プロローグ
頭は良くないけれど、昔から創造力や発想力は誰にも負けない自信があった――。
そんな風に思ったからこそ小説を書き続けてきたのだが……違った……。
「この設定なら軽く十万文字以上書ける!」それはまるで、「このおかずさえあればご飯三杯は食べられる!」といったようなドヤ話に近い。いや、遠い! 唐揚げ一つでご飯三杯は……イケる。チビチビ食べればご飯三杯はイケる。しかし、小説はそうはいかない。唐揚げ一つで三十万文字は……しんどい。
誰かが書いたような小説しか書けない――。誰も書いたとこがない小説なんか――逆立ちしても書けない――。逆立ちしたら、まず書けない。キーボードも打てない。
だからこそ書いてやろうと踏ん張るのだが……いったい何を書けばいいのか……。
一度はどこかで目にしたことがある内容しか思い浮かばないのだ。
――今日、そのヒントが下りてきた――。まるでミュージシャンのように……。
適当にタイトルを決め、それについて小説を書くのだ――!
背表紙に「赤と黒」と書かれた小説は、いったいどんな内容なのだろうか。パッと目に浮かんだのは、フラメンコの赤と黒の衣装だった。……フラミンゴだったかもしれない。
真っ黒な袖と真っ赤なヒラヒラのスカートを翻して踊るフラメンコ。口には真っ赤なバラをくわえ、歯は真っ白。少し八重歯が出ているのがいい。
額から汗を流しながら情熱的に踊るが、伏し目がちなその表情から悲しげな過去が見え隠れする……。前髪がおでこにくっついているのがいい。
あ! これ、面白い。書いていて面白いというのは我々小説家にとって大切なことだ。
タイトルを先に決めて、そのタイトルにふさわしい小説をかき上げる、まったく新しい逆転の発想だ!
新しい挑戦の始まりだ――!
パッと目についたもの。それは……ク・エ・ナ・ベ? 「クエナベ」と書かれたお店ののぼり旗だった。
読んでいただきありがとうございます!
※この物語はフィクションでコメディーです。登場する人物・団体・名称・クエナベ等は架空であり、実在のものとは関係ありません。