諦めました。【象牙の塔6】
考古学パート、はじまります。
[ 16 ] -象牙の塔6-
穏やかな朝の日差しが部屋を照らす。
ゆっくり目を開けて外を見ると、窓の外は昨晩の嵐などまるで無かったかの様に穏やかな天候だった。
窓枠に、青い小鳥が止まっている。
わたしは、起き上がって支度をはじめた。
…両親は、心配しているだろうか。
せめて、無事でいることを知らせたい。
そのためにも、出来ることを探さなければ。
わたしは、部屋を出ると執事に声を掛ける。
執事はすぐに現れて私を朝食に促したが、最後にこう付け加えた。
「主は、昨日の嵐で破壊された地域一体の調査に向かわれました。
…1人にしてしまって申し訳ない、と弥生様にお伝えするようにと。」
昨日の嵐による被害は、それほど酷かったのだろうか。
…たったひとりで出かけたのだとしたら、
彼が少し、心配だ。
わたしは、昨晩の落雷を思い出しながら、足早に食堂に向かった。
……
朝食の後、わたしは図書館に向かうことにした。彼が言っていた言葉が本当なら、庭園を復元させた事で、白紙の本が元に戻っている可能性が高い。
白紙の本が多い棚から順に調べてみると、幸い、あまり探し回ることなく、ある棚を見つけ出す事ができた。
(あれ、この棚…背表紙が読める本は無かったはず)
以前、調べた時には、読める本は無かったはずだ。それが今は、[植物図鑑][栽培手法]などといった文字が、本の背表紙に確認できる。
わたしはすぐに、1冊手に取って内容を確認してみる。
(この花…庭園に咲いていた青い花だ)
その本には、庭園に咲いていた数種類の花の特徴や、栽培方法が記されていた。
夢中になって次々と本を読み続ける。
すると、いくつかの事がわかった。
(…この塔は枯れない花の研究をしていたみたいだ。そして、あの庭園が研究成果か。)
しかし、研究の目的や、庭園の花を何に使っていたのかはわからなかった。
まだ、調べる余地がかなりあるだろう。
…ふと、時計を見ると、正午を過ぎていた。
わたしはいったん切り上げて食堂に向かう事にした。
(そういえば、この時計の後ろの文字。
…あの執事に聞いてみようかな)
答えが得られるかは分からないが、わたしにとって重要な事だと、なんとなく感じる。
食堂の扉の前で執事に声を掛ける。
現れた執事に、わたしは思い切って質問してみた。
「頂いた時計の後ろに、こんな文字が書いてありました。これって、なんと読むのですか?」
執事は意外にも、すぐに答えてくれた。
「【Αντικυθήρων】…これはギリシア語で、
【アンティキティラ】と書かれています。」
わたしは少し驚いて、さらに質問してみる。
「ギリシア?…この時計の、生産地なのですか?」
「はい、その通りです。
…この塔では、その地域出身の研究者がとある研究をしておりました。
今では、研究成果はほとんど失われてしまいましたが」
わたしは執事にお礼を言って、時計を取り出してみる。
…この時計に関係する研究。それは、どんな内容なのだろう、と考えていた。
➡︎ 17 -象牙の塔7-




