第六十四話〜給料日〜
投下です!
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シュバルべ、もとい大鎌を作ってから早くも二週間が経った。
俺は相も変わらず旅の揺り籠亭でバイト生活だ。
今日も朝から薪割りやら掃除やら買い出しやら忙しいが中々満足感があって楽しい。
今は休憩時間、昼飯を食べ終わって自室で休んでいるところだ。
自室ではトレーニングや魔法陣をシージアに教えてもらったりと充実した毎日を送っていた。
そんでもって今日は特別な日だ。
ん? 何が特別かって?
何を隠そう、今日は初の給料日なのだ!
「ヒャッホーイ!」
『突然どうしたんですか⁉︎ 頭でもおかしくなりましたか?』
「頭がおかしいとは酷いじゃないか。なんったって今日は給料日だぜ? ちょっとくらいテンションを上げたって別におかしくないだろう?」
『まあ気持ちはわからなくもないですが……それにしたってはしゃぎすぎじゃないですか?』
「いや、日本にいた頃はお小遣いとかほとんど貰って無かったからな。自分で自由に使える楽しみがデカイんだよ」
日本にいた頃は中学生だったからバイトも出来なかった。
当然ながらゲームや漫画も買えなかったのでそこら辺の知識は友達頼りだ。
『それは悪いことを聞きましたね……して、何か買う予定とか買いたいものはあるんですか?』
「うーん、特に決めてないな。やっぱり雑貨とか酒が買いたいな、結構小物とか好きなんだよな」
『良いんじゃないですか、王都ですから工芸品やら雑貨やらはいっぱいあるでしょうからね』
と、そろそろ休憩時間も終わるな。
そろそろ下に降りるとしよう。
従業員室と書かれた部屋を出て、鍵をかけておく。
もし泥棒でも入ったら大変だからな。
廊下を抜け、階段を降りるとマーサさんが何やら袋を持ってこちらに歩いてきた。
お昼時を過ぎたからか客の姿は見えない。
「ほら、給料だ。きっちり五十万ナルタ分の金貨が入ってるよ」
「ご、五十万⁉︎ ど、どうしてそんなに? 十五万が相場だって言ってませんでしたっけ?」
確かここの牛の煮込み定食が一食で五百ナルタなので円に換算するとちょうど五百円といったところだ。
なので五十万円ほどだと見ていいだろう。初任給としては破格だ。
「アンナを助けてくれただろう? それのお礼さ。本当ならもうちょっと増やしたかったんだがな。最近の戦争で不況なんだ」
最初の頃に聞いた話によると十五万が相場らしいのでおおよそ三倍の増額か……凄いな。
ありがたく受け取っておこう。
「あ、あと今日はもうすることがないから休んでくれて大丈夫だよ。そのお金で遊んできたらどうだい?」
「是非そうさせていただきます!」
「嬉しそうな顔をするね、こっちまで嬉しくなるよ」
「本当にありがとうございます!」
五十万全部持っていくのは不用心だから十万だけ持って行って残りは部屋に保管しておこう。
十万でも十分すぎるほどの額だ。
さあ、贅沢をしようではないか。
***
場所は変わってドゥリットルの市場、そのど真ん中である。
戦時中にも関わらず賑わっている。
財布の袋はちゃんとベルトにくくりつけておいたので落とす心配は無い。
露店がズラッと並び、食べ物からお目当ての雑貨まで幅広い商品の店だ。
露店の一列後ろには少し価格がグレードアップするであろう宝飾店や酒屋、宿屋、レストラン等がズラッと並んでいる。
どこの店から寄っていこうか。
うーん、迷うな……とりあえず歩いて興味のある店があったら入るか。
そんな考えの元しばらく歩いていると、良さげな店を見つけた。
『お、中々シャレオツなお店ですね。こういう店、私も好きですよ』
シャレオツって……まあ良い。
(シージアもこういうの興味あるのか?)
『ええ、私だって女の子ですよ? 少なくともこの人格を作ってからは興味がありますよ』
(そういえばそうだったな。完全に忘れていたよ)
『ちょ、それどういう意味ですか⁉︎』
(冗談だよ。お、あのペーパーナイフ、カッコよくないか?)
