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第八十話「エヘッ、来ちゃった」

「ちょっと、セイラちゃん、ダメだよ、こんなところで……ほら、サトシが見てるし……」


「ええー、そんなの関係じゃーん……それにさー、池川くんも私たちの『仲間』だったわけだし……」


「え? 仲間?」


「そうだよ、池川くん。結局、君と僕はこうなってしまう運命だったんだよ。ほら、僕のガッチガチの『アレ』をシコシコしてくれよ、君のことを思ってこんなになっちゃったんだよ……」








「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぉぉぁぁっ!!」


 この上もなく恐ろしい悪夢とともに、俺の八月が始まってしまった。


 もはや思い出したくもないが、俺、ナナ、福原(ふくばら)さん、そして猪熊(いのくま)の四人が裸で……何かをしていた……「何か」を具体的に書くのは避けたい、思い出したくもないから……


 淫らな夢……白い……って、やめろやめろ!!


 またしても汗だくになりながら飛び起きた俺がスマホで時刻を確認すると、11時だった。


 いくら夏休みと言えども、チカさんに起こされるので、いつもはちゃんと朝に起きているのだが、今日はなぜか起こされなかったらしい。


 昨日、居間で汗びっしょりで寝ていたから、体調が悪いと思われて、「寝かしといてあげよう」ってなったのかもしれない。


 さすがにお昼ごはんの時間になったら起こされるだろうが、なんかまだ眠いから、二度寝しちゃおっかな……


 そう思ってあおむけになり、スマホを置こうとした矢先に、ラインが来た。


 送り主はパーラーだった。


「池川くん、今、暇ですか?」


 無視すると、また大量のウザスタンプ攻撃をされるに決まっているので、返信するしかなかった。


「暇だけど、何?」


「ちょっと、大事なお話があるので、今から池川くんちに伺わせていただきたいのですけれども、よろしいですか?」


 嫌な予感しかしなかった……パーラーは「慇懃無礼(いんぎんぶれい)」という言葉の権化だからね……


「あ、ごめん。急用ができたから無理」


「いや、ついさっき『暇』って送ってきましたよね。なんでそんなすぐバレる嘘つくんですか?」


「いやぁ、昨日からどうにも体調が悪くて……夏バテかな? だからついさっきまで寝てて……今から、また寝ようとしてたところなんだ。だからごめんね……」


「ということはつまり、家にいるってことですよね。わかりました」


「な……何がわかったってんだよ、パーラー……おい!」


 パーラーとのやり取りはそこで途絶えた。


 ま、まずい……あいつ、今から俺の家に押しかけてくる気だな……早く逃げなくては……って、パジャマのまま外に出るわけにもいかないし、どうすれば……?


「ピンポーン」


 俺が迷っているうちに、早くもチャイムが鳴ってしまった。


 おのれ、パーラー……俺の家の近くでラインしてやがったな……


「ピンポーン」


 ハァ……もう諦めるしかないか……どうせこのまま居留守を使おうとしても、チャイム連打されるだけだし……


「ピンポーン」


「はいはい、今行くよ、チクショー!」







「エヘッ、来ちゃった」


 パジャマ姿のまま1階に降り、玄関のドアを開けた俺が見たのは当然、笑顔で小首をかしげるパーラーだった。


「いや、パーラー。お前がそのセリフ言っても全然かわいくないし、ドキリともしないからな」


 俺は精一杯の皮肉を言ってやったつもりだったが、


「いやー、そんなー。おだてても何も出ないですよ、池川くん。アハハハハ」


 ミス! パーラーにダメージを与えられない!


「で……何しに来たんだよ」


「え? さっき、ライン送ったじゃないですか。『大事なお話』があるって」


「なんだよ、その大事な話ってのは?」


「え? どこの世界に玄関先で『大事なお話』をするバカがいるんですか? 早くあげてくださいよ」


「いや、別に誰も聞いてないんだから玄関先でもいいだろ……」


「ていうか、池川くん、体調悪いとか言っときながら、元気そうですよねー。仮病なんかでボクから逃れられると思ってたんですか? フフフフフ……」


「う……」


 いつになく、(あお)りまくってくるパーラーに気圧(けお)されそうになったが、負けてはいけない……俺はもう、生まれ変わったんだ……「嫌なものは嫌だ」とはっきり言える高校生になるんだ!


「い……」


「パーラー、何やってるのよ? 助兵衛(すけべえ)が嫌がろうがなんだろうが、むりやり入ればいいのよ」


 パーラーが家にあがるのをきっぱり断ろうとした俺の出鼻をくじいたのは、俺の見えないところに待機していたらしいマッチだった。


「ああ、それもそうですね、おじゃましまーす!」


「ああ、ちょっと……」


 俺が止める間もなく、パーラーは勝手に靴を脱いで、家にあがり、居間に向かって一目散に走っていった。


「私もおじゃまするわね、助兵衛」


「いや、ちょっと……」


 俺はせめて、マッチが家にあがるのだけは阻止しようと試みたが、マッチに耳元でささやかれた。


「もし私のことを家にあげないとかぬかすようなら、この間、コ○ダ珈琲店で黒ギャルとお茶してたことをサーちゃんにバラすわよ」


「どうぞ、お入りください……」


 まあ、パーラーとマッチはクラスメートなんだし、門前払いするのはよくないよね……なんの話なのかは知らねども、話ぐらいは聞いてあげないと、クラスメートなんだから……


 なんて、俺がマッチの脅しにあっさり屈した最大の理由は、カレンさんとの仲をウィメンズ・ティー・パーティーに、特にサアヤさんに邪魔されたくなかったからである。


 もし俺がカレンさんと逢瀬(おうせ)を重ねていることをサアヤさんが知ったら、また乱入してきて、「この女、誰よ」とぬかしてきそうである、それは絶対に避けたい……


「おはよう、サトシくん」


 なんて思っていたら、そのサアヤさんがいきなり現れて、ビクリとした。


「久しぶりだね」


「そ、そうですね……」


 たしかに、サアヤさんとちゃんと会って話すのは、福原さんと一緒にナナの誕生日プレゼントを買いに行って、鉢合わせてしまったあの日以降では、今日が初めてだった。


 さすがに髪を切ってから2ヶ月ぐらい経っているからか、耳も出ていたベリーショートから、耳が隠れる、普通のショートカットになりつつあって、男子に見間違えるなんてことはなくなっていた、ちゃんと女子に見えた。


「あがってもいい?」


「ど、どうぞ……」


 さすがにパーラーとマッチを家にあげておいて、サアヤさんだけあげないなんてことはできるわけもなかった。


 はてさて、サアヤさん、パーラー、マッチの3人がそろい踏みで、いったいなんの話があるというのやら?

本当は、その「大事なお話」を今日のうちに書いてしまいたかったけれども、どうにも今日はモチベがなくて無理なので、ごめんなさい(笑) また明日(笑)

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