峰岸さんとの約束
我が家から学校まで歩いて10分ほどなので、僕達は歩いて登校する。
配置は僕が真ん中で左に藍、右に凛である。
「連ちゃんと高校生になって一緒に登校するの初めてね」
「まぁ、そうだな」
「ふふ、なんか小学校の時の集団登校を思い出すわ」
「そんなことあったわね~」
「ねぇ、連ちゃん覚えてる? 連ちゃんがよくその集まりに遅刻していたこと」
「……なんとなく」
「あんた朝起きるのいつも遅かったもんねぇ」
「小さい時から起きるのは苦手だから」
「いつもおばさまが担いで持ってくるのよね」
「そうそう。連の目が全然開いてない訳よ」
「それでいつも私が手を繋いで連れてって……」
「どうした藍ちゃん。顔が赤いぞ?」
「う、うん。大丈夫よっ! 懐かしさのあまり感傷的になっただけ」
「?」
「……ところでさ連。学年一、二を争う美少女達と一緒に歩く気分はどうだ?」
「お前、自分で学年一、二を争う美少女と言って恥ずかしくないのか?」
「ばっ。仕方ないでしょ? 世間がそう評価してるんだから?」
「うーん。両手に華……いやバラかな?」
「バラなんてっ。褒めるなよ」
「いや、褒めてないから」
「凛、それは褒められてないわ」
「え、なんでだよ。バラ綺麗じゃん」
「綺麗けど棘があるだろ?」
「はぁ? 私達に棘があるって言うの!?」
「周りの連中が絡んできたらな……」
「……」
「あぁ。周りの連中がね」
そうこうしていると学校に近づいて来たので、僕は二人からずれて歩いた。
本当に学校の集団って面倒くさいと思う。
恋愛になってくると尚更だ。相手の評価の落とし合いが始まる。
僕だって周りを気にしなくて、藍と凛のグループと気まずい空気が起こらないなら、二人と一緒に居たい。ノンビリ過ごしたい。
しかし、それが出来ないのは学校の集団だ。スクールカーストだ。
そしてチャイムが鳴り、つかの間の昼休み時間。鞄からご飯をとり出していると、僕の席に峰岸さんが来た。
「一緒に食べない?」
「あ、うん。いいよ」
「食堂に行きましょう」
「教室で食べないの?」
「うん。少し気になることがあるから」
そして彼女はチラッと別の方を見た。
僕は何が気になるのか分からなかったので、そのまま素直に従った。
その時、藍と凛がこっちをちらっと見ていると気づかずに。
僕らは食堂に行って、弁当を食べ始めた。
「で、阿坂君の好みのタイプは何?」
「ぶっ、いきなりそんな話!?」
「そういう話をしたいって言ったじゃない」
「う~ん。優しくて包容力のある子かな?」
「家事は?」
「そうだな。僕が苦手だから出来ると有難い」
「服装は?」
「う~ん。服はあまり気にしたことがないな。まぁあまり派手じゃなかったら大丈夫」
「なるほどねぇ」
「峰岸さんこそどんなタイプが好きなの?」
「私? 私は阿坂君がタイプだよ」
僕は頬が熱くなった。いざ面と向かって言われたら、恥ずかしいものだ。
「そ、そうか……」
「とりあえず共通は本だけだね」
「そ、そうだね」
「あのさ、阿坂君。次の土曜日の夕方さ、空いてる?」
「空いてるよ」
「もし良かったら一緒に本屋さんに行かない?」
「えっ? うん。いいよ」
「やった。ありがとう。それじゃあ、line交換しよ」
「ok」
残りの時間は二人で小説座談会をした。
そして部活を終え、家に帰ると僕の部屋の電気がついていた。
もう藍が帰っているのであろう。彼女は部活に入っていない。
「ただいま~」
「お帰り~」
母がキッチンから返事をした。
そして二階に上がって、自分の部屋なのにノックをして入った。
藍はすでに私服に着替えていた。
「ただいま」
「お帰りなさい」
彼女は勉強をしていた。
何の勉強だろうか? 数学っぽいが、いつも宿題以外の勉強もしているので内容が分からない。
学年トップの成績の上、模試は全国で3桁以内に入っている。
なんでもう少し優秀な高校に入らなかったのか。それが藍の不思議の一つだ。
僕は私服に着替えたかったので、藍に尋ねた。
「あの、着替えるんで」
「え? あっ、うん」
そして僕は彼女の後ろでもぞもぞと着替えた。
(なんか変な感じだ)
そしたらどたどたどたと階段を駆け上がる音がして、
「たっだいま~」
凛がドアを思いっきり開けた。
そして僕はまだパンツの状態だった上に、二人は僕の方を見た。
「ちょっとどこで着替えてるのよこの変態!!」
「ここ僕の部屋なんだけど!?」
そして三人集まったので、いつものようにおしゃべりを始めた。
「でさ、山っちが遂にサッカー部の田中と付き合うんだって」
「へぇ。山っちって、凛のグループの山西さん?」
「そうだよー」
「へぇ、めでたいじゃないの」
と女子がきゃっきゃと大好き恋愛トークが始まる。
誰が付き合う、誰が別れる、惚れた腫れたの話をする。
僕はこういう話に疎く、興味もないが、お陰でそういう話については普通の学校の男子より情報通である。
人間関係の参考になるから、一応話を聞いている。
僕は二人が楽しそうに話しているのを見るのが楽しい。
二人の空間にいるのが落ち着くのだ。
僕がこの空間に浸っていると藍が凛に目配せをして、
「そう言えば連。昼休みどこに行ってたんだ?」
「えっ。あぁ食堂だけど?」
「峰岸さんと?」
「えっ、あっ、うん」
「ふーん」
「……」
「何だよ?」
「何の話とかするの?」
「彼女も小説好きだから、その話で盛り上がるかな」
「小説かぁ」
「成る程、その線ね」
「よく見てたな」
「べ、別にあんたのことなんか気にしてないけどさ。た、たまたま視界に入って珍しく女子と話しているのを見たからさ。『あー、この子かぁ』と思っただけなんだからっ!」
「はぁ、さいで」
「確かに連ちゃんも共通の話が出来る友達がほしいわよねっ」
「……うん、まぁな」
「私も小説読もうかしら」
「私も小説読もうかな」
「えっ、なんて?」
「なんでもないわっ」
そしてポケットからlineの音が鳴り見てみると、噂していた峰岸さんからだった。
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