第六十五話「エッチなしたぎ」
「ねえ、どんな下着がいいかなぁ? どれがナナちゃんの好みだと思う?」
そんなわけで、7月4日の放課後、俺は福原さんのお供として、地元では有名なスーパーの3階にある、女性用下着売場に着ていた。
さすがに平日の夕方なので、女性用下着売場にいるのは俺たちだけだったが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしかった。
当たり前だ、公の場で大量のブラとパンティーに囲まれて、恥ずかしがらない男の方がどうかしている……なんとか早めに切り上げられるように努力せねば……
「だ……だから昨日も言ったけど、いくら幼なじみでも下着の好みなんか知らない……」
「じゃあ、ナナちゃんがどんな色が好きかぐらいは知ってるよね?」
「うん、まあ、赤とか黄色とか明るい色が好きだと思うけど……」
正直、大量のブラとパンティーを見ていると、頭がクラクラしてきて、どうかなりそうだった。
新品の下着だから、誰も着用していないはずなのに、その下着から漂う女の香りに催淫効果を感じ、正直、心を平静に保つことさえも一苦労だった。
「そっかー、明るい色ね……せっかくプレゼントするんだから、普通の下着をプレゼントしてもしょうがないし、露出多めの下着をプレゼントしようかなー」
そんな俺の心など知りもしないらしい福原さんは、ノリノリで下着を物色していた。
頭がいいからって、人の心を読めるとか、そういうわけではないらしい。
「ねえねえ、池川くん、これとかどうかなー? ナナちゃんに似合うと思うー?」
福原さんは平気な顔で、売り物のブラを手に取って、俺に見せてくる。
「に……似合うっていうか、それだと面積が小さすぎて、いろいろ見えちゃうと思うんだけど……」
なぜに、こんなファミリー向けのスーパーで、そんな際どい、「エッチなしたぎ」を売っているというのだろう?
「わかってないなー、池川くん、いろいろ見えちゃいそうになって、恥ずかしがってるところを見るのが楽しいんじゃない」
「え?」
俺はてっきり、大人しい福原さんに、ナナが強引に迫って口説き落として、それでこの二人は付き合うことになったんだろうと思っていたが、実際に福原さんと会話してみると、どうやらそれは思い違いだったらしい。
誕生日プレゼントに下着をチョイスし、しかも面白がって、露出の多いのを選ぼうとしている辺り、この百合ップルはどうやら、福原さんの方が「攻め」であるらしい。
ネットで見かけた言葉で表現するならば「タチ」
じゃあナナは「ネコ」なのか……俺の前ではあんなに強気なナナが、福原さんの前では「受け」で、女の顔を……いや、もっと露骨に言えば「メスの顔」を見せているというのか……
「うーん……」
「池川くん、どうしたの?」
俺がいつものように、あれこれ考えている間は黙り込んでいたものだから、心配したらしい福原さんに声をかけられた。
「え……いや、なんでもないよ……」
改めて、福原さんの顔を見てみるに、美少女だと思った。
メガネをかけてもそう見えるのだから、メガネを外したら、サアヤさんやモエピと比べても遜色ないぐらいの、相当な美少女なのではなかろうか?
髪型はボブで、毛先は肩にかかるかかからないかぐらい。
特進クラスの秀才なのだから、髪色はもちろん黒、真っ黒。
まさに「才色兼備」という言葉がピッタリのこれほどの美少女にグイグイ迫られたのならば、そりゃあナナが落ちるのも当然なのかもしれない……って、どっちが告白して付き合うことになったのかとか、どっちが先に好きになったのかとか、そもそもナナや福原さんは子供の頃から恋愛対象は女性だけだったのかとか、俺はそういう細かいことを何一つ知らないわけだけれども……
「ねえねえ、池川くん。これとかどうかなー?」
「え? う、うん、いいんじゃないかな」
とにかく、福原さんと二人でここにい続けると、いろんな意味で心の中が大荒れになりそうだったので、早めに切り上げたくて、俺は福原さんが見せてきたブラをろくに見ないで、「いいんじゃないかな」と生返事をした。
ていうか、こんな家庭的なスーパーに、ナナのサイズのブラが普通に置いてあるのだろうか?
