諦めました。 8
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…これが、夢物語であったなら。
主人公は才能があって。
強くて。仲間も大勢いて。
そして、何よりも(特別な)存在なのだろう。
しかし、自分はどうだろう。
(この人はふざけているんだろうか。)
私は、もう一度本を開き、白紙のページをめくりながら問いかけた。
「この世界では、ニンゲンは神様みたいな存在なんですか?
消滅したモノを元に戻すなんて、そんな事出来るとは到底思えませんが。」
彼は一瞬目線を落としたが、すぐに答えた。
『もちろん、ニンゲンには無理だよ。
どんな特別なニンゲンだろうと、無理だ。
…でも、君はやり方を知っている。
つまりは、』
わたしは思わず、彼の話を遮る。
「わたしが人間じゃないって言うんですか!
冗談じゃない、そんな事ありえないです!」
(絶対ありえない。だって、今まで普通に生活していたんだから。)
…普通の学生生活。普通の家族。
今までの記憶が、嘘なわけがない。
『君は。ここに住んでていた事があるんだよ。しばらく暮らせば、少しずつ思い出すんじゃないかな?』
「わたしに、消えたモノを元に戻せって言うんですか?…そんなの、無理です!」
『いや。……俺にとっては、そんな事どうだってかまわないんだ。
ただ少し、君に思い出して欲しい事があるけど。だから、いろいろ探索して欲しいな。』
『どのみち、君がいくら(帰りたい)と望んだとしても、無理だよ。
…第一、俺がさせないから。』
「…そんな…いえ、わたしは諦めません。
ここに来れたという事は、帰る事が出来るという可能性があるはずですから。」
わたしは、手に持っていた本をぐっと彼につき返そうとした。
『それは、君が持っていた方がいい。
…この(象牙の塔)を理解するヒントになるかもしれないからね…
さて、君とずっと話していたいけど、
まだやる事があって出掛けるんだ。
夜には戻るから。昼食の時間になったら迎えを寄越すから、自由にしてて。
それじゃあ、またね。』
彼はそう言って、出て行ってしまった。
扉の閉まる音が反響する。
➡︎ 9
申し訳ありません、途中で1度投稿してしまいました。
彼女は、まだ諦めていない様です。




