諦めました。 7
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先を歩く彼の後ろ姿を見つめる。
昨日と同じ、ラフな格好だ。
危険な物を隠し持っている様には見えない。
わたしは歩きながら話しかけてみる。
もちろん、警戒は怠らない。
「 アルヴァー…さん。
ここには、他に人はいないんですか?」
彼は、立ち止まってこちらを振り返り、こう答えた。
『呼び捨てでいいよ。…そうだね、(ヒト)はいないね』
(…そういう言葉遊びがしたいんじゃない。)
「そういう事じゃなくて…!」
『…ごめん、ごめん。…いるよ。まだ、君が見つけてないだけだ。』
彼はおかしそうに答える。そしてまた歩き出した。
(さっきの答え。やっぱり、この人もあの執事も、
ニンゲンじゃないんだ。)
…あの執事がヒトでない事は、一目瞭然であったが。
しばらく歩くと、彼は一際大きな扉の前でとまった。
『さあ、目的の場所に着いたよ。』
そう言って、彼は重そうな扉を開いてくれる。
中に入ると。
懐かしい匂い。空気。そして、…静寂。
ホールのように広い空間には、天井までぎっしりと本が並んでいる。
その広さに、わたしは思わず口を開けたまま、溜息を漏らした。
『地図を広げてみて。この場所はきっと気に入ってくれると思って、最初に案内したかったんだ。』
言われるまま、地図を広げると、
食事の後に彼が示した広い部屋に、いつの間にか
(Library)の文字が記されていた。
(1度行かないと印字されないワケか。)
…なるほど。だから探険という事。
『この仕掛けを作るのはちょっと大変だったんだよ。
でも、君に少しでも、楽しんで欲しかったからね。』
彼は少し歩いた後、近くの本棚から一冊手に取ってわたしに差し出した。
『好きなだけ、ここで読んでいくといい…と、言いたいところだけどね。君にとっては、ちょっと問題があるんだよ。…読んでみて。』
わたしは、本を受け取る。
革張りの本だ。それほど厚みは無い。
表紙には何も書かれていなかった。
表紙を開いてみる。
…何も書かれていない。
適当にページをめくってみたが、どれも白紙であった。
「…何も、書かれてないみたいですけど。」
『そう。…昔、ここで大規模な災害がおこって、巻き込まれたモノは全てここから消滅したんだ。
この(象牙の塔)にある世界のモノはすべて、ここにある書物に記されているからね。
…無くなってしまうと、書物から消えてしまう。』
わたしは、彼の言葉に耳を傾けていたが、ふとあることが思い当たり、尋ねる。
「…では、ここにある本はすべて白紙なんですか?」
『全部ってわけではないよ。…この塔自体の消滅だけは、食い止めたから。』
彼は私に向き直り、大事な事がある、と続けた。
『そうそう。君には、ここの本達を元に戻す事が出来るんだよ。もちろん、消滅したモノもね。』
信じがたい。
魔法か、何かだろうか。
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