諦めました。【象牙の塔5】
彼の主人公に対する好感度は、最初からマックスです。
[ 15 ] -象牙の塔5-
『さあ、夕食にしよう。君が気に入ってくれるといいな…今日は、俺も一緒に食べるから。』
本当は、呑気に食事などしている場合では無いのかも知れない。
彼には色々聞きたい事があったが、わたしは思ったより空腹で。
......誘惑には勝てなかった。
………
デザートのティラミスを食べながらお茶を飲んでいると。
終始上機嫌だった彼が、急に真顔になり、窓の外を指さす。
『…ねえ、弥生。
見てみて。今日は、凄い雷だ。』
わたしは立ち上がって窓の近くに駆け寄る。
距離としては、数キロ位先だろうか、暗闇の中にひっきりなしに落雷している。
雷雲の下の地上はどのようになっているか確認する事は出来ないが、
おそらく凄まじい嵐に見舞われているのだろう。
落雷の範囲も、どんどん広がっていっている。
わたしは、思わず彼を振り返る。
「そんな。。さっきまで、あんなに穏やかな天気だったのに。」
『心配しないで。この塔の近くには影響が無い様にしているから。
落雷の音だって聞こえないでしょう?』
確かに、雷の轟音は全く聞こえない。
頷く私を確認すると、彼は続けた。
『これで、夜の外出は危険だって、分かってもらえたかな。
庭園位までなら大丈夫だと思うけど、念のため。絶対出ないでね。』
かれは、真剣な顔つきでわたしを諭す。
(…本当に危険なんだ。でも…なんだか、雷は綺麗だな)
わたしは雷を見つめながら、よく分かりました、と返答する。
そんなわたしを、彼は後ろからそっと抱きしめた。
『…君に、もし何かあったらと思うと…
ああ、また君を失うなんて』
彼の腕は少しだけ震えている。
わたしは何故か、昨日の様に振り払う気にはなれなかった。
「あの、わたしを失う…って?」
彼が呟いた一言が引っかかり、尋ねてみる。
『…ああ、君は気にしないで。
それより、もう冷えて来たから今日は休んだ方がいいよ。
そうそう、君の部屋に、ちょっとしたプレゼントを用意したから、見てみて。
それじゃあ、おやすみ。』
彼は答える代わりに腕を解くと、わたしを扉に促した。
そのまま、やや強制的に扉の外に控えていた執事に引き渡され、部屋へと戻る。
「はあ、今日は長い1日だったな…」
わたしは疲れからベッドにドサリと倒れこんだ。
ちらりとテーブルの腕はの花瓶を見ると、
庭園に咲いていた青い花が活けてあった。
部屋がぱっと明るくなった気がする。
(プレゼントって、これかな)
…そういえば。
わたしは、彼が髪に差した花を手に取ってみる。詰んでから長い時間経っているはずだが、全く萎れていない。
わたしはしばらく花を眺めていたが、
今日はもう休む事にした。
明日も、いろいろと歩き回る必要があるだろう。
➡︎ 16 -象牙の塔6-




