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第八十四話「頑張っちゃうもんね」

「なんで、サトシくんが競馬場にいるのー? まさか一人で来たわけじゃないよね」


 俺のことを認識したカレンさんは、サングラスを外して話しかけてきた。


「ええ、親父と一緒に来たんですけど、今は自由行動中で……」


「自由行動?」


「ああ、いや、こちらの話で……そういうカレンさんこそ、どうして小倉競馬場に? それも土曜の朝から……」


 俺は当然の質問をした。


 土曜日の朝から競馬場にいるなんて、よほど熱狂的な競馬ファンなのだろうか? それとも……


「うん、うちはねー……一攫千金しに来たんだよ」


 カレンさんはダークな笑みを浮かべていた。


「え? 一攫千金?」


「うん、ちょっといろいろあってお金が必要なんだけど、バイトだけじゃあ目標に額到達しそうにないから、稼ぎに来たんだ」


「は、はあ……そうですか……」


競馬(ギャンブル)で一攫千金を狙っている」というカレンさんに、俺は初めてギャルっぽさを感じた。


「それで1レースは当てたんですか?」


「ん? 聞かないで……」


 俺はカレンさんが暗い表情でうつむいたのを見て、カレンさんが馬券を外したことを察した。


 1レースを勝った武騎手の馬は1番人気だったのに外すということはつまり、カレンさんは穴党(あなとう)なのだろうか?


「いったい何を本命にしたんですか?」


「んーとねー……カチコサプライズ?」


 カレンさんは自分が買った馬券を俺に見せてきた。


 それはカチコサプライズの単勝(たんしょう)馬券で、1000円賭けられていた。


 俺がJRAホームページをスマホで確認してみるに、カレンさんが本命にした馬は最低人気で、単勝オッズは265倍の超人気薄、即ち「こんな馬、勝つわけねーだろ!」と断言できる馬だった。


 いくら一攫千金を狙うと言っても、単勝万馬券(たんしょうまんばけん)の馬を本命にするのはやりすぎ、こんな調子では、カレンさんは午前中にはすっからかんになってしまうぞ、心配だ……


「なんで、こんな馬の単勝買ったんですか?」


「だって、当たったら265倍になるって書いてあったから……1000円が265倍ってことは、26万5000円でしょう?」


「単勝万馬券の馬が勝つなんて、月に数回しかありませんよ……」


 俺がカレンさんに呆れているうちに、記念撮影を終えた(たけ)騎手はファンの前から姿を消していて、やはりサインをもらうことはできなかった。


 武騎手も馬もいなくなったので、ウィナーズサークル周辺からファンはどんどんいなくなり、俺とカレンさんと、他数名だけになった。


 他のファンはパドックなり馬券売場なりに消えていったのだろう。


「あっ、それじゃあ、うちはそろそろ行くね……」


「ちょっと待ってください!!」


 そんな中で、カレンさんまでいなくなってしまいそうだったので、俺はあわてて引き止めた、自分でもビックリしてしまうほどの大きな声で……パドックでこんな声出したら最悪出禁まであるほどの大声で……


「え?」


「カレンさん、今日はお一人ですか?」


 大声に驚いて立ち止まるカレンさんに、俺は質問する。


「え? うん、一人で来たけど……」


「そうですか……ならば、今日はこれから、俺と一緒に行動しませんか!?」


 カレンさんが友達とかと一緒に来ているのであれば、こんな誘いはしないが、一人ならば話は別……


「え? サトシくんと?」


「はい! 俺は子供の頃からずっと、親父に小倉競馬場に連れてこられてて、小倉競馬場にも競馬そのものにも詳しいんですよ! カレンさんはどうせビギナーなんでしょう? ビギナーが一人で行動するのはいろんな意味で危険です! だから一緒に行動しましょう! わからないことがあったら、俺になんでも聞いてくださいよ! アドバイスしますから!!」


 俺がこんなにも必死になって、カレンさんと一緒に行動したがるのはもちろん、カレンさんのことが好きだというのが大きいのだが、それと同じくらい「単勝265倍の馬の単勝馬券に1000円もぶっ込むような人を一人にしておくわけにはゆかない」という、強い使命感のようなものがあった。


