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神のシナリオ  作者: 安動直樹
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序章 新藤春磨(しんどうはるま)の序曲(オーバーチュア) 後編

何故、人類は短期間で巨大なピラミッドを作ることができたのか。


それは40年前に宇宙から南極に落ちて来た、直径1キロメートルの隕石を分析した結果をもとに明らかになろうとしている。

綾歌がこの隕石の分析結果をもとに学会に提出した2つの仮説は驚くべきものだった。


隕石の正体は、『奇蹟の石』であることと、文明社会の発展に、『奇蹟の石』が持っている力が深く関わっていることを認めるものだったのだ。


綾歌は、

「人類に与えられた力は3つあるわ。1つ目は、何かしらの法則に従うもので、その法則の仕組みを説明できる、『科学』の力。2つ目は、何かしらの法則に従うものでありながらも、その法則の仕組みを説明できない、『魔法』の力。3つ目は、法則といったものがないために、その仕組みを説明できない、『奇蹟』の力よ」

と話していたことがある。

現在、人類が管理できる力は科学だけであり、魔法とは『究極の科学』を指していて、奇蹟とは『究極の力』を指しているとのことだった。

つまりは、科学の進化形が魔法、魔法の進化形が奇蹟、ということである。

綾歌は奇蹟の力が分化して科学と魔法という体系が作られたとも考えていた。

彼女の妄想だと考えられていたことが世界の真実であることは、『奇蹟の石』が見つかったことで証明されたのである。

隕石の正体を解明できたのは、まさに偶然だったという。

綾歌は、自分と同じ大学の考古学研究チームに所属していたわけだが、隕石の正体が解明された瞬間、私はその場に居合わせていなかったのだ。

仲間たちと共に回収した隕石を前に、自身の考えを纏めるために『この隕石の正体』という走り書きのメモをテーブルの上に置いて頭を抱えていたときに変化は訪れたとのことである。

『この隕石の正体』という、ボールペンのインクの黒い文字が浮き上がったというのだ。

それはごつごつとした岩石の表面に張り付くと、まるで水底にゆっくりと沈むように消えたらしい。

次に、別の文字を伴って表面へと表れたとのことだった。


それはこのようなものである。


『この隕石の正体』 を Question と 認識しました

Answer は 可能 です


文字   ON or OFF

形   ON or OFF

文字と形 ON or OFF


表示しますか?


YES or NO


この文字は10秒毎に世界中の言語へと変化していた。

そのうちの何種類かに関しては地球上に存在しないものであることも判明していた。


携帯画面と同じようにタップですべてのONに触れると、その箇所は赤に変わった。

同じように、YESにも触れて赤に変わると文字群は霧散した。

隕石は氷が割れるようなパキパキという澄んだ音を発しながら形を変化させた。

その基本形態は、スマホのように薄型の長方形のクリスタルだった。

全体的には蒼くなっていて、そこに7色の虹の色がグラデーションになって浮かび上がっていたのである。

その表面に文字が表れた。


Question

『この隕石の正体』

Answer

『奇蹟石』


これは科学の物理法則だけでは説明できない原理を持っていた。

現在も、その力が顕現する条件である法則性に関しては未だに解明できていない部分が多かった。

そもそもが、40年前に、南極海(ちなみに巨大隕石は南極大陸に接触していたと考えられるが、その時点で粉々に砕け散った南極大陸は海に沈んでいる)に落下してから発見されるまでに、10年も掛かっているという時点で、何らかの力が働いていたに違いないだろう。

巨大隕石の影響で異常気象が多発した結果、人類の半数が命を落としている。

この被害の甚大さは計り知れないもので、世界を一変させるものとなった。

それは当然ながら理解できるものだった。

だが、どうしても腑に落ちないことがあった。


それは巨大隕石が落下する直前に、行方不明者が1万人も出ているにも関わらず、その行方不明者の身元が誰一人として分からない、ということだった。


何よりも恐ろしいのは、その1万人には死ぬべき人間だった、と、そう思えてしまうことだった。


南極海の海の底で、大量の人骨が見つかって、その身元が分からないために行方不明者だと結論付けていたが、それだけの人間がいなくなったのならニュースになるはずである。

けれどもニュースにならなかった。

いや、違うな。

実はニュースになっていたかもしれないが、ニュースになっていたことを覚えていないのかもしれないのだ。

そんなこと、ありえるのか?

