第九十話「ナナコになりたい」
皆様、新年、明けまして、おめでとうございます(笑)
私が1ヶ月も更新を休んでしまったのは、もちろん体調不良だったから。
具体的には、お正月にいろんな人と出会った結果、風邪をうつされ(笑)、それをこじらせ、1月の最初の2週間はずっと寝込むはめになり、3週目はその尻ぬぐいをせねばならなかったため、小説を書く時間を確保できなかったのです、申し訳ない。
でも、ようやく尻ぬぐいも終わったので、今日から更新を再開させようと思います、まあ、またぶり返しても困るので、しばらく毎日更新はできないかもしれませんが、最低でも隔日で更新したいと思っているので、またよろしくお願いします。
休んでいる間に、どういう風に話を展開させればより面白くなるのか、だいたいわかったので、まあ、ご期待ください(笑)
「それで、お兄はいつチカさんと結婚するのよ?」
「まあ、そのうちな、そのうち……」
「そのうちって、いつですか? 慶彦さん?」
「う……」
小笠原家は平屋でありながら、二世帯住宅であり、玄関から見て左側がレイラさんたち、右側が俺の義理の叔父である小笠原 正義さんのご両親の住むスペースだった。
だから俺が、正義さんのご両親の呼び方を「ヤフー知恵袋」に質問するまでもなかった。
レイラさんたちと、正義さんのご両親とは、いざ家の中に入ってしまえば接触はほとんどない、お互いに干渉しないという、いかにも現代人らしい、ドライな関係だったのだ。
だからと言って、別にレイラさんが義理の両親と不仲だとかそんなわけではないらしいが……なんにせよ、いくら親戚とは言え、血縁のない、あまりよく知らない人と接触せずにすむのはありがたいことだと思ってしまう辺り、やはり俺も現代人だった。
「サトシお兄ちゃん、こっちこっち……」
小笠原家のレイラさん側のスペースにある居間で大人たちが話し込み始めたので、退屈したらしいアオイちゃんは、居間を出て、俺のことを手招きした。
俺も大人たちの話がどんどんゲスな方へ向かっていることに閉口していたので、素直についていった。
アオイちゃんのあとをついていって、たどり着いたのは、アオイちゃんの部屋だった。
「入って。部屋の中でお話ししよう」
アオイちゃんはドアノブをひねって部屋の中に入っていったので、俺も続いた、なんの変哲もない、よくある子供部屋である、まあ、俺の部屋よりも広いけれども……
別に小学生のいとこの部屋で、小学5年生の女児と二人きりになったところで、思うことなど何もない、残念ながら俺にそういう趣味はかけらもないのだ、当たり前じゃん、爆乳幼なじみに片想いしていたような男がどうして、つるぺたなんぞに興奮いたそうか……
閑話休題、俺がアオイちゃんの部屋に入って驚いたのは、壁一面にポスターが貼ってあったことだ、そのポスターの人物に、俺はもちろん心当たりがあった。
「アオイちゃん、ナナコちゃんのことが好きなの?」
俺は部屋の中にある、低いテーブルの前に座ったアオイちゃんの向かいに座って、質問した。
「ナナコちゃん」とはJRA(日本中央競馬会)に、16年ぶりに誕生した女性騎手のことである。
もちろん面識なんてあるわけはないが、競馬ファンの俺がその存在を知らないわけはなかった。
「うん、好きだよ。好きどころか、私も将来は騎手になろうと思ってるから、目標だよ、目標」
「え? 騎手になるの? ボートレーサーじゃなくて?」
ただのナナコファンだと思っていたアオイちゃんから思わぬ言葉を聞いちゃって、俺は動揺してしまう。
「ボートレースより、競馬の方がメジャーじゃん」
アオイちゃんは、小学生のくせに、俺の目をまっすぐ見つめながら話をしてきた。
その瞳には、強い意志のようなものが宿っているのを感じ取ることができた。
「んまあ、たしかに……」
「それに私はモーターよりも馬の方が好きなの。工具を使ってモーターをいじるよりも、馬の頭を撫でながら生きていきたい。だから絶対、騎手になる。パパもママも応援してくれてるし」
「ふーん……」
よくよく部屋を見回してみれば、ナナコ騎手のポスターに混じって、アオイちゃんがヘルメットを被って馬に騎乗している時の写真も飾られていた。
どうやら、すでに乗馬センターなどに通って、騎乗訓練を受けているらしい、知らなかった……いくら親戚と言えど、年に数回しか会わないから。
周りにいる友達だけでなく、まだ小学生のいとこでさえも、将来の夢がはっきりと定まっているらしい、それなのに俺と来たら、帰宅部で1学期は特に何もしていない……このままではニートまっしぐらである、うーん……
「そんなことより、サトシお兄ちゃん!」
などと、いつものように思索にふけりそうになる俺に向かって、アオイちゃんが大きな声を出したものだから、ビビってしまった。
