3 悩んだ末に第一稿を没にした私が書いた問題作
さて悩んだ末に第一稿を没にした私。
第二稿に着手します。
まずはお仕事のシーンから入り、鈴さんを出さぬままその役目を継いだという形で語ろうと決めました。
結果はどうなったか。
それはあなたの目で確かめてください。
ではどうぞ。
【 タイトル 「伝説の掃除人(改)」 】
洗面所のカウンターを乾いた布でしっかりと拭き上げた所で入り口から聞こえてくる賑やかな声と気配にこっそりとため息をひとつ。
清掃中の看板を立てているにも拘らず、堂々たる様子で男性社員が二人話しながらやって来る。
一応会釈をするけれど彼らはこっちをチラリと見ただけで元からいない者として扱う。
「この間の飲み会の帰り、佐伯とホテル行ったんだけど、あいつ一回寝ただけで彼女気取りでさ」
「は?佐伯って総務の?あれに手出すとかお前ほんとサイテーだな」
可哀想だろ、あの子真面目そうなのに――言葉では責めるようなことをいっているけれど顔はニヤニヤ。
まだ私がいるのにそんな話を堂々と始める辺り「俺モテますよ」アピールのつもりなのか。
彼がどんだけ悪い男でも、遊び人でも私には関係ない。
ただ総務の佐伯という名前でぼんやりと顔が浮かぶほどには彼女に好印象を持っていた。
この会社の女子トイレには必ずお花が一輪活けられている。
野に咲くような慎ましやかなものや、花屋で買ったような華やかなものと多彩で実は大変楽しみにしていた。
たまたま活けている現場に居合わせたことがあって、その時に会釈を交わした相手がその総務の佐伯さんだったのだ。
肩までの黒髪をハーフアップにして、縁なしの眼鏡をかけた女性。
白いシャツの襟から覗く首筋がほっそりとしていて、地味だけれど品が良くみえた。
そんな彼女が遊ばれて捨てられたのか。
「ほんとサイテーだな」
舌打ちした後で誰かに聞かれなかったかと慌てて周りを窺い、人の気配が無いことにほっとする。
さすがに空気と同じ扱いだとしても清掃会社から派遣されてきた掃除婦が派遣先で舌打ちしていることがバレようものなら会社に連絡がいって注意された上に仕事先をひとつ失うことになること間違いなしだ。
誰がなんといおうが私はこの仕事を愛していて、誇りを持って働いている。
そしてなにも知らずにこの世界に飛び込んだ私を指導してくれた師を敬愛しているのだ。
今でも伝説の掃除人と呼ばれた彼女の名は色あせることなく様々な逸話と感謝と共に語られており、最後の教え子として叩きこまれ後継者として期待されている私は救済するべき人候補として佐伯さんの名を頭の一番目立つ所に刻みつけた。
「お疲れさま」
白い軽ワゴンを空いたスペースに止めて掃除道具を手に裏口へ向かうと警備員のおじさんはいつも笑顔で迎えてくれる。
「お疲れさまです」とぺこりと頭を下げて挨拶をして中へと入れてもらい、廊下を進んでいると小走りで近づいてくるスーツ姿の男性。
「こんにちは。水口さん。これから外回りですか」
「うん。そう。外は暑い?」
「それは夏ですから」
「だよね」
ニコニコと目尻を下げて優しげに笑う水口さんは頼りなく見えるがこの会社の営業でトップスリーに入るやり手でもある。
この笑顔も営業用ではなく素であることや、裏表無い人間であることも社内の人の評からも疑いようもなく高物件であることは確かだ。
ただ八方美人にも取れる上にどうやら自分のことにはあまり頓着が無いらしく、平気で不摂生をし、休日は掃除洗濯よりも寝て過ごすという若いのに枯れた生活をしているらしい。
「じゃあお互い頑張ろう」
手を振って地下駐車場へと続く廊下を走って行く後ろ姿を見送り、まずは各部署にあるゴミ箱からゴミを回収して捨てに行き、階段や廊下を磨き上げ、玄関周りの掃き掃除とガラスをピカピカに拭き上げて最後にトイレ掃除をして終了。
汚れている箇所を綺麗にした後はしみじみと達成感に満たされる。
こんな時は師が「この仕事は体力勝負だし給料も安いけどね。汚れていた場所が綺麗になったり、雑然としている場所があるべき場所へ収まると自分の心まですっきり洗われるようで病みつきになるんだ」といっていたことを思い出す。
モップすらまともに扱えなかった私を笑うことも叱ることもせずに丁寧に教えてくれた師がいたからこそ今の私がいる。
最初は快く思っていなかった両親も今は応援してくれているし、この仕事に出会えて本当に良かったと思う。
そして師匠と会えたことも。
通りかかった給湯室から聞こえる噂話。
休憩所で交わされる言葉のやり取り。
電話の応答の仕方。
私が受け持っている現場はオフィスが多く、会社という枠の中で色んな人たちが働いていて全ての人を把握することはできないけど、時々この人はという相手と出会うことがあった。
ふと水口さんにはぐいぐいと引っ張って外へと連れ出してくれる人か、逆に尽くしてくれるような相手が合っているんじゃないかと思いつき、総務の彼女の名が閃く。
うん。
良い感じ。
二人が並んだ姿を思い浮かべてぴたっとハマった感触は掃除後の感覚とよく似ている。
単なるお節介であり余計な世話だといわれることもあるけれど、概ね好意的に受け入れられるのは師が数々のカップルを成立させてきた伝説の掃除人だからだ。
今度それとなく二人に恋人を作る意志があるか聞いてみよう。
師から引き継いだ副業はなんの報酬も無いけれど、喜んでくれるだけで報われる上に自分も幸せのお裾分けを貰えるからそれで十分だ。
「いつも綺麗にしてくれてありがとうございます」
帰り際に声をかけてくれた女性の首から下げた社員証に目を走らせて名前と所属をチェックし笑顔で「こちらこそいつもご利用ありがとうございます」と返した。
★ ★ ★ ★ ★
はい!ダメー!
もう設定盛り盛りでぎゅうぎゅうで苦しい。
そのせいで2000文字に収まりきれてない。
やりたいこと一生懸命に詰め込みすぎて、コーヒーにマヨネーズを入れてぐるぐると混ぜたかのようです。
これでは胃を悪くしてしまう。
明らかな失敗です。
情報の選択。
必要ではないものを切り捨てる覚悟。
出来上がった第二稿によって私は激しく動揺してしまいました。




