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歳の数だけ。

作者: 篠原 ひなた

 ジョニー・ド・シェルダンは紳士である。

 といっても、常にシルクハットをかぶり、燕尾服を身にまとい、樫の木のステッキを持って歩いている、というわけではない。ささやかなふるまいひとつにも気品と優雅さがにじみでることから、周囲の誰もが冗談混じりに“紳士”と呼んでいるのだった。

 確かに、ジョニー・ド・シェルダンは紳士である。それゆえに、日本に来たばかりの頃は大変な苦労をしたものだった。

 たとえば日常生活に欠かせない公共交通機関。平たく言えば地下鉄ですら、彼にとっては鬼門にしかなりえないのだ。礼儀正しく順番を待っている間に、はたまたレディ・ファーストを徹底している間に、電車を乗り逃したことはもちろん、線路に落ちかけたことが何度あっただろうか。

 ジョニー・ド・シェルダンは紳士であるからして、我先にと電車に乗り込む人々にさえ文句を言ったことは一度たりともなかったが、それでもかつて訪れた日本とのあまりの変わりように衝撃を覚えたのは確かだった。

 そんなある日、背後の人ごみに突き飛ばされて線路に落ちかけた彼を救ったのが、現在の恋人、ミズ.ナツミである。

 ジョニー・ド・シェルダンは、謝意を示して彼女を食事に誘い、そこから二人のおつきあいははじまったのだった。


 紳士的なジョニー・ド・シェルダンと、行動的なミズ.ナツミ。

 二人が似合いの恋人なのか否かについては議論が残るところであったが、どちらの親族も認めるほどには、二人の交際は順調だった。

 

 そして今日。

 ジョニー・ド・シェルダンは、久しぶりにミズ.ナツミの家にやってきていた。

 ともに料理をし、食卓を囲む。それだけのことに、ジョニー・ド・シェルダンは緊張し、そして同時にとても楽しんでもいた。


「下準備に時間がかかってしまってごめんなさい」


 でも、残さないでね、と笑う恋人に、ジョニー・ド・シェルダンは勿論だとも、と返した。

 愛しい恋人の手料理を残すはずがない。

 その言葉に、安心したようにミズ.ナツミは笑った。

 そして、ジョニー・ド・シェルダンの前に大きなガラスのボウルを置く。


「歳の数だけ食べてね。あなたが健康に、長生きできるように」


 日本の風習なの、と言われて、ジョニー・ド・シェルダンは青ざめることすらせずにうなずいた。

 目の前に置かれたボウルの中には、豆が入っている。

 にっこり笑いながら豆を口に運ぶジョニー・ド・シェルダンは、当年きって829歳の吸血紳士だった。



 はじめまして。もしくは、お久しぶりです。

 この物語を読もうと思って読んでくださったあなた、

 たまたま行き会って読んでくださったあなた、もう二度と読まないぞと思われたあなた。

 あなたがそこに居てくださることが嬉しいです。

 この物語を読んでくださってありがとうございます。


 ご感想・ご批評、誤字・脱字のご指摘などいただけると嬉しいです。

(明日への活力になります)

 どうぞよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] オチが良かったため、この短い物語でも満足感を得られました。 名前を連呼しているので、多少くどく感じました。
[一言] た、食べるんですかジョニードさん!? いや、なんか読んでいてとても楽しかったです。 古き良き習慣を忘れることなく現代の世に生きる貴重な存在、それが皮肉にも恐ろしい筈の「彼」だったとは。 …
2009/04/01 18:49 退会済み
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