『んもう……どれどれ、確かにこれはカッコイイですね』
その一本はたくさん並べられたペーパーナイフの中で一際輝いて見えた。
黒檀製と思われるの柄と鞘には緻密な模様が彫られている。スラっと細長い刃がキラっとランプの光を反射して美しい。
二十五センチ程の大きめサイズだから俺の手にもちょうど良い。
説明書きを見るに普通使いもできるらしい。
よし、金もあることだし衝動買いしてしまおう。
『ちなみにお値段は?』
えーと、いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……
(三万八千だな)
『うーん、少々、というかかなりお高いけど良いんじゃ無いですか? 自分へのご褒美ということで』
(そうだな、最近いろんなことがあったしな)
ナイフを手に取りカウンターへと持っていく。
店員さんは少々驚いたようだったが丁寧に対応してくれた。
四万ナルタを金貨で払い、残の二千は銀貨で貰う。
ナイフは箱に入れて貰ったが、その箱がまたカッコイイのだ。
そして店を出て、裏路地に寄り道して穴場スポット的な店を探している時に事件は起こった。
ドン、と衝撃がしたかと思うと十二歳くらいであろう少年がぶつかって走り去って行った。
すいませんの一言もなく、失礼な奴だなー、と思っていたのだが━━━━━━━━━
『スリです! 追いかけて下さい!』
(スリだと⁉︎)
慌てて腰に手を遣るが財布が無い。
全く気が付かなかった、早く追いかけないといくらシージアの目があるとはいえ見失いかねない。
「クソッ!」
慌てて追いかけるが少年は路地の入り組んだ方へ消えるところだった。
(シージア!)
『左手の路地です! そこの大通りに出て先に回り込みましょう!』
(了解ッ!)
大通りに出て走る。
周りの人が不思議そうな目で見てくるがそれどころじゃない。
七万以上も入っているのだ、盗られてたまるものか。
『よし、そこで鉢合わせるはずです。三、ニ、一……今です!』
バッと飛び出し、少年の胸ぐらを掴んで路地裏へ引き込む。
我ながら素晴らしい手際の良さだ。一歩間違えなくても誘拐犯に見えるかもしれないけどな。
「やあ僕ちゃん、ソレは俺のだ。返してもらおうか」
少年を顔を覗き込むようにしてそう問いかける。
だが少年は泣きそうな顔をして顔を横に振るばかりだ。
まあそりゃそうか、普通捕まったら酷い目に遭うと思うよな。
だが俺はそこまでする気はない、いくら犯罪者とはいえ事情があるかもしれない。
これで病気の母の為だったりしたら飯ぐらいは奢っちゃうかもしれない、本当はダメなんだろうけどな。
「大丈夫だ、お兄ちゃんは酷い事はしないからな。まずはソレを返してくれ」
そう言って財布を指差すが少年は顔をクシャクシャにして泣きじゃくるばかりだ。
うーん、どうしたものか……無理矢理奪うというのも一つの手だが気が引けるしなぁ……
「おい、そこで何してるんだ」
日本人らしき男と三人の美少女が立っていた。
「なんだ、テメェ━━━━━━━━」
「その子を離すんだ」
へ? もしかして、もしかしてだけど……
(俺が悪者になってる?)
『みたいですねぇ』
「痛い目に遭いたくなかったらその子を離すんだな」
そう言ってこちらに腕を突き出してくる青年、その手には銃が握られていた。
━━━━━━━━ん? 銃だと?
(もしかして転生者か?)
『その様ですね、私が転生させた覚えは無いので神々の内の誰かが転生させたのでしょう』
「おい、だからその子を離せと言っているんだ」
おっと、銃を持ってるのが衝撃的過ぎて忘れてたぜ。
ちゃんと説明して誤解を解かなければ。
「この僕ちゃんが持ってる袋あるだろ? これ、俺のなんだわ。俺被害者、オーケー?」
妙に緊張するからガラの悪いヤンキーの兄ちゃんみたいになっちゃった。
まあこれで誤解も解けるはずだ。
「嘘を付け!」
へ?
