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諦めました。  作者: コトリ
11/20

諦めました。 【象牙の塔1】

懐中時計に書かれた文字がわかる方には、今後の展開が予想出来てしまうかもしれません。

[ 11 ] -象牙の塔1-



せっかくだから、冷めてしまう前に頂こう。

わたしは、とりあえず席についてスプーンを手に取る。


グラタンには、大きめのむきえびとブロッコリーが乗っている。

......えびのグラタンは、わたしの好物、であった。



両親や友人が訪ねてこない限り、普段も一人で食事を取っているものの、

ここが広い部屋だからか、少し寂しい。


窓を見ると、外の庭を見渡す事ができた。

外の天気は変わらず穏やかである。

夜に嵐になるかもしれないなんて、到底想像することは出来なかった。



しばらく休んでいると、何だか暖かい飲み物が欲しくなってきた。

(我ながら、なんて暢気なことを考えているんだろう。

でも、ちょっと試したい事があるな)


昼食の前、あの執事は確かに”用があったら呼ぶように”とわたしに告げた。

飲み物を持ってきてもらうか、食材等がある場所があったら、教えてもらえないだろうか?

そのくらいの用事なら、許されるだろう。


わたしは、まずは呼びかけてみることにした。

「あの、すみません。......何か、暖かい飲み物をいただけませんんか?」


自分の声が部屋に響いている。

わずかな静寂のあと、


「承知致しました。それでは、紅茶でよろしいですか。」

程なくして執事が現れた。


想像はしていたが、やはり驚いてしまう。

本当に、ニンゲンでは無いのだ、と実感した。


わたしは声を出す事が出来ずに、こくりと頷く。

すると、程なくして執事は消えてしまったが、

「お待たせいたしました。」

......静かな声と共に、すぐに再び現れた。


目の前の、食べ終わった食器類が下げられ、代わりにティーセットが置かれる。

カップに紅茶を注ぐと、執事は一礼した。


「あの。ありがとう、ございます」

わたしがお礼を言うと、とんでもございません。との返事。


食材の在り処を尋ねるため、地図を広げると、執事はここから程近い部屋を指差した。

(...以外にも、あっさり教えてくれたな。後で行って見よう)

わたしがもう一度お礼を述べると、執事は下がってしまった。



ティーカップを両手で持ちながら、注いでもらった紅茶を見つめる。

ここ最近、食後に紅茶を飲んだことなんて無い。

上流階級の暮らしはこんな感じなんだろうかと、そんな事を考えていた。



......



いつまでも、休んでいるわけには行かない。

懐中時計の時刻は、13時30分を示している。

わたしはフタを閉じ、懐中時計をしまおうとしたが、


(あれ。。。?)

時計の裏側に何か文字が確認できる。見た事がある文字ではあるが、読む事は出来なかった。

念のため、メモしておく事にする。


【Αντικυθηρα】


...いったい、何を意味しているのだろう。文字が印字されている場所から見て、製作者の名前だろうか?


時計とメモをしまい、この後の行動について思案する。

(まずは、午前中に調べきれなかった図書館に行ってみるか)


夜まで、まだ時間はある。

白紙になっていないジャンルの本を探しに、わたしは図書館に向かう事にした。



⇒ 12 -象牙の塔2-


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