諦めました。 10
現在までの主人公の持ち物一覧は以下の通りです。
・スマホ(電源off)
・白紙の本
・不思議な地図
・簡単な筆記具
・懐中時計 ◀︎NEW!!
[ 10 ]
「弥生様。昼食のご用意が出来ております。」
......あの、執事の声だ。今までまったく気配を感じなかったのに。
すぐ後ろにいる。
わたしが振り返ると、執事は一礼した。
「そして、こちらを。主からお預かりしました。」
執事はそういって、小さめの、しろがね色の懐中時計をわたしに手渡した。
「この時計は、先の災害で消滅をまぬがれた数少ないモノのうちの一つです。
災害の影響で、一部の機能が失われておりますが、時刻を確認する分には申し分ないかと。」
受け取った時計のフタを開けて観察してみる。
時刻は正午過ぎを指しており、秒針はチ...チ...と、かすかな音を立てて動いていた。
よく見ると、ふたの裏側には天球図のような細かい図表が記されている。
こちらは、全く機能していない様子だ。
フタをあけたり閉めたりしていると、更に声がかかった。
「お食事は正午と19時に食堂か弥生さまのお部屋にご用意致します。そして、午後は18時までにこの塔にお戻りくださいますよう。
その他、ご入用のものがございましたらお呼びください。」
(......なるほど、自由に過ごせるとは言っても、制限時間があるわけか。
夜間には、見られたくないモノでもあるのだろうか。)
少し気になって質問してみる。
「夜は、どうして外に出てはいけないんですか?」
執事はすぐに返答した。
「夜間の外出は危険がございます。日中はこのように穏やかですが、この塔の外では魔物が出る可能性だけではなく、
気候の急激な変動や地形の変形も起こるのです。
......くれぐれも、夜間は塔の外には外出されませんよう。」
(気候や地形の変動??全く、イメージが出来ない。)
信じがたい事だが、一応分かりましたと返事をしておく。
すると、執事は納得したようで、扉を開けて部屋から出るように促した。
「では、こちらへ。」
.......
前を歩く執事は、いったい自分にとって敵味方どちらなんだろうか。
(まあ、少なくとも味方ではないんだろうな...)
色々質問しようと思っていたのだが、下手な事は口に出す事ができない。
いざ言葉に出そうとするとまとまらず、結局食堂の前まで来てしまった。
「それでは、失礼致します。ごゆっくりお過ごしください。)
執事は立ち止まると一礼して、また消えてしまった。
再び一人になったわたしは扉を開ける。
テーブルの上には、出来たてのグラタンとサラダ、水差しが置いてあった。
朝食を食べても特に体に異常は無かったので、問題は無いだろう。
おいしそうな食事を見てふっと思い出す。
......グラタンは、昨晩の夕飯になるはずだった。
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次回から、-象牙の塔- 編になります。




