第六十八話「私たち、3人で付き合っちゃおっか」
7月7日の夜、ナナからラインが来た。
「幼なじみの誕生日プレゼントにエロ漫画をプレゼントするとか、いい神経してるわね、サトシ」
「またまた、嬉しいくせに……」
俺はその文面を見て、ナナが本気で怒っているとは思わなかったので、夕方に聞いた福原さんのセリフをパクッてみた。
「まあね。自分じゃ買えない物をプレゼントしてくれたから、嬉しいことは嬉しいかな。絵を描く時の資料として活用させてもらうわね」
「資料じゃなくて、オカズとして活用するのでは?」などと思えども、そんな、一歩間違えればセクハラになりかねないようなラインは送信できない、気弱な俺なのだった。
「喜んでもらえて嬉しいよ」
なんにせよ、ナナに良きプレゼントができたようで何よりだ。
「あら、サトシくん、いらっしゃい。もう、ナナもお友達も来てるわよ」
ナナの誕生日の翌日、7月8日。
福原さんとの約束通り、午後になってからナナの家に行くと、土日はお仕事お休みらしい、ナナのお母さんの佳菜さんが出迎えてくれた。
俺が子供の頃からずっと、池川家の隣は国司家なので、カナさんとも当然、子供の頃からの付き合いだ。
だからなんのためらいもなく、俺のことを家の中に入れてくれる。
まあ、今日は福原さんもいて、ナナと二人きりになるわけではないので、当然なのかもしれないが……
「だからね、この問題はこういう風に解くといいんだよー」
「な、なるほど……」
俺たち3人は、ナナの部屋にある丸テーブルの前に座り、勉強に励んでいた。
俺の向かいにナナが座り、俺の右斜め前に福原さんが座っていた。
特進クラスの福原さんは、俺が解けなかった数学の問題をスラスラと解き、解説までしてくれた。
「ああー、サトシばっかりズルい。セイラちゃん、私にも教えてよ」
「うん、いいよ。どの問題がわからないの?」
「これなんだけど……」
福原さんという優秀な先生がいてくれるおかげで、土曜日の午後のテスト勉強会はとてもはかどった。
勉強会という、ともすれば、憂鬱になりそうな空間も、ナナや福原さんと一緒にいると、なぜだか実に心地よかった。
自分一人だと、つい気が散って、音楽聴いたり、パソコンいじったりして、現実逃避してしまいがちだが、ナナや福原さんと楽しくお話しながらの勉強は、適度な集中力が保たれ、今までわからなかった問題も、スラスラと理解することができた。
カナさんが出してくれたおやつのドーナツも実においしかった。
長い付き合いゆえに、俺がコーラ好きだということをカナさんは知っているので、俺にだけコーラを出してくれたのも嬉しかった。
ああ、なんと有意義で心地よい、土曜日のお昼の使い方なのであろうか。
普段の、新喜劇や競馬中継をダラダラ見ながらごろ寝して、無駄に過ぎていく土曜日とは大違いだ。
やはり子供の頃からの付き合いで、気の置けないナナと過ごす時間は心地よいものであるらしい。
そんなナナが選んだ福原さんは、ただ頭がいいだけでなく、人としての魅力にもあふれる、「知識」と「人徳」を兼ね備えた、実に立派な人だった。
だから、どっかの誰かみたいに「ナナちゃんは私だけのものよ。近寄らないで」などと言わず、俺がナナと、今までのように仲良くすることを、なんの疑いもなく許可してくれているのだ。
どっかの誰かみたいに、自分の好きな人に異性が近寄っただけで「その人、誰?」などと、光のない目で問い詰めてきたりはしない。
福原さんがこんなにも明るく活発で、素敵な人だとは知らなかったし、思わなかった。
去年、クラスメートだった時は、転校してきたばかりということもあって、本性を出せずにいたのだろうか?
なんにせよ、俺の福原さんへの好感度は上昇の一途だった。
ああ……実はナナがバイで、「セイラちゃんのことも好きだけど、やっぱりサトシのことも好きだなぁ……いっそ私たち、3人で付き合っちゃおっか」とか言ってくれる超展開はないものか……俺は別にそれでも構わないような気がしてきた……福原さんとならナナを共有しても構わないような……いや、実際そうなったら構うだろうけれども……ううう……
「池川くん、どうしたの? ボーッとしちゃって。ペンが止まってるよ」
俺がそんな間抜けなことを考えて、虚空を見つめていたせいで、福原さんが心配そうに声をかけてきた。
「え? あ、いや、別になんでもないよ……」
「どうせエッチなことでも考えてたんでしょ……」
「う……」
ナナの指摘はあながち間違っていなかったので、俺は二の句を継げなくなった。
仕方がないので、黙ってペンを走らせ、勉強しているふりをして、ごまかそうとした。
「ええー、池川くんって、そんなエッチなこととか考えるような風には見えないんだけど……」
「そんなことないわ、ムッツリスケベよ、サトシは」
「ええー、そうなの? 全然そういう風には見えないんだけどなー」
「サトシの部屋はエロ漫画だらけよ」
「そうなんだー、ふーん」
「いや、お前だって、誕生日プレゼントに百合エロ漫画もらって喜んでるスケベ女じゃないかよ」と思ったけど、福原さんの前ではそんなこと言えるわけもなく、黙って、勉強するふりを続けるしかなかった。
ナナが「ムッツリスケベ」発言をしたからと言って、福原さんが警戒して、俺と距離を置いたりなんてことはなかった。
当たり前のことなのかもしれないが、どうやら俺は福原さんに男として見られていないらしい……いや、そういう言い方は不適切、正確に言うならば、「福原さんにとって、俺は完全に恋愛対象外。なぜならば、俺が男だから」
だからお互い、気兼ねなく話せるのではあるまいか?