私はそう考え、綾歌に聞いた。

綾歌は、

「隕石の落下は、事故ではなく事件だったのかもしれない」

と、言った。

彼女は隕石落下が人為的なものだと、本気でそう考えていたのだ。

これを妄言だと一笑に付することはできなかった。

彼女が見つけた『奇蹟石』は、その名の通り、法則がない、奇蹟を起こすものだったからだ。


『奇蹟石』は究極の力を持っているAIの錬金釜のようなもので、接触したものはなんでも吸収することができた。

そして、単純に吸収しただけのものは排出することも可能とされていた。

素材や製品のコピー&ペースト、増大と減少、掛け算と割り算、保存と廃棄。

それらをすべてやってのけるのだ。

この代償は要求される対価によって変化する。

私たちは『奇蹟石』を使った検証実験を何度も繰り返した結果、ある真実に辿り着いた。


この『奇蹟石』は、

千年に一度、隕石と共に地球へと飛来している、


だけではなく、


隕石の正体が『奇蹟石』であることを、

古代の人々の前に顕現した『創造主』が教授して、

ピラミッドの石に使うように仕向けた、

ということである。


『創造主』とは、一体何者なのか。そして、どこにいるのか。

このような質問に対し、『奇蹟石』は、解答の許可が下りていません、と、頑なに解答を拒絶していた。

それは『創造主』が何者で、どこにいるのかを知りながらも、『創造主』から口止めされている、ということが明確になったとも言えるだろう。

『奇蹟石』を使ってピラミッドが作られた理由に関しては分からない。

ただし。

人類が短期間で巨大なピラミッドを作ることができたのはどうしてなのか。

その答えに関しては推測可能となった。

『奇蹟石』に、ピラミッドの設計図を吸収させたのだ。

そして、『奇蹟石』は命じられるがまま、石段へと変化した、と推測することが可能である。

だが、仮にそうだとすれば、『奇蹟石』を使える期間が長かったとすると、文明社会の発展スピードはもっと早くなっていたはずだ。

そして、これは綾歌も言っていたことだが、偶然、隕石が文字を吸収して『奇蹟石』に戻る機会はこれまで何度もあったに違いないということである。

けれども、そうはならなかった。

『奇蹟石』がもとの形に戻るタイミングで綾歌が文字を与えたからなのか。

あるいは、『奇蹟石』に文字を与えたのが綾歌だったからなのか。

そのいずれか、あるいは両方なのかということは分からない。

ただ、人類の文明社会の発展スピードが加速しすぎなかったということは、『奇蹟石』が使えなくなる条件も存在するはずである。

人類はどんな禁忌に触れてしまったのだろう。

私はこの好奇心の先に待ち受けているものが何かということを考えると怖いと思えた。


今から約4600年前。

エジプトのギザに建築された王の墳墓「ギザのピラミッド」。


クフ王のピラミッド。

それは、ギザのピラミッドの中で最も大きいものであることが分かっていた。

高さは約147メートルで、底辺は約230メートルである。

このピラミッドは1ブロック、約2・5トンの石灰岩を約270~280万個も積み上げて作られたものだと言われている。

一体、どれほどの月日を掛けて作られたのか。

その正確な数字は、未だに分かっていなかった。


現在時刻は午前5時。

私たちは、ピラミッドへと入る直前に、周囲に誰もいないことを確認すると、『奇蹟石』を使って調合した魔法薬『透明』を飲んで衣服も込みで透明人間に変わる。

この状態で注意すべき点というのは、音と足跡だ。

それは、自身に追従する固有結界を展開することで意識を逸らして気付かれないようにすることができている。

敵に勘付かれても透明になっているので足取りがすぐに掴まれるということはないだろう。

だが、一般客が利用する縦の階段ではなく、横の穴にある秘密の通路を這い進んで地下へと降り立たなければならないので、体力の消費率が高いとされる難所が多い。

敵に遭遇する確率は、一方通行の通路であるために非常に低いのだが0とは言えなかった。

私は追従して来る娘もそうであるように、固有結界が解けないように呼吸を落ち着かせた状態で前へと進んだのである。

そして、王の間という部屋の真上に辿り着いた。

私たちが這い進んで来た通路の床には、ポツポツ、と、空気穴が幾つも空いているために真下の様子が見えている。

当然ながら厳重な警備体制が敷かれていた。

この王の間に隠された扉の先に、私たちが探し求めていた答えがある。

私はそう確信していた。

通路の床の穴を通して小さな『奇蹟石』の欠片を落とす。

その『奇蹟石』は、武装した二人が立っている王の間の床に接触した衝撃で砕け散ると、その破片は粉末となって、空間全体へと広がっていった。


「綾音。解析頼む」


「了解」


綾音は兵士が『術』に掛かっているのかを目視で()()()()()()