あー、嫌な予感がする。
コイツからは初登場時のシュンヤとおんなじ匂いがする。
でもこの状況をよく考えてみよう。
身長二メートル越えで全身鎧の不審者の横には泣きじゃくるいたいけな少年。
しかもその不審者は路地裏に少年を引き込んで少年の持つ袋を指差して「これ俺のだから」と言っている。
うん、俺が悪者だなこりゃ。
よし、ここは小心者のふりをしてなんとかやり過ごそう。
こんなことでせっかくの半ドンを潰されてたまるものか。
「へへへ、嫌だなぁ旦那ったら。これは俺のものなんですよぉ、だからね、ここは手を引いてもらえませんかねぇ?ゲヘヘ」
いかん、かえって怪しくなってしまった。
これじゃあまるで賄賂を握らせる悪徳役人みたいじゃあないか。
「お前みたいな不審者を放って置けるわけがないだろう。キチンとお縄についてもらうからな」
そう言って銃の引き金に指を掛ける青年。
不味い、この距離だと俺は良いとして少年が難聴になりかねない。
この少年には恨みしかないが、だからと言ってこんな目に遭うのも流石に可哀想だ。
「ッ⁉︎ お前……」
コイツの持っている銃はリボルバー、しかもダブルアクションだ。
この方式なら弾倉さえ押さえれば弾は出ないはずだ。実際青年は引き金が引けない事に驚いているようだ。
「おいアンタ、この狭いところで撃ったら耳が悪くなるだあぁぁ⁉︎」
突然俺の腕を握ったかと思えば一本背負いの要領で投げ飛ばしてきた。
な、なんつー力だ。
しかも全くの力技だった、下手したら腕が折れてたな。
「ふんっ!」
「ぐっ……」
なんで鎧の上からボディブローしてこんなに効くんだよ……!
あー、クソいてぇ……だがシュンヤの方が強かった。
「おらぁっ!」
「おそぃぎはぁっ⁉︎」
右ストレートを顔面に打ち込む……フリをして肘鉄!
これまた綺麗に決まったぞ。
……ていうか全然ダメージ通ってないっぽいな。
どんなチート使ったんだぁ?
「『フリーズ』!」
取り巻きの青髪の女の子が魔法を撃ってくる。
一応気は使ってくれているのか非殺傷系の魔法のようで鎧の関節部が氷に包まれる。
だがその程度で全身鎧の動きが止まるわけがない。
「ふんっ」
「なっ⁉︎」
少し力むと氷はあっさり割れた。
生身の人間に対してだったら効果はあったのかもしれないけど……鎧は氷より硬いからね、仕方ないね。
「『ブースト』『フリーズ』!」
「冷たい⁉︎」
なんだなんだ、さっきとは比べ物にならないほどの冷気だ。
う、腕が動かねぇ、腕が肩から両腕丸ごと凍ってるぞ⁉︎
「すごいです……」
さっきの青髪の女の子うっとりした表情でそんなことをのたまう。
なんかすんごい腹立つんだが。
「『パワーブースト』」
「ごはっ!」
なんだなんだ、さっきより力が増したぞ。
そういう系の魔法か? 厄介だな……
「くっ」
そのまま大振りで殴りかかってくる、だが粗い。
カウンターを決めようとして、腕が凍って動かない事に気がついた。
「この間抜けが! 凍っている事を忘れたのか?」
「まあ良いや」
凍った腕ごと青年の頭に叩きつける。
油断していたのか顎に綺麗に入ったようだ。
「グヘェ⁉︎」
あーあ、戦闘中にそんな油断してるからそうなるんだよ。
まあ俺も人のこと言えないんだけどな。
青年はというと脳震盪でも起こしたのか足元がふらついている。
これは勝負あったな。
「よーし、僕ちゃん。お財布を返してもらおうか」
少年はガタガタ震えて泣いている。
いやなんか悪いことした気分になるからやめて欲しい、被害者はこっちだってのに……
「『ブースト』『ブースト』『バインド』『ウォーター』『ショック』『スタン』『フリーズ』『エレクトリック』!」
「んぎょほぁぁぁぁぁぁ⁉︎」
『大丈夫ですか⁉︎」
(だ、大丈夫じゃない……)
「衛兵さん、ちょうど良かった。コイツがこの少年からカツアゲしようと……」
「ち、ちが……」
「なんだ、まだ意識があったのか『ブースト』『エレクトリック』」
否定しようとしたが、それも出来ずに俺は意識を手放したのだった。
いかがだったでしょうか?
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次回投稿は明後日、二月十日の予定です!