「そうなんだ……じゃあ、サトシくんにいろいろ教えてもらおうかな……正直、うちは競馬のことあんまり知らないんだよね」


「そうですか、じゃあ、ぜひ一緒に行動しましょう!!」


 俺はやっぱり大声だった。


「でも大丈夫なの? サトシくんはお父さんと一緒に来てるんでしょ?」


「いいんです! どうせ親父は、最終レースが終わる夕方まで、俺と合流する気なんてないと思うんで!!」


「そうなんだ……うん、じゃあ、一緒に行こうか、いろいろ教えてよ、サトシくん!」


「はい!」


 俺の圧に負けたのか、カレンさんは一緒に行動することを了承してくれた。


 こうして俺は、退屈なはずだった小倉競馬場での数時間を、カレンさんと一緒に過ごせることになったのだった。


 正直、他の日だったら、こんなに積極的にカレンさんのことを誘わなかったかもしれない、しかし、今日は安全、絶対に。


 なぜならば今日、ウィメンズ・ティー・パーティーの皆さんは防府(ほうふ)市の夏祭りでライブをする、ということはつまり、「今日は」絶対に小倉競馬場に来ないのだ。


 だって、防府から小倉競馬場は新幹線を使っても90分はかかるはずで、小倉競馬場なんかに来ていたらライブのリハの時間までに防府に帰ることができないはずだからだ。


 ライブの正確な開始時刻は聞いていないが、女子高生バンドなんだから、そんな夜遅くに出演するわけがない、昼か夕方のはずだ、ゆえに今日は「ウィメンズ・ティー・パーティーの誰かが小倉競馬場に来ているなんてことはあり得ない」と断言できる!!


 だからカレンさんと二人でいても、絶対に誰にも邪魔されることはない、これから最終レースが終わるまでの約6時間半、カレンさんと二人きりで楽しい時間を過ごすことができるのだ。


 前に会った時は喫茶店でお話しただけだったし、これは事実上、「初デート」と言ってもよろしいのではありますまいか?


 いよーし、池川サトシ、頑張っちゃうもんねえええええぇぇぇぇぇ……

次回、サトシくんは本当にカレンさんと二人きりの楽しい時間を過ごせるのかな?(笑) ティー・パーティーが来なくても、他の誰かが来るんじゃねえの? どうせ(笑) お楽しみに。


これから年末で立て込んでて、いつもより1話辺りの文字数が短くなるかもしれませんけど、短くても毎日更新したいと思っているので、勘弁してください(笑)



脚注(興味のない方は無理して読まずに、飛ばしていただいて結構です)

穴党→競馬に限らず、公営競技において、人気になっている強い馬や選手をあえて買わず、高額配当になる組み合わせばかり買う人のことをこう呼ぶ。穴党の人は「かっこいい」と思われることが多いが、たまに高額配当を当てても、普段負け続けているので、トータルの収支は赤字という人が大半である(笑)


単勝→競馬においては、買った馬が1着になれば当たりになるシンプルな馬券。シンプルゆえにビギナーが買いがちだが、意外に当てるのは難しい馬券だったりする……ちなみに、競馬以外ではボートレースとオートレースでも一応売ってはいるが、競馬ほど売れてはいない。競輪に至っては「全然売れていない」ことを理由に廃止されてしまい、そもそも売っていない(笑)


単勝万馬券→競馬において、単勝オッズが100倍以上、すなわち、100円買って当たったら、配当が1万円以上になる単勝馬券のこと。単勝万馬券の馬は1着どころか、馬券の対象となる3着以内になることもほとんどない。中央競馬において、単勝万馬券の馬が1着になるなんて、マジで月に2回か3回あればいい方であり、単勝万馬券の馬の単勝を買うなんて、はっきり言って、お金をドブに捨てるようなもの、まさに自殺行為である(笑)


パドックでこんな声出したら……→サラブレッドは音に敏感、かつ、繊細な生き物なので、サラブレッドの近くにいる時は、決して大声を出してはいけない。大声に驚いた馬が大暴れして、事故が発生してしまう可能性があるからだ。サラブレッドが大暴れすると、最悪死者が出てしまう可能性もある。ゆえに、パドックで大声を出してしまったら、本当に出禁になるかもしれないのでご注意を……

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