これが綾音の能力だ。

南極海からサルベージされた巨大隕石は、ちょうど中心を通る線で、真っ二つに分断された形跡があったものの、そのうちの片割れを発見することはできなかった。

だが、驚くべきことに生き残った者たちの細胞の中に、巨大隕石へと変化していた、『奇蹟石』の欠片が粉末となって浸透していることが確認されたのである。

私のように、その当時の『奇蹟石』で超能力者として目覚めた者は第1世代と呼ばれ、

綾音のように、親の遺伝子を引き継いでいる細胞に『奇蹟石』が現れたことで超能力者として目覚めた者は第2世代と呼ばれていた。

綾歌は超能力を使うことができないと話していたことがある。


「どうだ?」


「『術』に掛かってる」


「よし。突破しよう。お父さんのあとに続いてくれ」


「分かった」


私は通路の床のタイルを手で叩き落とすと、派手な音が鳴り響くのも構わずに二人の兵士の間に着地した。

綾音もそれに続く。

兵士は直立不動で身じろぎ一つしていない。

それもそのはずだ。

今、ここでは何も異変が起きていないという幻覚を視ているからである。

私は王の間の床の中心を探していた。


「あっ、これだな」


床の中心にあるブロックは『奇蹟石』を触れさせると白い光を放った。

奇蹟石を離すと自動的に浮き上がる。

前方のブロックに重なるようにスライドすると、地下へと続く隠し階段が現れた。


「……金銀財宝……。じゅるり」


「ちょっと?綾音さん?」


「大丈夫。全然、大丈夫だから……」


「大丈夫って言いすぎると大丈夫じゃない感、すごいな……」


私は苦笑しつつも、石造りの隠し階段の、その一歩目を、踏み出した。

固有結界の範囲を最大値に設定しているために、先程の派手な音も周囲には聞こえていないはずである。

だが、敵の拠点の一つに侵入しているのだから緊張感が高まってしまうのも仕方がないだろう。

綾音は、深淵へと続いているかのように、薄暗くて寒い階段の両側で揺れている蝋燭にすら怯えているようで、ひぃっ!と小さな悲鳴を上げながらも逃げ出さずに付いて来ていた。


そして、遂に開けた場所に辿り着いたのである。


「あっ……。『祈る人』だ……」


綾音がポツリと呟く。


それは、

ただただ巨大で、

人なのか獣なのかさえも判別できない、

『何か』が描かれた、

茶色い壁画の前に、

あまりにも広すぎるステージがあって、

その中心には、

手を組んで、

膝を付いて、

斜め上へと顔を向けながら、

祈りを捧げているようなポーズを取っているミイラがいるという、

そんな光景だった。


私は、上映中の暗い映画館の扉を、こっそりと開けて客席に付くような構図が、そのまま表れているように感じていたのである。

実際に『祈る人』と呼称されるミイラは一般人にも公開されていると聞いていたので、私たちは一番離れた客席で、その姿を見ているということになるのだろう。

私はこのミイラを綾音に視てもらうためにここに来たのである。

そんな私の意図は、綾音に伝わっていたのだろう。

私が綾音をちらっと見ると彼女は小さく頷いていた。

そして、私もまた、自身の能力を使うために、綾音に左手を差し出したのである。

綾音はその手を握るとミイラへと目を向けた。

彼女が持っている『超解析』という力は、対象をその目で視るだけで、その本質を、CTスキャンのように読み取ることができるというものだ。

そして私が持っている『超共有』という力は、触れている対象の力を自分も使えるようになるというものである。

綾音の場合は対象から視線が逸れた場合に、私の場合は対象から離れた場合に力を使うことはできなかった。

今の私たちは力が使える条件を満たしているのだが、その他に固有結界も展開しているので力の発動時間は短くなっていると言えるだろう。

私たちは同じ光景を視ていた。

そして私たちは、ミイラの正体と、そのミイラが祈りを捧げている両手の中に隠し持っていた小さな紙切れに書かれていた内容に気付いた瞬間、驚愕の真実に息を呑んだ。

力が消滅する。

私は呟く。


「この世界は――」


序章


新藤春磨(しんどうはるま)序曲(オーバーチュア) 後編


                                        了


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