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鎧の魔物奮闘記  作者: 晴れ甲羅
第一章 転生編
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第六十三話〜シュバルべ〜

投下です!


***


「長さははおおよそ二百センチほどで刃渡は八十センチ、幅広で肉厚にお願いします」


「デザインとか、絶対に使って欲しい金属とか仕様とかはありますか?」


「柄と刃の中心に銀線を通して頂けますか? 魔力の伝導が楽になるのです」


「わかりました」


よーし、俺ちゃん張り切っちゃうぞ。

ここは俺の持てる技術を全て注ぎ込んで最高の一丁に仕上げてやろう。


まずは設計図も兼ねてモックアップを作らなければ。

話を聞きながら少しずつ丁寧に作るとしよう。


シーニャさんが材料として用意してくれたものは金属だけでなく、動物や植物の皮、それに魔物の部位など多岐に渡るものだった。


柄の部分だが、ここは菱形の角を削ったような形にしてくれとのことだった。

少し湾曲をかけて滑りにくくしておく。


そして刃の部分だ。

ここは言わずもがな、一番重要な部分だ。

丁寧に湾曲を仕上げる、先端も薄くし過ぎることは無く、しっかりと強度を持たせなければ。

だが重心があまりにも偏ってしまうのは宜しくない、ということで肉抜きをしておいた。

これでかなり重心が持ち手側に寄ったはずだ。


刃とは逆の方向にも斧のような菱形で肉厚の刃を取り付ける。

先端にもスパイクを付けておこう、突きで攻撃できればかなり便利だろう。

もし前に使ってた鎌に付いて無かったとしても困ることはないだろうからな。


石突は滑らかに仕上げ、引っ掛かりが少なくしておこう。

このほうが扱い易いはずだ。


刃の接合部と根本は追加装甲を取り付けておこう。

ここを破壊されるとどうもこうもできなくなるからな。

あとは“ある仕掛け”を守る為でもある。


そうして一応モックアップが完成した。

ここまでわずか三十分である、我ながら圧倒的な速さだ。


それにしても厨二感が半端じゃない。

鉄色でこれなのだから仕上げて黒とかそういう感じの色になったらどれだけかっこいいのだろうか。

我ながら楽しみだ。


「こんなもんでいいですか? 完成品はバランスが変わるとは思いますが試しに持ってみますか?」


「はい、お願いします」


「どうぞ」


モックアップを渡すとアンナちゃんから少し離れたところで振り回し始めるシーニャさん。

凄い力だな、まるで木の棒を振り回しているようだ。


アレでも相当重いはずなんだがな、実際俺も結構ずっしり来たし……


ひとしきり扱った後、ふう、と一息置き、


「かなり良い感じではありますが、少し刃を外に向けて貰えませんか?」


「わかりました、ちょっと待っててくださいね」


根本からぐいっと曲げてシワの寄った部分を削り取り整形する。

表面を滑らかに仕上げる。


「これでどうですか?」


「うーん……いい感じです」


振り心地を試した後、そういうシーニャさん。

では仕上げといこうか。


刃の部分は芯とガワに分けて二重構造だ。

日本刀の曲がらず折れずを目指すとしよう。


だがその前に銀線を作らなければ。

銀線は作るのが難しいからな、細心の注意を払わなければ。

ここは押出成形と引出整形の両方を上手く使うとしよう。


押出成形とは素材を型枠に押し当て、非常に強い力をかけて押し出して成形するものだ。

表面が非常に滑らかに仕上がるので仕上げが必要ない程の滑らかさだが、問題点もある。


それは押出時に必要な力が非常に大きいという点だ。

普通数百トンから数千トンの力が必要となる、が、それは鎧の魔物の能力で全て解決する。


鎧の指関節部に押し当てて成形すればそれで済む話なのだ。

そうしてシュルシュルと銀線を押し出す。


そしてその長さが三メートルを超えたであろうところで一旦ストップする。

鎌の柄や刃は完全な直線では無いのだ、それに合わせて銀線を曲げなければならない。


出来上がった銀線はそこら辺に置いておく。

では芯作りだ、芯はタングステンで良いだろう、粘り強く、それでいて硬度も高い。

難点はかなり重いことだがシーニャさんならば問題ないだろう。


銀線に巻きつけるようにして芯を作る。

一通り完成するとほっそい鎌が出来上がっていた。

ここからが一番気を抜けない。


芯に肉付けするのだ。

正確には柄の部分には鋼鉄、刃の部分にはアダマンタイト、追加装甲にはミスリルを使うのだ。

追加装甲と根本の間には隙間があるのでそこの強度も確保しなければ。


だがその前に鉄の精錬を行わなければ。


この一週間シージアに錬成魔法陣の描き方を教えて貰ったのだ。

詳しい仕組みは全くもってわからないが何をすればどうなる等はわかるので良しとしよう。


直径二メートル程の魔法陣を小屋のすぐそばの地面に描く。この魔法陣は銑鉄を中心部に置き、魔力を通すだけで鋼が得られるという大変便利なものだ。

その中心に鉄をトグロを巻くようにして置く。


「シーニャさん、ここに手を置いて魔力を通してくれますか?」


「はい、どれくらい通しますか?」


「全力でお願いします」


「では、全力でさせていただきます」


実はこの合金鉄の魔法陣、欠点があるのだ。

それは非常に魔力を喰うのだ、今回は鋼を錬成するのだが、それだけでも俺が十回は余裕でぶっ倒れるくらいの魔力を使ってしまう。

