第四十六話「浮気はやめなよ」
昨日、この作品を更新できなかった理由は……頭痛です(笑)
まさかのサトシくんが「頭痛い」って嘘を、サアヤさんにあっさり見破られる回を書いた次の日に、作者が本当に頭痛……それも吐き気を伴うつらいやつ……になってしまって、寝なければどうにもならない状況になってしまったので、昨日は更新を休んでしまいました、すいません。
祝日の昨日にぐっすりたくさん寝て、今日は元気なのでご安心を。
「そういうあなたこそ、どなたでございますの?」
俺の後ろにいるサアヤさんのことを見つけたクレナお嬢はいぶかしげな表情をしたが、
「あ、ひょっとしてサトシ様のお姉様でございますか? はじめまして、わたくし、サトシ様の婚約者、未来の嫁の山田クレナでございます」
すぐに笑顔になって、盛大な勘違いをし、堂々と嘘をつきながら、お辞儀をした。
「こ、婚約者……未来の嫁……?」
クレナお嬢の嘘を聞いたサアヤさんの顔面が蒼白になった。
「い、いや、冗談だから! クレナお嬢はジョークがお好きなんだよ! 困ったね、ホント……アハハハハ……」
さっきまで「サアヤさんに嫌われてしまえば楽になれる」とか思っていたくせに、俺はなぜかサアヤさんの誤解をとこうとしていた。
「まあ、たしかに婚約者というのは事実ではありませんが、サトシ様の未来の嫁になりたいというのはまごうことなき本心ですわ、お姉様。それが実現した時にはぜひ仲良くしてくださいませ」
クレナお嬢はまだ、サアヤさんのことを俺の姉だと思い込んでいるみたいだった。
「フーン、ソウナンダー……アナタガアノユウメイナヤマダクレナサンナンダネー……フーン……」
ヤバい……サアヤさんが、俺がナナにふられた時のようなロボット棒読みになっている……
「アー……ワタシハイギリスカラキマシタ、Roberta Buttenriverデース! ヨロシクオネガイシマース!! Oh Nail Summer」
そんなロボットサアヤさんに、ロバータ卿が自己紹介をした。
それにしても、オー・ネイル・サマーって何……? あっ、お姉様!
「アー……アナタガアノユウメイナイギリスノキゾクノムスメ……」
「そんなことよりお姉様。サトシ様のお具合の方はいかがでございますか? 見たところ元気そうで安心いたしましたけれども……」
「わ、私、サトシくんのお姉さんなんかじゃないよ!!」
いい加減、クレナお嬢の誤解をとこうと思ったのか、サアヤさんが普通の声に戻って叫んだ。
「え? それではあなたはいったい誰なんでございますの? なぜサトシ様の家にいらっしゃるのです?」
「そ、それは……その……」
クレナお嬢の問いに、サアヤさんは即答せず、しばらくためてから答えた。
「カノジョ! カノジョだよ!! 私はサトシくんの恋人なんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
「な、なんですってぇぇぇぇぇぇぇっ!?」
サアヤさんのまさかの絶叫に、クレナお嬢も今まで聞いたこともないほどの大声で返し、俺は「近所迷惑だからやめてくれよ……」と思わずにはいられなかった。
「ちょ、ちょっとサトシ様、どういうことですの? わたくしというものがありながら、こんなどこの馬の骨とも知らぬ女と……」
「い、いや……カノジョじゃないから! 付き合ってないから!!」
俺がまたしても誤解をとくのに必死になっていると……
「Hey Satoshi Summer ウワキハヤメナヨ!!」
「いや、そんな言葉、どこで覚えてくるんだよ!!」
ロバータ卿に左肩を叩かれながら、まったく思いもよらぬ言葉を言われて、俺はツッコまずにはいられなかった。
「モテルオトコハタイヘンネー、ハッハッハッ!」
なぜかロバータ卿はこの状況を面白がっているみたいで、大爆笑していた。
本当にこの人、貴族の娘なんだろうか?
正直、ただのゴシップ好きの「人の不幸は蜜の味」とか言ってるおばさんにしか見えないぞ……
「ていうか、そもそもあなたいったい誰なんです? わたくしがヤマダ自動車の社長令嬢と知っての狼藉ですか?」
「うん、知ってるよ! 知ってるけど、こればっかりは譲れないの! ガールズバンド、ウィメンズ・ティー・パーティーのギターボーカル、松永サアヤの名にかけてね!!」
「ガ……ガールズバンドですってぇっ!? ロックのような不良の音楽をやっているような女にサトシ様のことは渡せませんわ!!」
「ロックが不良っていつの時代の価値観よ!?」
「エレキギターを弾いている人はおしなべて不良ですわぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「それ50年前の価値観でしょう!? あなたいったい何歳なんですかぁっ!? 若く見えるけどおばあちゃんなんじゃないのぉぉぉぉぉっ!?」
「な……なんですってぇぇぇぇぇぇっ!! このうら若き乙女のわたくしをおばあちゃん呼ばわりなどと!! おのれぇぇぇぇぇぇっ!!」
クレナお嬢は拳を振り上げた。
「何よ、やる気!? いつでも相手になるわよ! ちょっとお金持ってるぐらいでなんでも自分の思い通りになるなんて思わないでよねっ!!」
「Hey Satoshi Summer ダメダコリャ」
「いや、あんたはいかりや長介かよ!!」
なぜかドリフに詳しいロバータ卿にツッコミを入れつつも、俺にはやらなければいけないことがあった。
「いつでも相手になるってのはこっちのセリフですわ! わたくしにはサトシ様のお父様直伝の剣術の腕がございますのよ!!」