俺とても、好きなのはあくまでもナナであって、福原さんのことは人としては好きだけど、付き合いたいとか、エッチなことしたいとか、そんなことまでは思っていない。
でも頭の片隅に、「ふーん、池川くんって、ムッツリスケベなんだー。だったらさー、私たちともエッチなことしてみたいとか思ってるの?」「なんだったら、私たちで童貞捨ててみる? サトシ……」なんて、エロ漫画も真っ青の、とんでも展開を妄想している部分があるのも、また事実。
くそ……どっかの誰かのせいで、勉強中なのに、こんなエロ妄想が頭の中に出てきてしまうのだ……いきなり俺の部屋にやって来て「セックスしよう!」だの「おっぱいフレンドになろう」だのと非常識なことを言うてくる、どっかの誰かさんのせいで……
気がついたら、俺は立ち上がっていた。
「どうしたの? サトシ。急に立ち上がって」
「ナナ、トイレを貸してくれ……」
「ああ、トイレね……場所わかるでしょう?」
「うん」
もちろん、俺がトイレの中でしたのは小便だけで、他には何も出してはいない。
いくらなんでも、人んちのトイレで変なことするほど、俺は非常識な人間ではない……って、自分ちのトイレでも、そういうことはしたことないわい!!
結局、土日の勉強会で、ナナや福原さんがエロい誘惑をしてくることなど一度もなく、それどころか二人とも、夏だというのに、ほとんど露出していない服装をしていて、谷間が見えちゃうなどのエロハプニングやラッキースケベもいっさいなく、ただひたすらに、勉強だけがはかどった2日間だった。
そのおかげで、期末テストは手応えのある結果に終わった。
点数はまだ出ていないが、中間テストの時にはあった「空白のまま提出してしまった問題」が、今回はひとつもなかった。
とりあえず空白は埋めたので、赤点は回避できているはずである、多分……赤点さえ回避できていれば、晴れて楽しい夏休みの始まりだ。
そんな期末テストが終わった週末、土曜日の午後……
「ピンポーン」
いつものように家でごろ寝していると、またしても、チャイムが鳴って、でも出ないわけにもいかないので出てみると、そこに立っていたのは、サアヤさんでも、クレナお嬢でも、ナナでもなく、まさかのカナさんだった。
「サトシくん、今、一人? ちょっとお話したいことがあるんだけど、いいかしら?」
「え? ええ、いいですよ」
俺はカナさんを居間に通し、他の客と同じようにテーブルの前に座らせて、俺はその向かい側に座った。
「それでお話というのは?」
「あのね、サトシくん。今日、ナナが出かけてるから、部屋を掃除してたんだけど、そしたらね、こういう本が出てきたの……」
カナさんが手に持っていたビニール袋の中から取り出し、テーブルの上に置いたのは、よりにもよって俺が先週プレゼントした、18禁百合エロ漫画たちだった。
「ちょっと中身見てみたんだけど、これ全部、女の子同士でエッチなことしてる漫画だったのよね」
「は……はぁ……」
「サトシくん、私、前から思ってたんだけど、ひょっとしてナナって、男の子じゃなくて、女の子のことが好きなんじゃないかしら?」
「え?」
「ねえ、サトシくん? サトシくんは何か知らない? ナナのそういう指向のこと……」
な……なんということだ……
せっかく期末テストを乗り越えて、あとは楽しい夏休みが待っているだけの、平和な土曜日の午後だと思っていたのに、その前に選択肢を間違えたらバッドエンドになってしまいそうな、恐ろしいイベントが発生してしまったではないか……
ナナのためを思ってプレゼントした百合エロ漫画のせいで、こんなイベントが発生するとはな……
はてさて、どう乗り切るべきか……
次回もやっぱりサブタイトル未定も、頑張れサトシ、このイベントを無事に乗り越えられれば、楽しいことばかりの夏休みだ!(笑)




