洋からの宣戦布告
声の聞こえた方を見ると、首から上が怪しい格好をした二人組の女が居た。
はて、どこかで見たことあるような……?
「なに良いムード出してんだよ、連!」
「そうよ、駄目よ。連ちゃん!!!」
え、もしかして……。
「藍ちゃんと凛……??」
「えっ、あっ!!」
二人は同時に言った。
僕は驚いたというか、唖然とした。なんで二人がここに?
ていうかさっきの見てた……?
「い、いつから?」
「そ、それは……ねぇ、凛?」
「そ、そうだね。いつからだろうか?」
二人はお茶を濁した。グラサンをかけて見えないが、目が泳いでいる……気がする。
「どうしてここにいるのを二人は知ってるんだ?」
「えっ? それは~、まぁ女の勘よ(だな)!」
女の勘凄まじいな。
僕は少し感心してしまった。
「あの、連君……」
「はい?」
「肩に……貴方の手が……」
「え、あぁ。ゴメン」
どうも僕は驚いて、洋の肩を手で押さえたみたいだ。
洋は少し赤面してよそを見ていた。
「それより連ちゃん。『連君』ってどういうこと??」
「見知らぬ可愛い女になに気を許してんだよ?」
ん? 見知らぬ女?
「そうよ。会って間もない女にいきなり下の名前で呼ばせるってどういう了見なの!?」
会って間もない……? まさか……。
「あの、お二人さん」
「何よ(何だよ)!?」
「この子。峰岸洋さんだけど」
「えっ!??」
二人は驚いた。無理もない。学校とはうって変わった格好だからだ。もはやイメチェンレベルだ。
「み、峰岸さんなの?」
二人はおそるおそる彼女に問いかけ、彼女は頷いた。
「! ……」
「! ……」
二人は口をあんぐり開けてしばらく放心状態になっていた。
全く。下品な上、失礼な奴らだな。
「ちょっとゴメンね。少し凛と会議をするから」
そして二人は僕達から少し離れて、ボソボソと話していた。
「あのね連君」
「ん? 何?」
「女の勘は恐らく嘘よ」
「えっ? 本当に?」
「女の勘はそこまで万能じゃないから」
「え? じゃあ、いつから?」
「多分かなり前からじゃないかしら」
えーっ、かなり前から藍にあれやこれやを見られたのか!?
「お待たせ」
二人は帽子とサングラスのままこっちに近づいて来た。
「峰岸さん」
「はい」
「貴方、私達の連ちゃんをとろうとしているわね」
「……まぁ、そうですね。はい」
「駄目よ! 私達にとってはかけがえのない人なんだから。貴女には渡せないわ」
「……それは」
「?」
「幼馴染みとしてですか?」
洋は真っ直ぐな目をしていた。僕は二人の方を見た。
二人は黙って彼女の方を見ていた。
「答えられないんですか?」
「……」
「……」
「……そこは答えられないんですね。分かりました。まずは私から言いますね」
洋は一呼吸おいて話し始めた。
「お二人は薄々気づいていると思いますが、私は阿坂君……いえ、連君のことが好きです」
「……」
「そして、貴女達二人は煩わしいと同時に羨ましい存在です」
「……」
「こんなに連君と近くに居られるんだから」
「……」
「それに伊坂藍さん。特に貴女は羨ましい」
「え? 私?」
「昨日貴女は彼から命にも代え難い存在とまで言われてます。そこまで言ってくれる関係になるには一朝一夕では至難の業です。だから、まだ連君は私にそこまで言ってくれないでしょう」
「……」
「……」
「彼に思いを伝えてまだ二週間ほどです。貴女達二人と彼との長い年月が紡いだ絆からは到底敵いません。これからも敵わないでしょう」
「……」
「しかし、貴女達には負けません」
「!」
「!」
「私は年月で勝てなくても、彼と趣味嗜好の相性では貴女達に勝てます!」
「!」
「!」
「それに彼を愛し、支える自信もあります!」
「!」
「私は彼とはシンパシーを感じますが、貴女達とはほとんど感じません。そして恐らく彼もそうでしょう」
二人は僕の方に目線をやるが、僕は何も答えなかった。
「絆に勝つのは至難の業ですが、かといって諦めません」
「……」
凄い。彼女の確固たる意思に僕達三人は飲まれてしまった。
何も言えない……。
「ま、私の発言で皆さん色々思うところがあるでしょうから、今日はひとまず解散しませんか? ね? 連君?」
「えっ。あっ、うん。僕は別に構わないが……」
僕はちらっと二人の方を見ると二人は俯いたままだった。
僕は二人に帰るよう促し、四人で黙って駅に向かって、最寄りの駅に着き、洋と分かれる間際、藍が彼女に小さな声で哀しそうに伝えた。
「ねぇ、峰岸さん」
「はい?」
「私は貴女が羨ましいわ。だって、幼馴染みだから伝えにくい言葉だってあるんだから……」
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