いや、そもそもなぜ福原さんはナナのブラのサイズを知っているのか?
女子同士なら、そういうのは日常会話なのか、はたまた性行為の時に、外したブラのサイズを盗み見て、確認したのか?
ナナって何カップなんだろう?
福原さんに聞いたら教えてくれるだろうか?
でも福原さんにカップを聞いたことがナナにバレたら、さすがにぶん殴られそうだな……
うーん……
「じゃあ、これにしようかな? でもナナちゃんのサイズあるかなー? ちょっと店員さんに聞いてくるねー」
俺が間抜けなことを考えているうちに、福原さんが店員さんのいるところに行ってしまって、俺は女性用下着売場に一人になってしまったが、他に誰もいないので、別に問題はなかった。
でも、こんなところでできることなんてなんにもなくて、ただ棒立ちしているしかなかった。
「あれー、池川くんじゃないですかー、何やってるんですか? こんなところでー?」
パ……パーラーとマッチだとぉぉぉぉぉぉぉぉっ!
な、なんで、よりにもよって、こんなところでこいつらと出会うんじゃい……
「こんなところ……って、女性用下着売場じゃない。助兵衛、あなた、ついにおっぱい星人が高じて、自分もブラを着用してみたいとか思うようになってしまったのね、可哀想に……」
マッチは呆れたようにうつむきながら、首を何度も横に振った。
「ああ、ボク知ってますよ、いわゆる『ブラ男』ってやつですよね。池川くんもいよいよヘンタイの仲間入りですねー! おめでとうございまーす!!」
「ああ、恐ろしい、恐ろしい……」
パーラーは俺のことをまっすぐに見つめながら話していたが、マッチは相変わらずうつむきながら首を振っていて、しかも本当に恐怖に怯えているかのごとく、自分で自分の体を抱きしめる仕草をしていた。
どうして俺の周りの女子たちはみんな、俺の話を聞かずに、自らの思い込みで、話を先に進めようとするのだろうか?
なんにせよ、着けてないのに「ブラ男」だと思われてしまうのは困るから、釈明するしかなかった。
「ち、違うから!! 全面的に誤解だから!!」
「またまたー、友達のボクたちの前で嘘なんかつかなくてもいいんですよー。ボクたちは池川くんがドヘンタイでも絶交したりしませんから、安心してくださーい!!」
「そうね。友達がどんな性癖を持っていたとしても受け入れてあげるというのが私たちのポリシーだものね」
パーラーはニヤニヤと笑いながら、マッチはいつもの無表情で、俺のことを「男のくせに女性用のブラを着けたがるという、ヤバい性癖を持つドヘンタイ」にしようとしていた。
さしもの俺も、この冤罪には我慢がならなかった。
「だから性癖じゃないというろうに! 話を聞けや!!」
「パーラー、マッチ、お待たせー……って、サトシくん? どうしたの、こんなところで?」
サ……サアヤさん……なんでサアヤさんがこんなところに?
……って、パーラーやマッチがいるなら、サアヤさんがいても全然おかしくないよな、この3人はしょっちゅう一緒に行動してるみたいだし……
「あ、池川くん、お待たせー。店員さんに聞いたら在庫があったから、ブラ、無事に買えたよー」
そして、当然のように現れる、下着の入った袋を手に持った福原さん。
「こんなところ……って、女性用下着売場? え? サトシくん……?」
なんだこれ?
なんか、前にも似たような状況があったような……?
「ねえ、サトシくん? このメガネの女の子はいったい誰なの?」
なんにせよ、今すぐここからワープできる能力を、誰か俺に与えてくれないか?
速やかにこの場から逃げ出したいのだがね……
次回もサブタイトル未定だけど、またしても嫉妬の炎を燃やすサアヤさんに対し、真実を告げるわけにはいかないサトシはどう対処するのか? お楽しみに。




