夢の先にあったもの
僕は小学校の時にお婆ちゃんの家にあったフォークギターを見つけた。
「ねぇお婆ちゃん、このギターってなんでこんな良い音がするの?」
「木が良いからだよ。欲しかったらあげようか?」
「え、いいの?」
僕は飛び上がって喜んだ。それから毎日毎日ギターの練習に明け暮れた。とにかくただただ楽しかった。
小学校の文化祭で1日限りのバンドを組んで舞台の上で歌ったんだけど、正直言って下手くそだった。母が録画してくれたけど、恥ずかしくて見れなかった。
高校生になって、周りにギターやバンドをやってる人がいなかった。だから一人でよくバラードの曲を弾いてたっけな。
大学に入るとさすがにバンドサークルみたいなものがあって、何の迷いも無く入った。そこでは、みんな僕と同じように音楽が好きな奴らばかりで、毎日毎日歌を歌ってギターを弾いて時間を潰した。
卒業の時、すっごい迷った。就職するか、このまま音楽で食べていくか。
「音楽で食べていける程、この世の中は甘くないよ!就職しなさい」
と、毎日母に言われてた。それでも歌が好きだった。
「3年。お願い3年だけ音楽やらせて?それで結果が出なかったら普通の仕事につくから」
母と3年間の約束でなんとか音楽を続けられた。
毎日歌を作って、ライブハウスで演奏した。なんて気持ち良いんだろうと思っていたが、インディーズバンドで名も売れてないバンドマンには給料なんてなくて、皆バイトで忙しかった。
約束の3年が経とうとしていたその時、インディーズレーベルから声がかかった。
「君たち、CD出してみないか?」
僕たちは飛び上がって喜んだ。
「俺たち、歌手になれる!みんな宴会だー!」
なんて言いながら最高の瞬間だった。
インディーズレーベルでCDを出し、売れ行きはそこそこだった。こんなんじゃ食べていけない。そんなこんなで、年齢は30歳になろうとしていた。
周りの目が冷たくて、それでも好きだから続けられた。
「なぁ、俺30歳になったらバンドやめるわ」
一人のメンバーが言い出した。
「俺たちまだ夢の途中なんだぞ?今諦めたら一生後悔すんだぞ?」
「わかってる、そんなことわかってる。けどこのまま続けてメジャーデビューして食っていけると思うか?ここまでやってきて、どれだけ厳しいかわかっただろ?」
「それでも、俺たちじゃなきゃ作れない音楽があるだろ?一人もかけちゃダメなんだって!」
「、、、。」
一人が辞めた。
そして、次々と辞めていった。
「もう、解散しよう。。」
ばっかじゃねーの。何のために今までやってきたんだよ。
僕にはこれしかなかった。
好きなこと、やりたいことが音楽しかなかった。
「じゃあ最後にお願いがある。20代最後にみんなで解散ライブしよう!それで全て終わりにする!家族とか友達とかみんな呼んで楽しく思いっきりやろう!」
解散ライブが開催された。
それは本当に音楽が好きな奴らが奏でる最後のライブ。
全ての曲に震えた。
涙が止まらなかった。
本当に好きなことをやって、
大好きな奴らと歌を歌って、
解散した。
ばかだなー。結局なーんにも手に入らなかった。
何にも。
母さん、ごめん。
でもね、すっげー幸せだった。
皆ありがとう。