「な、何? アオイちゃん。そんなに大きな声を出さなくても聞こえるよ」
でも、いとこである以上、邪険に扱うわけにはいかなかった、俺は一人っ子だから、年下のいとことどう接していいのかよくわからず、つい丁重に扱ってしまうのだよ……
「今日、サトシお兄ちゃんと一緒にいた黒い女はいったい何者なの?」
そう言ったアオイちゃんの表情は実にダークだった、実にわかりやすく、嫉妬の炎に燃えていた。
「な、何者と言われましても……友達です!」
俺は真実を告げたが、アオイちゃんはまだ疑っているみたいだった。
「ホントに友達? カノジョとかじゃなくて?」
「カノジョだなんて、そんなそんな……おこがましいよ……」
「そっか! ならよかった!」
俺の返答を聞いたアオイちゃんは満面の笑みを浮かべた。
いくら思春期に突入しかけているとは申せ、所詮は小学5年生。
チョロいものよ……ていうか俺、いとこにまで好かれているというのかい? なのになんで一番好きな人とはそういう関係になれないのかね? 今月末「あいつ」に会った時、問い詰めるのも一興か……
「そうだ、サトシお兄ちゃん。私、この間、スマホ買ってもらったから、ライン交換しよう」
そう言って、アオイちゃんが取り出したのは、普通に大人も使っているスマホであり、決してキッズ向けのスマホではなかった。
まあ、元コギャルのレイラさんが「子供が、大人と同じスマホ使っちゃダメ」などと言うとも思えず、俺は特に何も言わず、ラインを交換した、どうせレイラさんも高校生の時、すでに携帯電話を使っていたのだろうし、いや、ポケベルかな? 知らんけど……
アオイちゃんとラインを交換したあとは、アオイちゃんのスマホでアオイちゃんがお気に入りのユーチューバーの動画など見せられたが、俺には退屈だった。
だから、うまいこと言いくるめて、ユーチューブにいくらでも転がっている、昔の競馬の大レースの動画を見せながら、本で得たうんちくを語ったら、アオイちゃんはとても喜んでくれた。
トウカイテイオーやミホノブルボンのレースを見せて喜ぶんだから、アオイちゃんはどうやら本気で騎手になろうとしているらしかった。
そうやってアオイちゃんの部屋で時を過ごしていると、レイラさんに呼ばれて夕食の時間になった。
金持ちの家なんだから、さぞかし豪華な夕食が出てくるのかと思いきや、実に質素な一汁三菜のお膳しか出てこなかった。
レイラさんいわく、「常に体重を50キロ前後に保たないと勝負にならないボートレーサーの旦那と、競馬学校に入るために体重を40キロ前後に保たないといけないアオイが太らないように」ということで、日頃からこういう質素な食事をしているらしい、自身が太らないためでもあるらしいが、たしかにレイラさんはとても40代とは思えぬスリム体型……
しかし、最低でもステーキか焼肉ぐらいは出てくると思っていた俺からしてみれば、実に拍子抜けな夕食だった、全部食べるのに10分もかからなかった。
その後は別に特筆することなど何もない、風呂には一人で入ったし、寝る時もお客さん用の寝室に布団を敷いてもらって、親父やチカさんと雑魚寝しただけだ。
そんな都合よく、アオイちゃんが「私はサトシお兄ちゃんと一緒にお風呂に入るの」とか「サトシお兄ちゃん、私のベッドで一緒に寝よっ」とか言ってくるわけもなかった、まあ、そんなこと言われても困るだけだから、別にいいんだけど……
今の俺が一緒にお風呂入ったり、一緒のベッドで寝たりしたいのは、それはもちろん……
次回、サブタイトル未定だけど、小倉記念の日に再び小倉競馬場に行ったら、あいつらが……? やっぱりいるのか、あいつらが……お楽しみに。
脚注(興味のない方は無理して読まずに、飛ばしていただいて結構です)
トウカイテイオー→のうんちくを語ろうと思えばいくらでも語れてしまうので、手短に言えば、1991年に皐月賞と日本ダービーの二冠を制した馬。その後、何度も骨折しながら、ジャパンカップと有馬記念を制した名馬。特に有馬記念は、1年ぶりの出走だったのにビワハヤヒデをくだして勝利して、競馬ファンの度肝を抜いた。
ミホノブルボン→この馬のうんちくも語ろうと思えばいくらでも語れるが、手短に書くと、1992年の皐月賞、日本ダービーを制した二冠馬。しかし、菊花賞ではライスシャワーに敗れ、三冠馬になることはできなかった。しかも、その菊花賞以降、故障で出走できないまま引退してしまったが、逃げ馬で、圧巻の勝ち方を続けたことと、ハードな調教に耐えて距離不安を克服した努力型の馬だったことから、高い人気を誇った。作者は強い逃げ馬が好きなので、当然ミホノブルボンのことも好きである。




