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第六十三話「幼なじみのカノジョ」

 7月は1日と2日が土日だったので、7月になってから初めて登校したのは3日の月曜日だ。


 その日の休み時間、珍しくクレナお嬢、ロバータ卿、パーラー、マッチの全員がトイレかどっかに行ったスキを突いて、俺はモエピに話しかけてみることにした。


クレナお嬢とロバータ卿はよく連れションしているけど、パーラーとマッチが連れションするのはまれなこと、この機を逃してはならぬと思った。


「やあ、モエピ、元気?」


「え? ああ、池川くんか。元気だけど」


 モエピは7月になっても未だに、休み時間は一人ぼっちで、髪型はかたくなにハーフツインだった。


 そのことから、自信なさげに見えて、芯は頑固であることがうかがえた。


「それで、何か用?」


「いや、別に用ってわけじゃないんだけど、最近あんまり話せてなかったから久しぶりに話してみたくて。最近どうなの? 部活とかうまくいってる?」


 いつも女子たちにグイグイ来られていて、自分主導で話すことがほとんどないので、自分主導でモエピと話すことに、緊張してしまっている己がいた。


「部活? うん、ティー・パーティーのみんなとは仲良くやってるよ」


「そうなんだ。でも、そのわりには休み時間とか、パーラーやマッチと話してるとこ見たことないけど……」


「別に休み時間に話さなくても、部活で嫌というほど話せるし……」


「そっか。それで、ティー・パーティー以外の友達は相変わらずいないの?」


 俺は言ってから「しまった。いくらなんでもぶしつけな質問すぎたか?」と思ったが、モエピは特に何も気にしていないみたいだった。


「そうだね。ティー・パーティー以外の友達は特にいないし、別に作りたいとも思ってないかな……」


「え? そうなの? なんで?」


「なんでって……池川くんになら言ってもいいかな。私ね、この夏休みに行われる、広島を拠点に活動するアイドルグループのオーディションに応募したんだ」


「ふーん、そうなんだ」


「うん、もしそのオーディションに受かったら、広島に引っ越すことになって、学校も転校することになるからね。友達なんか作ったら、別れる時にさみしいかなと思って、だからもう作らないようにしてるの。池川くんみたいに来る者を拒もうとまでは思わないけど、池川くん以外、誰も来てくれないしね……」


「そ、そうなんだ……」


「仮にこのオーディションに落ちても、また別のオーディションに応募するつもりだし、普通に東京を拠点に活動するアイドルグループに合格したら、東京に引っ越すことになるからね。広島なら近いけど、東京は遠いじゃん。だから友達作るのは、アイドルになってからでいいかなって……」


「ふーん……モエピはやっぱり受かるまで、アイドルオーディション受け続けるの?」


「え? うん……とりあえず高校生のうちはチャレンジし続けようかなって思ってるよ。さすがに高校生のうちに受からなかったら諦めると思うけど……」


「そうなんだね……じゃあ、俺はこれで……」


「あ、うん……」


 俺は、モエピとの会話を早々に打ち切って、自分の席に戻った。


「アイドルオーディションに合格したら、引っ越すことになるから、友達は作らないようにしている」というモエピの言葉は、「池川くんのことはまったく好みのタイプでもなんでもない」という言葉以上に、俺の心に強く刺さってしまった。


 モエピは何度オーディションに落ちてもめげることなく、合格するまでトライし続けるつもりらしいし、その晴れやかな表情からは、いつか必ず合格して、アイドルになることを信じて疑っていないように思えた。


 夢に向かって一直線、全力投球、夢を叶えるためならば楽しい学園生活など送れなくても構わないとばかりのモエピに対し、俺のなんと不甲斐ないことか……


 俺の周りにいる女子たちも、姉小路(あねがこうじ)でさえも、夢を抱き、追いかけて生きているのに、俺は夢もなく、性のことばかり考えて、ボーッと生きているムッツリスケベの残念な男だ。


 そんな男が、モエピにちょっかい出していいのか? いいわけないよな……うーん……





 モエピと自分に、月とすっぽんほどの差を感じたその日の昼休み、いつものように学食に行こうとしていた俺のことを、パーラーが呼び止めた。


「ああ、池川くん、池川くん」


「ん? なんだよ、パーラー?」


「誰か知りませんけど、メガネをかけた女子が池川くんのことを探してましたよ。今も廊下にいるんじゃないですか?」


「メガネをかけた女子?」


「はい。池川くん、相変わらずモテモテですねー、うらやましいなー、この色男!」


「本当、このドスケベおっぱい星人のどこがいいのかしらね? この学校の女子生徒は全員、視力検査を受け直すべきなんじゃないかしら?」


 パーラーやマッチの言うことに、いちいち目くじら立てていては、このクラスで生きてはいけないので、俺はクールに無視して、廊下に出てみた。


「あ、池川くん」


 すると、パーラーいわく「メガネをかけた女子」の福原(ふくばら)セイラさんが、俺のことを見つけて、声をかけてきた。


 福原さんと言えば、メガネは飾りでもなんでもない、特進クラスに通う秀才にして、今さら語るまでもなく、「ナナのカノジョ」だ。


 俺にとっては「恋敵(こいがたき)」とも言える福原さんが、特進クラスからわざわざ下向(げこう)して来て、いったいなんの用があるというのだろう?


