第七十三話〜人生相談らしきもの〜
投下です!
***
王城から戻った日の夜の事であった。
ちょうど休日だったので旅の揺り籠亭に帰ると、これまでの事を思い返していた。
そうしていると無性に悲しいような気分になって来た。
「はぁ……」
溜め息を付くと幸せが逃げてしまうと言うのは本当なのだろうか。
いや、今はそんな事はどうでも良いのだ。
「アキト! 降りといで!」
マーサさんに呼ばれ下の階へと向かう。
一体誰だろうか、シュンヤ達は修行に行ってるし、シホ先生……ではないか。じゃあユウゴかシーニャさんか?
誰が来たのかと考えつつ階段を降りる、するとそこには、
「こんばんは」
「シーニャさん?」
「はい、よければ飲みに行きませんか?」
私服姿のシーニャさんが居た。
メイド服姿が脳裏に焼き付いていたので一瞬誰だか判らなかった。
服装的にはワンピース調のロングスカートとそこまで変わる気はしない。
だが服の配色がいつもの茶色基調ではなく、赤色が基調となっている事で印象がガラッと変わる。
それに加え、コルセットのような物をつけているのでなんというか……こう、胸元がグッと押し上げられて、強調されている。
何がとは言わないが結構大きいんだな……Dくらいか?
そして銀縁メガネが全体の印象にアクセントを与えている。
「はい……是非とも」
返事をして改めて見るが……うん、別人にしか見えねぇや。
こう言っては失礼だがメイド服以外持ってると思って無かった。
そんな事はありえないんが……先入観だな。
「ではオススメの店があるので行きましょう」
「明日は仕事があるからあんまり遅くなりすぎないようにするんだよ、いっそのこと朝帰りでも良いけどね!」
そう言ってガハハと豪快に笑うマーサさん。
曖昧にしか笑えねぇ……
***
ドゥーリットル市場を少し進んだ辺りの三階建ての建物の一階にその店はあった。
赤レンガの建物が雰囲気が良い。
こじんまりとした店だ、入り口は目立ちにくく、隠れ家(?)的な雰囲気だ。
初老の紳士と言った風のマスターと若い女の子のバーメイドの二人で経営しているそうだ。
俺らの他に客はおらず、シーニャさんに連れられてカウンターの端に座る。
マスターの背後には酒が並んだ棚が置いており、びっしりと酒瓶が並んでいる。
あれは……ヴォッカ? ああ、ウォッカか。
その隣は……ギン? いや、ジンか。やっぱり酒の名前って馴染みが無い分わかりにくいよな。
……待てよ
(なあシージア、あれって)
『ええ、地球のお酒ですね……』
なんでこんな所に地球の酒があるんだ……しかもよく見たらビールサーバーまであるぞ。
どっから電気引いてんだよ。
「私は適当なウォッカをロックで」
席に着くとシーニャさんがそう注文した。
椅子に座って大丈夫かと思ったが意外と大丈夫そうだな。
「かしこまりました、お連れの方はどうされますか?」
「では飲み易いのをマスターのお薦めで」
「かしこまりました」
少ししてマスターがカウンターにスッとグラスを二つ置く。
大きい丸い氷がグラスに一つ、そして透明の酒がなみなみと注がれている。
もう一つは、淡いオレンジ色のお酒がグラスに注がれている。
グラスの縁にはレモンの輪切りが添えられている。
「こちらはグレイグースです。お連れの方には飲み易いお酒をとの事だったのでダイキリを。ラムベースで滑らかな甘さで飲み易いはずです」
「どうも。ささ、アキトさんも」
「ありがとうございます」
一口飲むが、非常に美味しい。
マスターの言った通り口当たりは滑らかで、酸味が効いた甘味が飲み易い。
「突然ですがアキトさん、貴方はもし友人が危機的状況に陥っていて、友人を助けるためには貴方は命を落としてしまうかもしれない! という場面に出会ったらどうしますか?」
要するに友達の為に自分の命をかけられるか、ということか。
中々難しい問題だ、その友人との親しさにもよるし、命を落とす確率にもよる。
だが……
「基本的には助けに行かないかもしれませんね。こう言ったらなんか屑みたいですが、やはり自分の命ほど可愛いものは無いですね」
「ふむふむ、それを聞いて安心しました。ちなみに私は助けに行くつもりです。ですがアキトさんの判断が悪いとも思いませんし、むしろそれが賢明だと思います」
ふむ、突然どうしたのだろう。
「突然どうしたのだ、みたいな顔をしてますが特に理由はありません。ただ、気になっただけです」
それから暫く無言の時間が流れる。
ただただお酒を飲むだけの時間だ。
そして俺のグラスが空になったタイミングでシーニャさんがお酒を注文した
「彼にフロリダを」
「かしこまりました」
今フロリダって言ったぞ、フロリダって。
完全に英語じゃん、アメリカのフロリダじゃん。
そんなアホなことを考えていると、
「アキトさん、まどろっこしいのは無しに聞きますが、何か悩み事でもあるのですか?」
いやめっちゃ単刀直入だな。
そんな聞き方をされて話す人はそうそう居ない……と思ったが、俺は何故か話し始めていた。
バーという非日常の環境がそうさせたのだろうか、果たしてそれは分からないが、俺が悩みを話し始めたというのは紛れも無い事実だ。
シージアにも詳しくは話さなかった悩みを、だ。
「……俺は━━━━━━━」
全て話した。
王城で自分の変化が突然恐ろしくなった事。
本来変化とは良いことの筈なのに自分にはそうは捉えられない事。
もちろん俺が人間では無いという点は伏せて、だ。
そしてシーニャさんは一通り話を聞き終わると、
「失礼ですがアキトさん、年齢は?」
「十六です」
反射的に伝えてしまったが、良かったのだろうか。
酒を飲んでる訳だし。
「十六ですか……」
シーニャさんは目を丸くしている。
まあそりゃそうか、少なくとも見た目は十六には見え無いよな。
「私も、そんな時期はありました。自分が他とは違うのでは無いか、そう思って不安になる時期が。ですが考え抜いた挙句、私はある一つの答えに辿り着きました。私は普通では無いのだから普通なわけがない、と。考えてみれば当たり前ですね。あんな立場に居て普通な訳がない」
シーニャさんはそう、一息に言い切るとグラスに口を付けた。
その言葉は何故だろう、引っ掛かりがあるような雰囲気がありながらもストンと腑に落ちた。
そうだ、シーニャさんも俺と同じく普通ではなかったのだ。
そう考えるとシーニャさんが急に近くに感じた。
「まだまだ夜は長いのです、いくらでも相談に乗りましょう。なにせ、友人の悩み事ですからね」
そう言ってシーニャさんはグラスに口を付けた。
遅くなって申し訳ありません!
次回投稿は明日とさせていただきたいと思います!
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