諦めました。 【象牙の塔1】
懐中時計に書かれた文字がわかる方には、今後の展開が予想出来てしまうかもしれません。
[ 11 ] -象牙の塔1-
せっかくだから、冷めてしまう前に頂こう。
わたしは、とりあえず席についてスプーンを手に取る。
グラタンには、大きめのむきえびとブロッコリーが乗っている。
......えびのグラタンは、わたしの好物、であった。
両親や友人が訪ねてこない限り、普段も一人で食事を取っているものの、
ここが広い部屋だからか、少し寂しい。
窓を見ると、外の庭を見渡す事ができた。
外の天気は変わらず穏やかである。
夜に嵐になるかもしれないなんて、到底想像することは出来なかった。
しばらく休んでいると、何だか暖かい飲み物が欲しくなってきた。
(我ながら、なんて暢気なことを考えているんだろう。
でも、ちょっと試したい事があるな)
昼食の前、あの執事は確かに”用があったら呼ぶように”とわたしに告げた。
飲み物を持ってきてもらうか、食材等がある場所があったら、教えてもらえないだろうか?
そのくらいの用事なら、許されるだろう。
わたしは、まずは呼びかけてみることにした。
「あの、すみません。......何か、暖かい飲み物をいただけませんんか?」
自分の声が部屋に響いている。
わずかな静寂のあと、
「承知致しました。それでは、紅茶でよろしいですか。」
程なくして執事が現れた。
想像はしていたが、やはり驚いてしまう。
本当に、ニンゲンでは無いのだ、と実感した。
わたしは声を出す事が出来ずに、こくりと頷く。
すると、程なくして執事は消えてしまったが、
「お待たせいたしました。」
......静かな声と共に、すぐに再び現れた。
目の前の、食べ終わった食器類が下げられ、代わりにティーセットが置かれる。
カップに紅茶を注ぐと、執事は一礼した。
「あの。ありがとう、ございます」
わたしがお礼を言うと、とんでもございません。との返事。
食材の在り処を尋ねるため、地図を広げると、執事はここから程近い部屋を指差した。
(...以外にも、あっさり教えてくれたな。後で行って見よう)
わたしがもう一度お礼を述べると、執事は下がってしまった。
ティーカップを両手で持ちながら、注いでもらった紅茶を見つめる。
ここ最近、食後に紅茶を飲んだことなんて無い。
上流階級の暮らしはこんな感じなんだろうかと、そんな事を考えていた。
......
いつまでも、休んでいるわけには行かない。
懐中時計の時刻は、13時30分を示している。
わたしはフタを閉じ、懐中時計をしまおうとしたが、
(あれ。。。?)
時計の裏側に何か文字が確認できる。見た事がある文字ではあるが、読む事は出来なかった。
念のため、メモしておく事にする。
【Αντικυθηρα】
...いったい、何を意味しているのだろう。文字が印字されている場所から見て、製作者の名前だろうか?
時計とメモをしまい、この後の行動について思案する。
(まずは、午前中に調べきれなかった図書館に行ってみるか)
夜まで、まだ時間はある。
白紙になっていないジャンルの本を探しに、わたしは図書館に向かう事にした。
⇒ 12 -象牙の塔2-