「やあ、ふくはらさん。何か用?」


「あ、ごめん。私、ふくはらじゃなくて、ふく『ば』らなんだよね、『は』が濁るの」


 そう言えばそうだった。中学時代から、呼び間違えると必ず指摘してくるのがふくはらさん……もとい、ふくばらさんなんだよな……でも「ふくばら」より、「ふくはら」の方が圧倒的に言いやすいと思うんだけど……って、そういう問題じゃないか……


「ごめんごめん、ふくばらさん。それでなんの用なの?」


「ここは人が多いからちょっと……どこか人の少ないところに行こう」


「え? うちの学校にそんな場所あるの?」


「ないかな? だったら放課後でもいいから、とにかく二人きりで、誰にも話を聞かれないような場所で、お話できると嬉しいんだけど……」


「誰にも話を聞かれないような場所で?」


「うん、ナナちゃんのことで、ちょっと相談したいことがあるんだ。だから、他の人に聞かれたら困るんだよ……」


 なるほど、おそらくこの学校で、ナナと福原さんが交際しているということを知っているのは俺だけなんだろう。


 しかし、俺と福原さんが二人きりでお話できる場所なんて、正直、ひとつだけしか思い浮かばないんだけど、でも、いいのかなぁ……そこに誘って?


「うーん……だったら俺の家に来る?」


「え?」


 さすがに突拍子もない提案だったのか、福原さんは驚きの表情を浮かべた。


「いや、俺の家は夜まで、俺以外の誰もいないからうってつけかなと思ったんだけど、さすがに非常識だったかな? でも、他に人のいない場所なんて、俺の家ぐらいしか思い浮かばなくてさ……」


 俺は一応、自分の家に誘った理由を説明した。


「あ……いや、うん、いいよ。場所はわかってるし、うちからも近いから、放課後、池川くんの家にお邪魔するよ。何時ぐらいに行けばいい?」


「まあ、俺は帰宅部で、放課後はいつも直帰してるから、別に何時でもいいんだけど……」


「じゃあ、私、今日は部活休んで、なるべく早めに行くね。それじゃあ、今のところはこれで」


「あ、うん……」


 福原さんは自分の言いたいことだけ言うと、あっさり去っていったが、この作品に出てくる女性はだいたい全員そうなので、今さらそんなことでイラついたりはするわけはない。


 それよりも、いくら去年クラスメートだったとは言え、まともに話すのは今日がほとんど初めてなのに、やけに馴れ馴れしいしゃべり方だったことの方が気になった。


 自分のカノジョの幼なじみには誰だって、そういう態度になってしまうのだろうか?


 カノジョがいたことのない自分にはよくわからないな……






 俺は学食で天ぷらそばをすすりながら、改めて、先程の福原さんとの会話を思い出していた。


 たしか福原さんは「ナナちゃんのことで、ちょっと相談したいことがあるんだ」とか言っていたように思う。


 相談……それも公の場ではできない相談とはいったいなんなのか?


 ハッ、まさか別れ話の相談では?


 ナナに強引に迫られて、仕方がなく付き合うことを承諾したけれど、実際付き合ってみると、福原さんは自分がノンケであることを痛感し、やっぱり女子と付き合うのは無理だから、穏便に別れられるように協力してほしいとか、そういう話をしたいのかも?


 それならば、人の多い廊下で、立ち話というわけにいかないというのにも納得だよ。


 もし本当にそうなのだとすれば、再び俺にチャンスがやって来るのかもしれない?


 福原さんにふられて傷心のナナのことをうまいこと慰めることができれば、あるいは……


 なんて、そんなうまい話があるわけないか……


 でも、もしかしたら、ひょっとして……「私、やっぱり女子と付き合うのは無理だった……じゃあ今、誰のことが好きなのかと言えば、池川くん、あなただよ」とかいう展開もなきにしもあらず?


 もし、そんなことになったら、俺とナナと福原さんとで泥沼の三角関係になったりして?


 そして、もしも、万が一、俺が福原さんと付き合うようなことになったら、ナナのカノジョを寝取るという、誰も予想だにしなかった驚きの展開に?


 いや、ないない……


 もし、そんな展開になったらナナとは絶交不可避で、一生恨まれることになってしまうし、何より福原さんが俺のこと好きだなんて、あり得ないよ……だって、今までほとんど接点なかったのに……


 こんなあり得ない妄想をしてしまうだなんて、どうも最近、女の子に迫られまくってるからって、調子に乗ってしまっているようだ。


 バカなこと考えてないで、さっさとそばを食べよう……でないと、昼休みが終わってしまう……

次回、やっぱりサブタイトルは未定も、福原さんの「相談」とはいったいなんなのか? お楽しみに。

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