諦めました。 3
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焼けた、木の爆ぜる音と。
頬に感じる熱風と火の粉。
誰かの叫び声と、誰かを呼ぶ声。
( ああ、またこの夢か)
たまに見る、火事の夢。
燃え盛る火の海に佇む私は、
何と言うか、何故か落ち着いた気分である。
理由は、これが夢だと分かっているからと、
もう一つは…
(夢… え、夢!?)
ばちっと目を開ける。
部屋の窓からは、日が差し込んでいる。
(まさか、あれから寝ちゃったの!?)
わたしは、そのまま眠ってしまったらしい。
ベッドの上で、倒れる様に寝ていたためか、
スカートはしわくちゃだった。
(こんな得体の知れない場所で気絶?しちゃうなんて…
信じられない。…何とかして帰らないと…)
(......そうだ、スマホだ!あの時は動転してて…思いつかなかったけど。)
ポケットを探ると、愛用のスマホがあった。
電源は入っており、思わず安堵の溜息がでる。
警察に通報しようとしたその時、わたしは気付いてしまった。
(え…電波がない)
どうして。どうして。室内だから?
(外に出なきゃ!)
部屋の扉に駆け寄ろうとした、その瞬間、
とんとんとん、とノックの音が響いた。
「......弥生様。入ってもよろしいでしょうか?」
男性の声だ。…驚きすぎて、ベッドにへたり込んでしまう。返事をするどころではない。
「...いらっしゃるようですね。申し訳ありませんが、
失礼致します。」
声の主は、扉を開けて滑るように中に入ってきた。
(執事?っぽい服だ。って、え、なに、)
恐らく男性であろうその人は、ドラマでしか見たことがないが、ヨーロッパの執事の様な格好をしていた。
しかし、その人は、首から上が無い。
わたしが固まったまま何も発言出来ずにいると、
執事の様な人は一礼して話し始めた。
「驚かせてしまい申し訳ありません。主からの命で、
あなたをお迎えにあがりました。
…お好きな服に着替えて、朝食にお連れするようにと。」
「主って、昨日のアルヴァーって人ですか?
お願いです、私を自分の家に帰してもらえるように言ってくれませんか!?」
(何普通に話しちゃってんの私!?だめだ、混乱しすぎて思考がまとまらない!)
「申し訳ありませんが、それだけは致し兼ねます。
…そちらのクローゼットに着替えがございます。
私は外に控えておりますので。」
執事の様な人は、一礼して出て行った。
(一体何なんだ、本当に…私の名前も知っていたし。)
妖怪…なんだろうか。少なくとも、人間では無いだろう。
わたしは頭をふりながら立ち上がり、もう一度スマホを覗き込む。
相変わらず電波が入っていないため、電源を落とした。
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