まあ俺の魔力量が少ないというのもあるわけだが、という訳で魔力量が多いであろうシーニャさんに頼もうというわけだ。


シーニャさんが魔法陣の起点に手を当て、魔力を流し込む。

すると鉄はピキピキと音を立てながら不純物が鉄の表面に浮いてくる。

うーん、素晴らしい速さだ。このペースだと十数秒で分離し終わり、鋼が出来上がるだろう。

と、そろそろ良い頃合いだろう。


「シーニャさん、それくらいで大丈夫です」


「はい」


うーん、まだまだ余裕そうだな。

シーニャさんの魔力量ってどれくらいなんだろうな。

かなり多いのはわかるがどれくらいなのか見当もつかない。


ではこの鋼を使って鎌に肉付けをしていこう。

タングステンの芯の周りに鋼を癒着させる。

これで刃と追加装甲以外の部分は出来上がった。


では刃に肉付けを行うとしよう。

超硬合金、もといアダマンタイトで刃の部分を形作る。

こいつで刃を作ればほとんど最強と言っても過言ではないものが出来るはずだ。

魔力と結合させた金属を除けばの話ではあるがな。


だが難点ももちろんある、こいつは硬すぎて刃を研ぐということが非常に難しいのだ。

それに量もとても少ないので刃のエッジの部分に少量使用するのが限界だろう。

なので刃をあらかじめ成形しながら肉付けを行う。


鎧の指先の部分にナイフを押し当て、刃の形の鎧を成形する。

そしてその指先でアダマンタイトをなぞるようにして刃を作る。

歪みがないように一直線に、スッと指先を引く。

よし、かなり良い感じに出来たはずだ。

試しに五センチ四方程の角材をカツンと軽くぶつけてみると半ばまで刃が食い込んだ。

素晴らしい切れ味だ。


この刃をタングステンの刀身に癒着させる。

そしてこの鎌の目玉機能でもある機能の制作に取り掛かる。


刃の付け根に魔法陣を銀で描く。

そしてその上に隙間を空けて四枚、追加装甲を取り付ける。

よし、これで完成だ!


「シーニャさん、完成しましたよ」


「おお、ありがとうございます。綺麗な刀身です」


「凄いね! かっこいいよ!」


「ははは、ありがとう」


褒められると照れてしまうではないか。

意外だったのはアンナちゃんも作業を飽きずに見ていたことだ。

やはり冒険者志望、こういうことには興味があるのだろうか。


それにしてもなんか凄い見た目になったな。

なんというか人類が消え去った世界で自動人形達が振り回してそうな見た目だ。

アダマンタイトが赤みがかった色をしているのがまた厨二ポイントなのだ。


「振ってみても良いですか?」


「どうぞどうぞ、是非とも」


おっと、思考が脇道に逸れていた。

というかなんかやけに緊張するな。やはり自分の作ったものを他人が使うというのは責任が伴うからだろう。

やはりブンブンと枝でも振り回すかのように扱っている。

相当な重さのはずだ。二百キロはあるはずなのだが……物理的におかしいんじゃなかろうか。


「うん、良いですね。ですがこの魔法陣? はなんの魔法陣なんですか?」


「ふっふっふ、よくぞ聞いてくれました。試しに魔力を流してみてください」


鎌を構え直し、魔力を流すシーニャさん。

すると、


「っ……! これは……雷魔法ですか?」


「大正解です! これは魔力を電気に変換、要するに雷に変換する魔法陣です!」


刀身はパリパリと帯電し、時折火花が飛び散っている。


「どういう意図でこの機能を付けたのですか?」


まあそりゃ気になるだろう。

普通の魔法陣程度の威力じゃ致命傷を与えられるわけでもないからな。


「これはですね、この刃を相手に突き刺して通電させると、相手の体組織が沸騰させて、相手の肉を抉り取ります!」


そう、これは通常の高圧電線に流れるより遥かに高い電圧の特別高圧電線を流れる電流と同じ一万五千ボルトが流れているのだ。

そんなに電流を流すと金属が過熱するので、その熱を分散、放出する魔法陣も描いておいた。

これで熱膨張による歪みなどの問題は解

まあそのせいで鎌自体がだんだんあったかくなる訳だが問題ない程度だろう。


「この鎌の銘はなんですか?」


ひとしきり鎌を振り終えたシーニャさんがそう問いかけてくる。

しまった、考えてなかった。


「あのー……銘って必要なんですかね?」


「もちろんです。数打ちの品でも名が打ってあります。ましてやオーダーメイド品に銘を打たないなんてあり得ません」


即答された。この世界では銘を打つというのは非常に大事なことらしい。

そういうことなら鎌の印象から決めるか。

黒っぽい色に赤みがかった刃、これから連想するのは……ツバメだな。


「じゃあ“シュバルべ”というのはどうですか?」


「どういう意味ですか?」


「故郷の言葉でツバメという意味です」


「良い銘です。シュバルべ」


シュバルべとはドイツ語でツバメという意味だ。

確か第二次世界大戦の頃にこんな名前の戦闘機がドイツにいたはずだ。

それにしてもシュバルべか。また厨二度が深まった気がするが良いとしよう。


だってカッコイイからな!


遅くなってしまい申し訳ありません。

格好を付けてシーニャさんの得物を鎌にしてしまった非常に悩んでおりました。

次回投稿は明後日、二月八日の予定です!

よければ感想、評価、ブクマ等いただけたら嬉しいです!

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