七十七話〜ニトログリセリン!〜
投下です!
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『おっしゃー! 休みになったことだし、ダイナマイト作りますよダイナマイト!』
そう叫ぶシージア、やけにテンションが高い。
何かいいことでもあったのだろうか。
「思ったんだが、なんでそんなにテンション高いんだ?」
『理由なんて必要じゃないんですよ! 強いて言えばダイナマイトなので爆発的なテンションで作ろうと言うことですっ!』
うん、何があったんだ。
出会った当初の、あの胡散臭さはあったものの理知的なシージアは一体どこへ行ってしまったというのだろうか。
『ほらほら、時間は限られてますよ! 早速シホ先生の所にいって濃硫酸と硝酸が無いか聞きに行きましょう!』
「あ、ああ……」
『これでシホ先生が持っていなければ詰みですからね! 気合入れて行きましょう!』
「うん、そうだな……」
そこは気合を入れてどうにかなるものでは無いと思うのだが、気にしたら負けなのだろうか。
***
場所は変わって王城、もはや顔馴染みになった門番さんに身分証を見せ、門を潜る。
なんだろう、心なしか雰囲気がピリついている。
それもそうか、王城では魔物の大群が攻めてくるとわかっている人も多いだろう。
しばらく歩くと医務室に到着した。
相変わらず空いている、ここを俺以外が使っているのを見たことがない。
「シホ先生、こんにちは」
椅子にちんまり座って何やら書き込んでいるシホ先生に声をかける。
「ん、アキトか、どうかしたのか? そこで話すのもなんだし、とりあえず入ると良い」
「ありがとうございます」
促されるままに室内に入り、後ろ手に扉を閉める。
すると何やら書き終えた様子のシホ先生、一体何を書いているのだろう。
「で、要件はなんだ? 私は在庫の確認で忙しいのだが……」
「魔物の件ですか?」
「……知っているのか」
「はい」
「どこで……と言うのは聞かないことにしてやる。そのことは他言無用だぞ?」
「はい、もちろんです。で、本題に入りますが、シホ先生は硫酸とか硝酸って持ってますか?」
「あー……確か一樽あったはずだ、さっきの帳簿にはあることになっていたが……何に使うんだ? あんな危険な代物を」
ギロリ、とこちらを睨みつけるシホ先生、まあそりゃそうか。
俺だっていきなり劇物を貸せと言われて貸す訳がない。
「ダイナマイトを作ります、魔物の侵攻に備えようと思いまして」
「ダイナマイト? なんだそいつは」
「一言で簡単に言うと超強力な爆薬です」
「どうやって作るんだ?」
「石鹸を作るときに出るグリセリンと濃硫酸と硝酸を冷やしながら混ぜてニトログリセリンを作ってそれをおがくずや綿に染み込ませて型に詰めて爆発させます」
一息で説明すると、シホ先生は何を言っているんだコイツは、みたいな顔をしている
「そ、そうか。とりあえず強い爆発物を作って魔物を吹き飛ばそうってことで良いんだな?」
「そう言うことです」
やっぱり知らない単語が出てきたら理解しにくいよな。
その点シージアは……とそんなことを考えている場合では無いのだ。
「うーむ、まあそれなら譲ってやろう。どうせ使い道も無いしな、また何か用があったら頼んでくれ」
「ありがとうございます」
***
硫酸の入った樽を背中に括り付け、手には硝酸が入った樽を抱えて旅の揺り籠亭に帰る。
街行く人々に変な目で見られたが当たり前だ、俺も変な目で見る。
『いやー、シホ先生が保管しておいてくれて良かったですねぇ。それにしても管理を一人に集約させるとか王城の管理体制はどうなってるのやら、不安でなりませんよ』
(だよな、それにあんなに簡単に渡してくれるとは思っても見なかったよ)
あっさり、本当にあっさりだった。
まるで消しゴムでも貸してくれるような気軽さだった。
『まあ貰えたので結果良ければ全てよし、と言うことにしておきましょう! そんでもって樽を置いて石鹸屋さんに行きましょう!』
(ああ、そうするか)
旅の揺り籠亭に樽を置くときにアンナちゃんにこの樽は何かと聞かれたがとても危ないものとだけ伝えておいた。
硫酸やら硝酸だと言ってもわかるわけがないだろうからな、逆にわかったら怖い。
『ここを左に曲がれば石鹸屋さんですよ、石鹸を大量に買っちゃいましょう。お金は持ってますね?』
(もちろんさ、多めに持ってきた)
というかなんでシージアは石鹸屋さんがここにあると知っていたのだろうか。
まさか一度見たものは忘れないみたいな瞬間記憶能力でもあるのだろうか。
店に入り、一番安い石鹸を大量に買い込む。
店員に怪しい目で見られたが仕方ないだろう。
なんだか俺の印象がヤバいやつで固定されそうで怖い。
『よーしでは本格的にニトログリセリン作りに移行しましょう。場所は……いつもの場所でいいでしょう』
「そうだな」
『ではまずは』
「待て待て待て待て、なんか時空が飛んでないか?」
『何を言ってるんですか? ちゃんと移動してきましたよ? ほら、リヤカーを引いてここまできたじゃないですか』
「そ、そうだな……」
言われてみればそんなことをした気がする。
どうしてだろう、石鹸を買ったのがつい数十秒前な気がする、なぜだろう。
『と、そんなことは置いといてさっさと作りますよ!』
「お、おう」
『まずは石鹸を溶かします、リヤカーから焚き火セットを下ろして火をつけて下さい』
「了解」
周りに大きめの石で台を組んだら薪を組み立て、下に干し藁を詰めて指パッチンで着火する。
火が付いたら息を吹き込んで安定させ、鍋を乗せその中に石鹸を入れて溶かす。
その間に硫酸と硝酸の蓋を開ける、硫酸の樽の内側は錬成魔法で成形された銀の内張りが、硝酸は濃度が濃いようで鉄の内張りが施されていた。
『うーん、そういえば器がありませんね。仕方ありません、貴方の鎧で作りましょう。それなら解けませんからね』
「え」
『まあちょっとくらい』
泣く泣く腰回りの草摺りの先っちょを外し、大きめのボウル大の大きさの器に成形する。
それに加えてマグカップを二回り小さくしたほどのサイズの掬う用の容器を二つ作る。
ボウル大の容器に硫酸と硝酸をに三対一の割合で注ぐ。
それから溶かした石鹸を何やら魔法陣に置き、魔力を注ぐ、なんでもこの魔法陣は魔力が少なくて済むらしい。
それでもクラッと来た、自分の魔力量の少なさを嘆くばかりだ。
まあその努力の結果、石鹸の表面に透明な液体が浮かんでくる。
これがグリセリンか。
『よーし、では冷やしながらそれらを混ぜ合わせてください』
リヤカーから冷却用の水を張った水瓶を取り出しその口にを器をかぽっと嵌めて冷やす。
そしてグリセリンをツーっと垂らしながらゆっくり混ぜる。
『よし、それくらいでいいでしょう』
それをゆーっくりゆーっくりかき混ぜる。
そして……
「完成だ」
『やりましたね! 早速爆発させてみましょう!』
「危なくないか?」
『ちょっとなら大丈夫ですよ! 鎧がありますし!』
「よーし、それならやって見るか」
実はちょっとやってみたかったのだ。
気分は新しいおもちゃを手に入れた子供だ。
扱っているものは事故ったら洒落にならないような代物だから気をつけないといけないけどな。
少し遅れてしまいました、非常に申し訳ありません!
次回投稿予定日は今日、日曜日とさせていただきます!
モチベが異様に高いので行けるはずです!きっと……
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