いや、あんた、昨日入門してきたばっかりで、まだせいぜい、構えぐらいしか教わってないだろ……
なんにせよ、サアヤさんとクレナお嬢は今にも取っ組み合いの喧嘩を始めそうな勢いだったので、俺は止めなければいけなかった。
「あのさぁ……君たち……」
「な……何? サトシくん」
「な……なんですの? サトシ様」
俺が珍しく、ドスの効いた声を出したからか、二人ともビビッていた。
でももう俺は決めていた。
甘い顔を見せるからなめられて、自宅に押しかけられてしまうのだ。
ここはもう、男らしく、きっぱり言うしかない……
「二人とも俺のことを婚約者だの彼氏だのと勝手にぬかしておいでだけれども、俺が一度でも君たちのこと『好きだ』とか『付き合ってくれ』って言ったことあるか?」
「それは……ないけど……」
「たしかに……ございませんわね……」
「そうだよね。それなのに婚約者だの彼氏だのと事実無根なことを平然と言い触らし、なおかつ連絡先知ってるくせに、アポも取らずにいきなり自宅に押しかけてくるってさぁ、おかしくない?」
俺のいつもと違う空気に気圧されたのか、3人の女子たちは黙り込んだ。
「世間一般ではさぁ……そういうの『ストーカー』っていうんじゃあないのかなぁ……?」
「え……ストーカーだなんて……そんな……ただ、好きな気持ちをおさえられないだけなのに……」
まさかのサアヤさんとクレナお嬢がユニゾンでまったく同じセリフを言ったので、危うく笑いそうになってしまったが、ここで笑ってはいけない……
「とにかくっ!! 君たちは自分の気持ちを押しつけてくるばっかりで、俺の気持ちをまったく考えていない!! それで本当に俺のことを好きだの愛してるだのと言えるのかっ!!」
俺はついに雷を落としてしまった。
本当は落としたくないけど……もう誰がいつ家に来るかわからなくてビクビクする日々にはうんざりだったから落とすしかなかった。
「とにかく……今日のところは、もう帰れよ! そして……二度と来んなっ!!」
俺のあまりの剣幕に黙り込む3人をむりやり玄関の外に押し出し、俺はバタンとドアを閉めて、ガチャリと鍵をかけた。
「えっ!? ちょ……ちょっと、サトシくん! アポなしで押しかけたのは謝るから……話を聞いてよ、サトシくん!」
「サ……サトシ様! わたくしの話も聞いてくださいませ!!」
二人はガチャガチャとドアノブを動かしたり、チャイムを鳴らしまくったりしたが、俺はもう絶対にドアを開けないと決めていた。
しばらくしたら諦めたらしくて、なんの音もしなくなった。
「あ、あなたのせいで温厚なサトシ様を怒らせてしまったではありませんか! この泥棒猫!!」
「誰が泥棒猫よ! この金持ちギツネが!!」
「か、金持ちギツネですってぇぇぇぇぇぇっ!!」
「オー、フタリトモモチツイテー」
「お正月でもないのに餅なんかつきませんわっ!!」
ドアの向こうでサアヤさんとクレナお嬢が大声で言い争っているのが聞こえたが、もう知ったこっちゃなかった。
俺は二人を無視して、自分の部屋に戻り、ベッドに横になった。
本当はもっと穏便にすませたかったけど、仕方がない。
これで明日からは平穏な日々が戻ってくる。
それで安堵したからかなんなのか、今日休んだ理由が「ナナにふられたショックを癒すため」であるということをさっきまで忘れていたのに、急に思い出してしまった。
なんていうか……恋をしてもつらくてめんどくさいだけだし、もうしばらくは恋なんてしなくてもいいかな……
俺はそう思いながら、目を閉じて、夢の世界へと旅立っていった。
次回「ジ・エンド・オブ・ザ・ワールド」
何事もなければ、ちゃんと明日に更新するはずなのでお楽しみに。
脚注(興味のない方は無理して読まずに飛ばしていただいて結構です)
浮気はやめなよ→元々はマイナーリーグの野球選手だったけど、メジャーに昇格できないまま引退に追い込まれたので、やむを得ずカントリー歌手に転向したらヒットを連発したという、珍しい経歴の持ち主、ジム・リーヴス(Jim Reeves)の代表曲にして、全米2位の最大ヒット曲「He′ll Have To Go (ヒール・ハヴ・トゥ・ゴー)」についた邦題、それが「浮気はやめなよ」である。「野球ではヒット打てなかったジム・リーヴスが歌手としてはヒット連発」ってのはアメリカでは定番のジョーク……なわけはなく、作者の私が勝手に考えたものである(笑)
「ダメダコリャ」→読者の皆様は「なぜ女子高校がドリフを知っているんだ?」とお思いだろうが、韓国から飛んでくる電波の干渉のせいで、通常のアンテナではテレビを視聴するのが困難な山口県では、行政が主導となって、ほぼすべての市町(平成の大合併により山口県から村は消滅したので「市町」)でケーブルテレビが整備されており、ほとんどの家庭はそれでテレビを見ている。防府市の場合は、「山口ケーブルビジョン」というケーブルテレビ局に入ることになるが、その山口ケーブルビジョンのサービスチャンネル(本当はお金払わないと見られないけど、特別に無料で見られるようになっているチャンネルのこと)の中に「ファミリー劇場」というチャンネルがあり、そこでは毎日「ドリフ大爆笑」を放送しているのである(今はド深夜に放送しているが、昔は夕方の5時半だったか6時半だったか、どっちか正確に覚えてないが、とにかく夕方に毎日放送していて、ニュース嫌いの作者はそれをよく見ていたのである)。ロバータ卿はクレナお嬢にそれを見せられているからドリフのことを知っているのであろう。ていうか、貴族の娘に「ドリフ大爆笑」なんか見せるなよ、クレナお嬢……




