの攻撃を躱す。
そして首をに突き刺し放電、爆散した勢いそのまま二本目の首も吹き飛ばすが、残る首に弾き飛ばされる。
地面を転がるシーニャ。鎌を地面に引っ掛けて立ち上がる。
だが肋骨が折れ、内臓が傷ついたのか口からドス黒い血を吐き出すシーニャ。
その姿は満身創痍だが、まだその目に宿った闘志は些かも衰えていない。
追撃をかけてきたゴブリンスペリアーの槍を鎌で受け流すがガルムがその隙を逃す訳もない。
角で魔法を飛ばし撹乱、対応が遅れたシーニャの左腕に噛み付くガルム。
「ああああ!」
シーニャは鎌を手放し、腰のマグナムを引き抜くとガルムの腹に向かって安全装置を解除し、三連射。
そのままマグナムでゴブリンスペリアーを殴り付け、なんとか攻撃をやり過ごすが、その代償は大きかった。
シーニャの左腕は半ばから噛み千切られた。
そこへ針と魔法の追撃、シーニャはなんとか躱すが三つ首ドラゴンの残った真ん中の首がシーニャの着地地点目掛けて炎を吐き散らす。
障壁を張り、なんとか防ぐが捌き切れなかった炎がシーニャを焼く。
思わず膝を付いたシーニャに三つ首ドラゴンが頭突き、シーニャの体は転がり、カシマの目の前で停まった。
手が届く場所に敵の頭がいるというのに、体は上手く動いてくれない。
なんとか腰のリボルバーに手を伸ばすが踏み付けられる。
「まさかここまでやってくれるとはね、もう魔力がほとんど残ってないや。でもここまでさ、こっちの勝ち、最後はこのリボルバーでカタをつけてあげよう」
カシマは徐にシーニャのマグナムを引き抜き、銃口をシーニャの額に押し当てる。
「じゃあね」
引き金をを引くカシマ。
(ごめんなさい、アンナ、マーサ、アーガス、そしてアキトさん……)
だがシーニャの意識は途切れなかった。
その瞬間、
ズドン!
衝撃と共に三つ首ドラゴンが吹き飛ぶ。
シーニャの体が誰かに持ち上げられる。
そしてシーニャの目に映ったのは、
「アキトさん……どう、してここに」
「助けに来ました!」
ああ、どうしてこんなに嬉しいのだろう。
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次回投稿は八日の土曜日の予定です!
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